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PAPYRUS

考えたことや調べたことを残しておこうと思います。

腰か仙腸関節か - 仙腸関節機能障害のスペシャルテスト

前のセメスターで下肢の評価を学びました。その中で仙腸関節の評価も少し触れて、面白いなと思ったことがあったので書いておきたいと思います。

 

仙腸関節の痛みは仙腸関節が位置するお尻のあたりに出ることが多いですが、腰椎や仙骨からの症状と似ているときがある上に、仙腸関節の痛みを引き起こす特有の動きや姿勢がないことから、仙腸関節の機能障害を診断・評価するのはとても難しいと言われています。1

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また、仙腸関節の評価は症状の観点だけではなく、身体検査(physical examination)の観点でも難しいと言えます。これは何故かと言うと高い正確性を持った仙腸関節の機能障害のためのスペシャルテストがないからです。1,2

 

そこで仙腸関節の機能障害のrule-in・rule-outの方法として授業で学んだのは5つのスペシャルテストを「スペシャルテスト群」として用い、その5つのうち3つ以上が陽性だった場合に仙腸関節の機能障害が陽性であるとする考え方です。1,3

そのスペシャルテスト群を構成する5つのテストはCompression Test、Distraction Test、Thigh Thrust Test、Geanslen Test、Sacral Thrust Testです。1,3 下にそれぞれのテストの動画を貼りましたので、そちらをご参照ください。

 

Compression Test


Distraction Test


Thigh Trust Test


Geanslen Test


Sacral Thrust Test


それぞれのスペシャルテストの正確性に関するデータは🔽の表の通りです。Thigh thrust testが最も高いsensitivity (0.88) を持っていて、Distraction testが最も高いspecificity (0.81) を持っていることがわかりました。1 これらの数値から考えると、thigh thrust testとdistraction testが両方陽性であれば、決定的とは言えなくてもかなり高い確率で仙腸関節の機能障害があると言えるでしょう。

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🔽の表は5つ(Gaenslen testは左右両方テストするので実質的には6つ)のテストのうち、いくつ以上陽性があるかで正確性を比べています。

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注目すべき点は以下の2点です。

▶️1 or more positive tests (ひとつ以上陽性) の場合のsensitivityは1.00。つまり5つのテストが全て陰性であれば仙腸関節機能障害はrule-outできるということ。

▶️3 or more positive tests (三つ以上陽性) の場合、sensitivityを下げずにspecificityを上げることができる。つまり、三つ以上陽性があったかどうかで機能障害があるかどうかを判断した場合に最も正確に評価・診断できるということ。

 

また、gaenslen testを除いた4つのテストのうち2つ以上陽性、という場合にも高いsensitivityとspecificityを保つことができることがわかりました🔽。

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🔽のチャート1、とてもわかりやすいと思ったので貼ってみました。ここで推奨される評価の流れは、臀部痛を訴える患者にまず最初に高いsensitivityとspecificityを持つthigh thrust testとdistraction testを試し、両方陽性だったら仙腸関節機能障害をrule-in。そうでない場合、他のテストを試し、最終的に(gaenslen testを除く4つのテストのうち)2つ以上が陽性であればrule-in。全て陰性であればrule-out、というものです。

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ここで少し紛らわしいのは、椎間板に問題があって腰部や臀部に痛みが出ている場合、仙腸関節に問題がなくても上で紹介したようなスペシャルテストが陽性になってしまう点です。3 その問題を解決するには🔽のチャートに示されたように仙腸関節のテストをする前にその痛みが椎間板由来かどうかを確かめることが重要であると言われています。3 

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痛みが椎間板由来かどうかを判断するのに、ここで紹介している研究3で使用された方法はマッケンジー・アセスメント(McKenzie Assessment)という方法です。

🔽の図(参考文献4の論文より)のような動作を繰り返した時の症状を観察します。3 痛みなどの症状が末梢へ出たり(peripheralization*)、末梢に出ていた症状が中枢へ来たり(centralization*)したら、その症状は椎間板由来とします。3

*centralizationやperopheralizationなどの用語を深く理解するには元の文献を読まれることをお勧めします。うまく日本語にできているかわからないので...

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マッケンジー・アプローチのレビュー5の中でわかりやすい(?)表があったので貼ってみました🔽椎間板由来の痛みはDerangementsに分類されます。

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椎間板由来ではない腰痛は最終域で痛みが観察されるのに対し、椎間板由来の腰痛は最終域に到達する前から、動かしている段階でも痛い、という点も評価の際に役立つかもしれません。5

 

最初に椎間板由来の痛みをrule-outすることで、仙腸関節の「スペシャルテスト群」の正確性がより高まったことも報告されており、3 腰部や臀部の評価はより包括的はアプローチが大切だなと思いました。

 

参考文献

1. Laslett M, Aprill CN, McDonald B, Young SB. Diagnosis of sacroiliac joint pain: validity of individual provocation tests and composites of tests. Man Ther. 2005;10(3):207.

2. Dreyfuss P, Michaelsen M, Pauza K, McLarty J, Bogduk N. The value of medical history and physical examination in diagnosing sacroiliac joint pain. Spine. 1996;21(22):2594-2602.

3. Laslett M, Young SB, Aprill CN, McDonald B. Diagnosing painful sacroiliac joints: A validity study of a McKenzie evaluation and sacroiliac provocation tests. Aust J Physiother. 2003;49(2):89-97.

