PAPYRUS

アメリカの大学院でアスレティックトレーニングを学んでいます。考えたことや調べたことを残しておく目的でブログを書いています。

生活の質: 健康な食事はとても大事

6月4日にインディアナを飛びたってから早2週間。

コネチカットで人生初の寮生活を送っております。今日の記事は何の緊張感もないただの感想文ですので、いつもの堅めの記事を求めて来てくださった方にはごめんなさいです。

 

さて、コネチカットに来て2週間ですが、今日は初めてのお休みです。先週の週末はお休みのはずが、緊急事態が発生し、急遽ボストンへ泊まりで研究のデータコレクションのお手伝いに行ってきました。

 

私のインターン先であるKorey Stringer Instituteではそれぞれが担当のプロジェクトに黙々と取り組んでいるため、最初の1週間ではあまり色々な人と話す機会もなかったし、最初の週末に泊まり込みで働けたのは仲間に打ち解けるという意味でもとても良かったです。

 

インターンでやっていることはまたいつか時間があるときに許される範囲でこのブログにまとめておきたいなと思っていますが、今日は仕事以外でのコネチカットでの生活について書きたいと思います。

 

まず何が大きく違うかというと食事。

寮に入っているので料理はできません。ミールプランを購入し、ダイニングホールでの食事です。大学での食事には正直全く期待はしていませんでした。

 

でも....

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めっちゃ美味しい... 。(毎回食べ過ぎている。)

 

そして、体調が悪くない

「体調が悪くない」というと何だか後ろ向きに聞こえますが、これ、私にとってはとても嬉しいことで、何なら最上級のハッピー💕です。

 

部活の人間関係に色々と悩み始めた高校二年生頃から、私は自分がストレスにあまり上手く対処できる方ではないことを自覚し始めました。

嫌なことがあるとひどい頭痛が始まり、それがいつもより大き目なストレスだと熱が出たり。大学生の後半は過呼吸にも苦しめられました。

 

高校から大学、大学から現在まで、たくさん悩んだのは事実ですし、自分なりの苦しい時期があったのも事実です。でも一番困ってしまうのは、大したことない日々の小さなストレスにも反応して、気づいた時には疲労困憊の状態になっていることです。特に最近(先セメスターからインディアナを離れる前くらい)は何だか結構限界に達しているようにも感じていました。

 

 

何もしてないのに朝起きるのがものすごくだるくて、目の下のくまも酷いし血色も最悪!アレルギー体質も酷く、3時間くらい外で実習して花粉に晒されたあと、学校も実習も休んで3日間寝込む...。献血に行ったら貧血で取ってもらえず。ベッドに横になって休憩する時間がないと1日体力が持たない...。疲れてどうしようもないのにぐっすり寝ることもできない...。生理のときは薬がないときつすぎて動けない...。などなど、思いつき得る「体調不良」を全部まとめてひとつにしたような状況でした。

 

医療系の勉強をしていながら、自分が毎日乗り切ることだけに精一杯。授業や実習、宿題など、やらなくてはいけないことを終えると、運動をする気力も体力もゼロ。全然自己管理ができていないのが、アンプロフェッショナルなような気がしてそれもストレス。

 

私、アメリカの大学院に来ちゃったりして、現在もなかなかパワフルなことをやっている気がするし、これからの人生の志も割と高いと思います。でも正直なところ、私の目の前に広がる茨の道たち(どの道を選んでも茨茨茨茨茨茨ぁぁぁぁああ!)を見ては「もう疲れたよー...」と思う自分がいたのも事実でした。彼氏と結婚やその後のことの話になると「妊娠、出産、子育て、、、私には無理だ。自分一人分の生活もちゃんとできてないのに私は母にはなれんわぁ。」と落ち込むことも多々。

 

体調不良から完全にメンタルも落ちていました。

 

でもここ2週間、新しい仕事場で、新しいお部屋で(枕 & 掛け布団なし)、休みなしで2週間働いたというのに体調が悪くない!一昨日はついについに10分程度でしたが外に走りに行くこともできました!走ったあともベットでしばらく休憩...ではなく+αの勉強もできたりして、こんな日がまた来るとは😭という感じでした。

 

今、私にはちょっとした確信があります。

私の体調不良の犯人は食事だったんだな、と。

 

今まで、(ある意味幸運なことに)食べても食べても、また菓子パンとかロールケーキ丸々一本とか完全にアウトなものを食べてても(⬅️流石にこれはバレー現役時代。今は無理。)太ったことがなかったり、逆に何を食べても肌荒れや健康が改善されることがなかったりして、私は「食べる」ということに対して「結局何を食べたって一緒じゃん」というある種、虚無感のような印象を持っていたことを今回「食べる」ことについて考えたことで気づかされました。

 

流石に基本的な栄養学の知識もありますし、食事に関して何も気をつけていなかった訳ではありませんでしたが、結局一番は25歳で親に頼って留学している身なので、節約、節約、節約でした。節約で安い野菜などを買うようにすると、口にする食品数は限られてしまいます。また、疲れてどうしようもなかったり、ストレスが溜まっていたりすると、砂糖や刺激物(クッキーや激辛なものとか)についつい惹かれてしまう...。

 

正直、今でも少しだけ、「そんなめちゃくちゃな食事をしていた訳じゃないのにな...」と言い訳がましい気持ちがない訳ではありませんが、今体調が良いのが何よりもの証拠かなとも思います。疲れてベッドから起き上がれない時間が激減したこと、運