4. Machado LA,Tulder M, Lin CC, Clare H, Hayden JA, Costa LM. The McKenzie method for chronic non-specific low-back pain (Protocol). Cochrane database of systematic reviews. 2012.

5. Donelson R. The McKenzie approach to evaluating and treating low back pain. Orthop Rev. 1990;19(8):681.

 

 

 

FAAM - 患者立脚型評価

今回は患者立脚型評価 (patient-reported outcome) のひとつであるfunctional ankle ability measure (FAAM) を紹介しようと思います。

 

まず、患者立脚型評価とは何かというと、傷害や疾患に関して患者自身が行う評価です。多くの場合、質問紙形式で、患者はそれぞれの質問に関して最も当てはまる答えを選択肢の中から選ぶ、というとてもわかりやすいものです。

 

今回取り上げたいと思ったのはこちらのFAAM⏬

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FAAMには2つのスケールがあり、上はADLに焦点を当てたもの、下はスポーツ活動に焦点を当てたものです。

ADLのスケールでは、例えば、立つこと平らな地面を歩くこと裸足で歩くことなどがどれくらい難しいか(全く難しくない、少し難しい、まあまあ難しい、とても難しい、不可能)を答えます。

 

このような質問紙を使うメリットは普段の問診ではあまり聞かないこと、または聞き忘れてしまうことを含めて足部や足関節の機能に関して、網羅的に患者の情報を得られることがまず第一にあげられると思います。

 

また、ここで評価される足部・足関節の機能はクリニシャンが測ったものではなくて、患者自身がどのようにそのコンディションを認知しているかを測るものです。アメリカのヘルスケアではpatient-centered careといって患者の価値観や好み、ニーズに応じたケアを提供することが大切だとされています。このような質問紙を用いることで、患者自身がそのコンディションに対してどのように思っているのかを評価することができ、患者の価値観やニーズと照らし合わせて、治療やリハビリにおいて、何を優先すべきなのかという判断をより効率的にできるかもしれません。

 

また、結果は数値化されるので、定期的に質問紙を用いた評価を繰り返し、クリニシャンが提供しているリハビリのプログラムが有効かどうかをその数値の変遷をもとに判断することもできます。

 

FAAMに関するエビデンスを紹介すると、信頼性(reliability)、妥当性(validity)ともに高く(test-retest reliability: ICC=0.87-0.89)、検出可能な最小限の変化(minimal detectable change; 95%CI)はFAAM-ADLが5.7ポイント、FAAM-Sportsが12.5ポイントです。1

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上の画像は⏬のリンク先のウェブページからいただきました。妥当性と信頼性の説明もこちらでされています。

検出可能な最小限の変化とは、測定のエラーではなく実際の変化が起こったことによるスコアの変化の最小値です。FAAM-ADLの検出可能な最小限の変化は5.7ポイントなので、FAAM-ADLのスケールのスコアが5.7ポイント以上上がったら実際に足部・足関節の機能は向上されたと言えるということです。

 

スコアの計算の仕方は、各質問項目にて得られたポイントを合計し、FAAM-ADLはそのスコアを84で割って100をかけた値、そしてFAAM-Sportsは32で割って100をかけた値がそれぞれの最終スコアです。0が最小、100が最大で、100が最も良い値です。1

 

2015年にFAAM日本語版の妥当性・信頼性も証明されているようですが2、日本語でググってもそれらしい質問紙を見つけられることはできませんでした。日本語版のFAAMはどうやったら使用できるのでしょう??(著者から判断すると、私の日本の大学の出身ゼミで翻訳と妥当性・信頼性の研究が行われたのだと思いますが...)

 

患者立脚型評価がアスレティックトレーニングでも盛んに取り入れられるようになった背景は、アスレティックトレーニングという分野が他のヘルスケアの分野(例えば理学療法士など)に比べて少し遅れをとっているという現状が関連すると聞きました。それを克服するために、トリートメントの効果を数値として証明し、アスレティックトレーナーが提供するトリートメントの価値を高めようという試みのひとつとして導入され始めたそうです。

 

今まであまり測られることのなかった患者側のコンディションへの認知を質問紙を使い数値化して評価しようというのが患者立脚型評価の目的です。

 

最初に授業で患者立脚型評価のことを学んだとき、ただでさえ混み混みのATルームで質問紙を評価に導入するなんて、ちょっと面倒くさいなと思ったのが正直な感想でした。でもその背景を理解すると、毎回の記録が後々自分のトリートメントの効果を証明し、ひいては自分の職業の価値を高めることに繋がり得るとわかり、いつか日本でも実践したいなと思いました(ので、紹介程度に書いてみました)。

 

 

参考文献

1. Martin RL. The development of the Foot and Ankle Ability Measure, ProQuest Dissertations Publishing 2003.

2. Uematsu D, Suzuki H, Sasaki S, et al. Evidence of Validity for the Japanese Version of the Foot and Ankle Ability Measure. J Athl Train. 2015;50(1):65-70.

 

 

アスレティックトレーニング教育

 

今回はアスレティックトレーニング教育について書こうと思います。 

私は日本でも一応アスレティックトレーニングを勉強しました。それなのになぜ卒業後すぐにアスレティックトレーナーとして働くという道を選ば(べ)ず、勉強を続けることにしたかというと、日本で勉強した2年間でプロのアスレティックトレーナーとして働く自信をつけることができなかったからです。

 

アメリカでも学部のプログラムを修了し資格を得た多くのアスレティックトレーナーが大学院へ進学することを考えると、アメリカでもあまり状況は変わらないのかな、と思えなくはありませんが、私は決定的な違いがあるように感じます。

 

それは学部を卒業した直後から、大学院に進むにせよ、インターンシップをするにせよ、アスレティックトレーナー(大学院の場合GA)として働くことで生活ができる程度のお金をもらえる場合が多いということです。

アメリカではアスレティックトレーナーという職業の認知度が日本より高いということもありますが、これはアスレティックトレーニング教育プログラムや資格への世間からの信頼度が高い証拠ではないかとも思います。

 

最近では「アスレティックトレーニング教育」も科学の対象となり、アスレティックトレーニング教育プログラムも研究や調査の結果を踏まえて、絶えず改良が加えられているのを生徒である私自身も感じます。

 

今回はアスレティックトレーニング教育に関してどのような研究・調査が行われているのかをいくつか例をあげながらまとめられたらと思います。

 

先に、私は日本の大学での勉強を通してプロとして働く自信を得られなかったと書きました。アメリカのアスレティックトレーニング教育プログラムにおいても、学生がプログラムを修了する際にプロとして働く準備がどれほどできているかということは大きな関心事です。

 

アスレティックトレーニング教育プログラムを修了する大学四年生にインタビューをし、どのような要素がプロとして働くための準備状態に影響を与えたかを調査した研究1がありますが、この研究では現場実習の多様性 (diversified clinical experience) と良いメンターを持つこと (strong mentorship) が鍵だと述べられています。

 

様々なスポーツ現場で実習することにより、自分自身のスキルや能力に自信を持てるようになったり、アスレティックトレーナーという職業を多角的に理解できるようになるようです。1また、多様な経験を積むことで自分の長所や関心を理解し、自分が働きたい環境を明確化できたという声もあります。1卒業を控えた四年生の多くは自分が働きたい環境に必要なスキルや知識を求めて卒業後の進路(大学院、インターンシップなど)を決める2ということもありプログラム在籍中に幅広い経験から自分を知ることができるのは良いことなのかもしれません。

 

ここでの「メンター」とはアスレティックトレーニング教育プログラムの教授やプリセプター(実習での指導者)のことを指します。プログラム中、メンターはアスレティックトレーナーとしての役割や責任の理解を深めてくれます。1また、プリセプターは学生のロールモデルとなり、学生はプリセプターが他のスタッフとの衝突やワークライフバランスの問題にどのように対処するのかを見ながら職場での振る舞いを学びます。1,3

 

従って、この研究の結論は、プリセプターと学生間のメンターシップを促進することと、学生を多くのスポーツ現場で学ばせることが、学生のアスレティックトレーナーという職業への理解や自分のスキルや知識への自信を高めることにつながる、というものでした。1

 

日本での活動を振り返ると、私が学生トレーナーとして所属したのは女子バレーボール部のみで、現場実習の多様性はなかったと言って良いと思います。そのチームの中でのメンターは博士課程に所属していた理学療法士の方でした。監督の意向で、その方が中心というよりは、私が中心となって色々決めて、その方は私のアドバイザーのような立場で私のことを育ててくださいました。

 

確かに、バレーボールにしか関わらなかったので、そこで出会わなかった怪我、特に頭頸部の怪我には特に自信がないし、今のように毎日プリセプターと会話ができて評価やリハビリのフィードバックを貰えたらもっと自信がついていただろうなとも思います。

 

ですが、日本での経験が駄目だったとか最悪だったとは今となっては全く思いません。現在アメリカで2箇所の現場で実習をしましたが、やはりセメスター毎に実習先が変わると、大きな怪我を受傷から競技復帰までみる機会がなかったり、選手との信頼関係ができた頃に離れなければならないという側面もあります。日本(私が卒業した日本の大学)では学生トレーナーはそのチームに所属し、目標を共有し、長くそのチームと向き合います。私自身のチームスタッフとしての心構えはチームの一員として選手やコーチと同じ熱量で闘った経験から築いたものだと私は思います。

 

また、アメリカでは学生はとても手厚く守られています。資格のあるアスレティックトレーナーの監督なしでは活動ができないし、何かあったとしても基本的には監督しているアスレティックトレーナーの責任です。日本では練習や試合をカバーしているのはその部に所属する学生トレーナーだけ、なんていうのはざらにあることで、「自分がやらなければ」という状況に置かれた日本の学生トレーナーの本気度・アツさはアメリカにはあまりないようにも感じます。

 

制度的に整っているのは絶対的にアメリカですが、私が日本で得た経験も大切なアスレティックトレーナーという職業の一側面だと思うのです。

 

次はプログラムを卒業した直後のGA(graduate assistant)の評価に関しての研究4です。 GAは大学のためにパートタイムで働くことで授業料が免除され、給料が支給される大学院生のことです。学部でアスレティックトレーナーの資格を取った人が大学院で勉強を続けながらGAとして大学のスポーツチームやその周辺の高校などで働くのは、全ATCの7割以上が修士号を持っている今、メジャーな進路です。学部を卒業したあと、すぐに大学院に進学する人が多いので、GAは資格取得後、アスレティックトレーナーとしての最初の仕事である場合が多いと言えます。

 

8年以上GAを監督した経験のある21人のアスレティックトレーナーにインタビューをすると、近年のGAの知識レベルは今までになく高いことを実感しているが、自主的に働きかける能力が欠けているという課題が浮かび上がりました。

 

1992年の調査5でもリハビリ、組織づくりや運営、アスリートのカウンセリング、コーチ・親・アスリートへの教育が課題としてあげられていましたが、依然として組織作りや運営、幅広いコミュニケーションが新米アスレティックトレーナーの課題としてあげられる4ということは、アスレティックトレーニング教育プログラムではこれらの経験を在学中に学生が得られるよう強調していかなければならないのかもしれません。

 

先にアメリカの学生は守られていると述べましたが、アメリカでは自分から積極的に行動しないと学生がコーチとコミュニケーションを取る機会も限られているし、アスレティックトレーナーが選手を管理するという視点も学生では持ちにくいのではないかと感じます。

 

私もまだ学生で偉そうなことは言えませんが、生徒側もこのような視点を持つことはとても大切だと思うのです。守られている環境に安住せず、自分が雇われていると思って実習をすれば、もっと働く上で重要な力をつけられるだろうなと思います。

 

私は将来、日本の大学でアスレティックトレーナーを教えたい・日本のアスレティックトレーニング教育を充実させたいという思いがあります。確かにアメリカのアスレティックトレーニング教育はとても進んでいますが、ここに書いたように課題もまだあります。大切なのは課題を把握し「より良い」を求めて議論をすることではないでしょうか。

                                       

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参考文献

1. Mazerolle SM, Benes SS. Factors influencing senior athletic training students’ preparedness to enter the workforce. Athl Train Educ J. 2014;9(1):5-11.

2. Mazerolle SM, Gavin KE, Pitney WA, Casa DJ, Burton L. Undergraduate Athletic Training Students' Influences on Career Decisions After Graduation. J Athl Train. 2012;47(6):679-693.

3. Mazerolle SM, Borland JF, Burton LJ. The Professional Socialization of Collegiate Female Athletic Trainers: Navigating Experiences of Gender Bias. J Athl Train. 2012;47(6):694-703.

4. Thrasher AB, Walker SE, Hankemeier DA, Pitney WA. Supervising Athletic Trainers' Perceptions of Graduate Assistant Athletic Trainers' Professional Preparation. Athl Train Educ J. 2015;10(4):275-286.

5. Weidner TG, Vincent WJ. Evaluation of professional preparation in athletic training by employed, entry-level athletic trainers. J Athl Train. 1992;27(4):304-310.

 

 

 

 

 

 

怪我をしやすい心理・リハビリが長引く心理

リハビリテーションの授業で使っている教科書に『Psychological Aspects of Rehabilitation』という章がありました。テスト勉強のためにじっくり読んでいたのですが、面白いなと思ったのでまとめてみることにしました。

 

思えば今まで、怪我をした選手の身体を競技復帰まで回復させていくことには一生懸命でしたが、あまり心にはアプローチしていなかったなと思います。日本では特に心・メンタルは自分で何とかするものという意識が選手自身にも、周囲にもあるような気がするし、体系立てて怪我人の心をサポートするという取り組みはどこに行ってもあまり見られなかったように思います。

 

今回この記事を書くことで、今後「心と身」両方へアプローチする包括的なリハビリを考えられるようになれれば良いなと思っています。

 

さて、怪我をしやすい人ってどんな人だと思いますか?

筋力、筋持久力、柔軟性、固有感覚、、、身体的要素はたくさんあがりますが、心理的要素はどうでしょう。

 

WilliamsとAndersonのStress and Injury Modelによれば、1) たくさんのストレッサーの経験がある人*、2) ストレス反応を悪化させやすい人、3) ストレスコーピングの手段が少ない人が怪我をしやすいのだそうです。これらの傾向のある人はストレスフルな状況に置かれたとき、そうでないひとよりも、その状況をよりストレスフルな状況であると認知し、注意が削がれ(注意を向ける範囲が狭くなったり、自分の外ではなく内側に注意を向けがちになり)怪我をしやすくなるようです。1

* 例: 主要なライフイベント、日常のストレス、怪我の経験

 

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その他にも不安傾向の高い人 (high trait anxety) や自尊心 (self-esteem) が低い人、苛つきやすい人は傷害リスクが高いと結論づける研究や、ジュニア世代のサッカー選手においてネガティブなライフイベントのストレスが傷害リスクを高めるという研究もあります。2-6

 

16歳から36歳のサッカー選手の傷害発生を4ヶ月間追った研究では、その4ヶ月間で怪我をした人たちは怪我をしなかった人たちと比べると、ストレスコーピングのスキルとして、逃避(behavioral disengagement; ストレッサーと闘うのを諦めたり身を引いたりすること)と自己批判(self-blame; ストレスフルな状況が自分に起因すると考えること)の2つのパターンを頻繁に使っているという結果になりました。5

 

ここに挙げられた特徴を見ると、とてもざっくりとですが、全体的には不安傾向が強くてストレスを溜め込みやすい人や、ストレスに対してうまくコーピングができない人が怪我をしやすい人だと言えるのかなと思います。

 

また、ネガティブなライフイベントが傷害リスクを高めるという結果から、普段はうまくストレスをコーピングできる人でも、大きなストレス(例えば、極端なところで親の死や、もう少し身近なところで失恋など)によって怪我のリスクは上がるだろうと言えると思います。

 

環境がガラッと変わる部活の新入生、特に大学一年生は初めて親から離れて暮らす人も多く、これはとても大きなストレスになり得ます。こういった時期には「いつもどうやってストレス解消してるの?」「何をするのが好きなの?」なんて会話を意識的にしてみるのもいいかもしれません。

 

次は怪我への反応です。

Wiese-Bjornstalらが提唱したIntegrated Model of Response to Sport Injury Rehabilitationでは、『アスリートがその怪我をどのように認知するか、どのような感情的な反応(その怪我に対してどう感じるか)や、行動的な反応(怪我が起きたという状況に対してどう対処するか)をするかは個人的な要素(性格、コーピングスキル、気分、健康状態、食生活、etc.)や環境的な要素(競技、怪我人へのサポート体制など社会的・環境的要因)によって決まる』と言われています。7

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例えば健康状態が変われば、怪我への認知も、抱く感情も、取る行動もそれによって変わるということです。これだけ多くの要素が影響するので、認知・感情・行動はリハビリ期間中、ポジティブになってみたりネガティブになってみたり流動的に行ったり来たりします。この心理的な行ったり来たりのサイクルがリハビリの質や進度に大きな影響を与えるとも言われています。7

 

さて、問題はリハビリ中、ATがどのように選手をサポートできるかです。

NATAに登録しているATCのうち1000人にメールを送り、リハビリ中の選手の心理的側面に関する調査を行った研究があります。8

 

1000人のうちレスポンスがあったのは226人。そのうち182人がSucceessful Coping Behaviorとして挙げた項目は『positive attitude; 前向きな姿勢』、次に多かったのは149人で『adherence and treatment compliance; 指示したことを忠実に実行しようとすること』、3番目は38人で『seeking out social support; 社会的な支援を得ようとすること』、最後に26人で『using psychological strategies; 心理学的な対処方法を利用しようとすること(自分のリハビリのゴールを設定するなど)』でした。8

 

逆にUnsuccessful Coping Behaviorとして挙げられたのは、『poor adherence and attendance; 指示に従おうとしないことやリハビリに来なくなること』が最多で75人、次に『negative attitude; 後ろ向きな姿勢』が73人、3番目が『avoidance and withdrawal; ATやコーチ、チームメイトを避けるようになること』で70人、4番目は『poor effort and motivation; 努力やモチベーションが欠けていること』で69人、最後は『negative affect; ネガティブな感情(怒り、落ち込み、気分の上がり下がりなど)』で63人でした。8

 

この調査の他にも『rehabilitation and treatment compliance; リハビリやトリートメント中に指示に従うこと』が怪我というストレスにうまくコーピングすることができた選手の重要な特徴であり、『lack of adherence or poor compliance; 忠実に指示に従わないこと』がうまくコーピングできなかった選手の1番の特徴であったとする研究もあります。9,10

 

つまりリハビリ中、選手をsuccessfullな方向へ導くためには、いかに前向きにリハビリやトリートメントに従事させるかが大きな鍵になるということでしょう(なんかとても当たり前のことを言っている気がしますが...)。

 

上の研究の中で有効であるだろうと言われていた方法は、ATがリハビリのプロセスを選手によく教育して理解させること。それから、ATがリハビリのエクササイズの目的、競技復帰のためにどのように役に立つのかを明確に説明すること、リハビリのエクササイズの種類に幅を持たせること。8

 

他には、リハビリのエクササイズを一緒に行ってくれるバディを見つけること、同じ怪我からリハビリを通して競技復帰を果たした仲間とコミュニケーションを取らせる、など。8

 

もしもこれらの対策を用いても、ほとんど意味がない(例えばリハビリに来ない、来ても真剣に取り組んだり指示に従う意欲を見せない)場合には、より根深い問題のサインかもしれないのでメンタルヘルスの専門家に相談することを考えたほうが良いかもしれません。8

 

また、選手が怪我をしたというストレスを受け入れられていない状態や受け入れるのに苦労している状況では、チームの活動になるべく多く参加させることや、リハビリの短期目標を一緒に設定することなども有効だと言われています。

 

これは、授業中に先生がおっしゃったことですが、モチベーションの上がらない時にはSNSに自分のリハビリの写真を載せてみるようにアドバイスをするそうです。多くの場合、友達が応援のコメントをくれますね。「社会的な支援」というと大袈裟に聞こえますが、確かに現代ではSNSは支援の言葉をかけてもらうのに一番身近な場所かもしれません。

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話は変わります。『強いメンタル』ってなんでしょう?

私は調べてみて、『ストレスに耐える力』ではなくて『ストレスを解消する力』だと思ったんです。性格や日々のストレスやライフイベントのストレスは変えようと思っても難しい場合が多いと思います。不安傾向の強い人はやはりずっとそういう傾向にある気がするし、日常のストレスに関しても、「あ!卵と牛乳買い忘れたー!!」さえちょっとしたストレスです。ましてや家族の死などの折にストレスを感じずにいられる人はいないでしょう。

 

ストレスを感じることが悪いことなのではなく、ストレスにうまく対処する(コーピングする)スキルを持っていることが『メンタルの強さ』なのではないでしょうか。これからアスリートと関わるとき、コーピングを促すことが私のひとつの役割になるのかなと思います。

 

スポーツでの『メンタルの強さ』はここ一番というときに実力を発揮出来ることや、ストレスフルな状況でも強気に立ち向かえること、というイメージがありますが、これらは『一心不乱』な心の状態で達成されると思います。ストレスによって怪我のリスクが上がるメカニズムが、ストレスによって注意が妨げられることで怪我が起こりやすくなる、ということを考えると、ストレスをうまくコーピングできず蓄積した状態はやはりスポーツにおける『メンタルの強さ』にも影響するのかなと思いました。

 

 

参考文献

1. Williams JM, Andersen MB. Psychosocial antecedents of sport injury: Review and critique of the stress and injury model. JOURNAL OF APPLIED SPORT PSYCHOLOGY. 1998;10(1):5-25.

2. Petrie TA. Coping Skills, Competitive Trait Anxiety, and Playing States: Moderating Effects an the Life Stress-Injury Relationship. Journal of Sport and Exercise Psychology. 1993;15(3):261-274.

3. Smith AM, Stuart MJ, Wiesebjornstal DM, Milliner EK, Ofallon WM, Crowson CS. COMPETITIVE ATHLETES - PREINJURY AND POSTINJURY MOOD STATE AND SELF-ESTEEM. MAYO CLINIC PROCEEDINGS. 1993;68(10):939-947.

4. Johnson U, Ivarsson A. Psychological predictors of sport injuries among junior soccer players. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2011;21(1):129-136.

5. Ivarsson A, Johnson U. Psychological factors as predictors of injuries among senior soccer players. A prospective study. Journal of Sports Science & Medicine. 2010;9(2):347-352.

6. Junge A. The influence of psychological factors on sports injuries - Review of the literature. AMERICAN JOURNAL OF SPORTS MEDICINE. 2000;28(5):S10-S15.

7. Wiese-Bjornstal DM, Smith AM, Shaffer SM, Morrey MA. An integrated model of response to sport injury: Psychological and sociological dynamics. JOURNAL OF APPLIED SPORT PSYCHOLOGY. 1998;10(1):46-69.

8. Clement D, Granquist MD, Arvinen-Barrow MM. Psychosocial Aspects of Athletic Injuries as Perceived by Athletic Trainers. JOURNAL OF ATHLETIC TRAINING. 2013;48(4):512-521.

9. Larson GA, Starkey C, Zaichkowsky LD. Psychological aspects of athletic injuries as perceived by athletic trainers. SPORT PSYCHOLOGIST. 1996;10(1):37-47.

10. Arvinen-Barrow M, Hemmings B, Weigand D, Becker C, Booth L. Views of chartered physiotherapists on the psychological content of their practice: A follow-up survey in the UK. JOURNAL OF SPORT REHABILITATION. 2007;16(2):111-121.

  

CAI 論文レビュー: Sensorimotor Function

続きを書くと言いながら、全然書けていなかった記事がたくさんありますが、その中のひとつ、CAI (Chronic Ankle Instability) に関して、最近授業で読んで面白かった論文があるので日本語でまとめてみようと思います。

 

1年前にCAIについて書いた記事があるので興味があればお読みください。

 

CAIとは足首の捻挫後、長く続く不安定感のことです。従来、足首のリハビリといえば筋力やバランスなどのmotor outputにフォーカスする傾向にありますが、そのような方法ではCAIの発生率を減らすことはできないと言われています。

 

そこで今回紹介する研究1では、従来のmotor outputではなく、sensory inputに焦点を当てたトリートメントが、CAIの改善に有効かどうかを検証しました。その研究がこちら➡️Sensory-Targeted Ankle Rehabilitation Strategies for Chronic Ankle Instability (Mckeon & Wikstrom, 2016)。

 

上に貼った記事の中でも反射の説明をしていますので詳しくはそちらを参照していただきたいと思いますが、反射によるpostural controlは、sensory input ➡︎ 脊髄反射 ➡︎ motor outputという流れで成立します。Sensory inputに焦点を当てるというこの研究は、feed-back (sensory input) の情報量を増やすことで、adjustment (motor output) の改善できる可能性があるだろうという仮説のもとに考えられたものです。

 

▶︎研究デザイン

Randomized controlled trial 

 

▶︎被験者

2012年1月から2014年2月までにアメリカ国内の3つの公立大学からリクルートされたCAIを持つ一般の人口(教授、学生、職員など)

ここでのCAIの定義は、1) 過去6ヶ月以内に最低2回giving awayを経験したこと、2) FAAM*において患側が健側の90%以下、そして3) FAAM Sports**において患側が健側の80%以下

* ** 主観的な足首の機能

 

▶︎介入(トリートメント)

各グループ、2週間で6回、5分間のトリートメント

1) 足関節モビリゼーション(Oscillation Grade III で 2分 X 2セット)

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2) 足底マッサージ(5分間)

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3) ふくらはぎストレッチ(3セット X 3分間 10秒レスト)

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4) コントロール群

 

▶︎アウトカム

1) Patient-oriented measurements (最後のトリートメントから72時間以内と1ヶ月後のフォローアップの2回測定)

FAAM、 FAAM Sports、 giving awayの回数、 NASA PASS(有酸素的なフィットネスレベルの指標)

 

2) Clinician-oriented measurements (1回目のトリートメントの直後と最後のトリートメントの72時間以内の2回測定)

荷重下での背屈可動域、片足バランス

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▶︎結果

1) Patient-oriented measurements

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どのトリートメントがどのoutcome measurementにおいて有効だったのかを表に示しました。⭕️はコントロール群と比較して有意差あり (p=0.10) かつMDC (minimal detectable change) を上回る、❌はそれ以外。

 

最後のトリートメントから72時間以内⬇︎

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1ヶ月後のフォローアップ⬇︎

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2) Clinician-oriented measurements

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ここでも同じように表にまとめました。

 

一回目のトリートメントの直後⬇︎f:id:miwakosuzuki:20170212140333p:plain

 

最後のトリートメントから72時間以内⬇︎

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▶︎結論

Sensory inputをターゲットとした3種類のトリートメントは、それぞれCAIを持った患者の主観的な足関節の機能、荷重時の背屈または片足バランスを改善した。

 

私がこの研究が面白いなと思ったのは、自分自身が今までここで使われた3種類のトリートメントを「sensory inputを改善する」という目的で行ったことがなかったからです。例えばストレッチは筋の柔軟性獲得のためとか関節モビリゼーションは痛みの軽減・可動域獲得のためなど、他の目的で行ったことはありますがsensory inputという観点には注目していませんでした。

 

3つのトリートメントの中で機能・可動域・バランスの全てにおいて改善が見られたものはなかったことから、ストレッチ・マッサージ・関節モビリゼーションはどれも万能なトリートメントではないということがわかりますがこれらを組み合わせることでより多くのベネフィットを得ることができるでしょう。

 

 

この論文を読んだあと、たまたまYoutubeで「あれ、なんか聞き覚えがあるなぁ」という情報に出会いました。26分ごろから始まる一流スポーツ選手の共通点に関する話題です。スポーツ記者が様々な一流スポーツ選手を取材する中で、彼らは10歳までに足裏をたくさん刺激していることに気づいたと言います。


もちろん科学的に証明できている訳でもなんでもありませんが、一流スポーツ選手特有のpostural controlの能力の高さは、もしかしたら神経系の発達が著しい幼少期に足の裏にたくさん刺激を受けることで培われたという側面があるかもしれないのかな、ということを考えながら聞いていました。

 

 

参考文献

1. McKeon PO, Wikstrom EA. Sensory-Targeted Ankle Rehabilitation Strategies for Chronic Ankle Instability. Med Sci Sports Exerc. 2016;48(5):776-784.

 

今更だけど羽生くんの一件を考えてみる。

今更ですが、2014年にあったフィギュアスケートの羽生くんの試合直前公式練習での衝突事故、それから棄権せずに試合に臨んだ一件について考えてみようと思います。 

 

日本では大きなニュースになったと思うので何があったかを知らない人はあまりいないと思いますが、試合直前の衝突の映像を見つけたので貼ります。正直私は手術の映像は全然平気ですが、意識のある人が痛がってる映像は結構苦手です。この映像もとても痛々しいです。苦手な方は見ないことをお勧めします。

 

    

 

さて、このとき羽生くんは脳震盪を起こしていたと言われています。今回は脳震盪がどういうものなのかを脳震盪のコンセンサス・ステイトメント (The 4th International Conference on Concussion in Sport)1 やNATAのポジション・ステイトメント2、それからいくつかのレビュー記事をまとめながら勉強してみようと思います。

 

脳震盪のコンセンサス・ステイトメント1では脳震盪は以下のように定義されています。

 脳震盪は脳の傷害で、生体力学的な力によって引き起こされ、脳に影響を及ぼす複雑な病理生理学的なプロセスと定義される。

Concussion is a brain injury and is defined as a complex pathophysiological process affecting the brain, induced by biomechanical forces.

 

 

また以下の4点も脳震盪を定義する上で知る必要があります。

1. 脳震盪は頭部への直接的な衝撃だけでなく顔や首、その他の部位においても頭部へ衝撃が伝わる場合には起こりうる。

Concussion may be caused by a direct blow to the head, face, neck, or elsewhere on the body with an ‘‘ impulsive’’ force transmitted to the head.

 

2. 脳震盪の神経性の症状はたいてい一時的で自然に解消されるが、数分または数時間のうちに症状や徴候が強くなる場合もある。 

Concussion typically results in the rapid onset of shortlived impairment of neurologic function that resolves spontaneously. However, in some cases, symptoms and signs may evolve over a number of minutes to hours.

 

3. 脳震盪は神経病理的な変化が起こるときもあるが、急性の臨床的な症状は脳の構造上のダメージが理由というよりは、機能上の問題に起因していて、そのような場合にはCTやMRIなどの画像には異常が見られない。

Concussion may result in neuropathologic changes, but the acute clinical symptoms largely reflect a functional disturbance rather than a structural injury, and as such, no abnormality is seen on standard structural neuroimaging studies.  

 

4. 脳震盪は段階的な臨床症状を引き起こすが、必ずしも意識をなくすとは限らない。一般的には臨床症状と認知能力の低下は徐々に解消・回復されるが、症状が長引く場合もあることを知っておかなければならない。

Concussion results in a graded set of clinical symptoms that may or may not involve loss of consciousness. Resolution of the clinical and cognitive symptoms typically follows a sequential course. However, it is important to note that in some cases symptoms may be prolonged.

 

下の表は脳震盪の症状や兆候をまとめたものです。3

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上の表の中には「混乱 (confusion) 」「方向感覚の喪失 (disorientation) 」「集中不可能 (inability to focus) 」という症状が含まれていますが、実際にはどういうことなのか体験談を探してみました。

     

いくつか特徴的な発言をあげると明らかに認知の機能に支障があったことがわかります。

アニメでよくあるように星が見えた

話しかけてくる (一人の) 相手が2カ所にいるような感じがして、この2つをくっつけるように集中しなければいけなかった

話しかけられても聴こえてはいるけど聞いてはいなかった

自分をリモートコントロールしているような感覚だった

   

このビデオではは大きな衝撃のあと明らかにフラフラしている選手の姿がいくつか映されています。

            

 

さて、脳震盪が起きた後の対応についてですが、どの文献においても、どの競技の協会のガイドラインにおいても受傷したその日に競技に復帰することはあってはならないと述べられています。脳震盪を起こした選手を練習や試合から外さずに、1回目の脳震盪の症状が回復されないうちに2回目のインパクトがあると、セカンドインパクトシンドロームというまさに命に関わる状況へ発展してしまう恐れがあります。そのため、アスリートの命を守るためにも受傷が疑われる状態には敏感に反応して、受傷した選手を練習から外さなくてはなりません。

 

上に貼ったビデオはとてもわかりやすい例ですが、ここまで明らかでないことも往々にしてあります。私自身の経験でも日本の大学学部時代、バレーボールの練習中に予期せず一人の選手の頭にスパイクが当たって、少しの間動けず頭痛や気持ち悪さを訴えたことがありました。怖いのはコーチや他の選手からはプレー続行可能に見えることです。また、受傷した選手自身がそこまで重く捉えていない場合もあるし、周りからの「プレーできるだろ」という視線を感じてプレーに戻ろうとする場合もあります。

 

結局、私はそれが起きた日にその選手をその日の練習から外すことはできませんでした。 また、その日、他の選手から、ボールが顔にあたったくらいで練習から抜けさせようとするのは私がその選手を甘やかしてるんじゃないかという指摘も受けました。前もってチーム全体に脳震盪というものを説明をしておらず脳震盪が起きたときに私が取るべき態度を示していなかったこと、またそれによってチームの中で不満が色々な方向へ生まれてしまったことを反省しました。

 

 

NATAのポジション・ステイトメントには教育 (education) と予防 (prevention) という項目が設けられ、アスレティックトレーナーはコーチや保護者が脳震盪に関して適切な知識を身につけられるように働きかけるべきであるということが述べられています。2

 

いざというときに選手を守れる状況を前もって整えておくことが重要だと思います。 何事にも言えることだと思いますが、非常事態が発生したとき人はそれぞれの立場の意見を主張し合って収集がつかなくなることが多い気がします。あらかじめチームのメンバーからも理解されたガイドラインを持つということは非常時の混乱を避ける上でも重要かと思います。

 

さて、上でセカンドインパクトシンドロームについて少しだけ触れましたが、ここで少しだけ説明を加えたいと思います。セカンドインパクトシンドロームとは一度脳震盪を起こした後、その症状から回復する前に再び脳へ衝撃が加わることで、脳が急激に浮腫を起こし、致死率の非常に高い危険な状態になることです。命が助かったとしても、重篤な後遺症が残ると言われています。

 

セカンドインパクトシンドロームで後遺症を煩った人の声を聞き、それを教訓としてスポーツに関わる全ての人に脳震盪の怖さを学んで欲しいなと思います。

              

プレストンはフットボールの練習中に脳震盪を受傷しました。そしてその脳震盪の症状が消える前に練習に戻り、試合に出場し、2度目のインパクトを受けました。2度目のインパクトによる症状は急激に、劇的に悪化し、一命は取り留めたものの、深刻な後遺症を残すことになりました。

I could have sat out for a season. But now I will sit out for the rest of my life.

(もうひとシーズン、フットボールから離れることもできた。でも今は自分の残りの人生から離れることになった。)

Just waking up everyday and knowing I can't do all the things that I want to do.

(( 何が一番辛いかという問いに)毎朝起きること、それから自分がしたいことが何もできないことを知っていること。)

 

     

話を羽生くんに戻します。演技中、明らかにいつもよりも転倒する回数が多かったように思います。転倒した時、頭をもう一度打っていたらどうなっていたでしょう。その当時に周りにいたメディカルスタッフは二度と繰り返してはいけない判断をしたのではないでしょうか。

 

              

 

これはスポーツ界全体、それから自分自身への戒めのようにも感じます。正直、衝突があってからの最初の対応にもかなり疑問を覚えます。何もチェックせずいきなり起こそうとしたり、スケートリンクというただでさえ不安定なsurfaceで(実際起こしに来た人、つるっと滑ってる...)もっと安全性を考えた搬出の仕方はなかったのだろうかとか...。ただ、こういう状況はその場にいる人にしかその場の緊張感はわからない。自分への戒めとは、こういう状況でも冷静に判断してより良い行動ができるように普段から心掛けなければ、ということです。

 

もう大分時間が経ってしまい、関心も少し薄れてしまったかもしれないけれど、この一件が日本でもっともっと脳震盪の対応を考える教材として使われてほしいと思います。

 

参考文献

1. McCrory P, Meeuwisse W, Aubry M, et al. Consensus Statement on Concussion in Sport—the 4th International Conference on Concussion in Sport Held in Zurich, November 2012. Clin J Sport Med. 2013;23(2):89-117.

2. Guskiewicz KM, Bruce SL, Cantu RC, et al. National Athletic Trainers' Association position statement: Management of sport-related concussion. J Athl Train. 2004;39(3):280-297.

3. Herring SA, Cantu RC, Guskiewicz KM, et al. Concussion (Mild Traumatic Brain Injury) and the Team Physician: A Consensus Statement-2011 Update. Med Sci Sports Exerc. 2011;43(12):2412-2422.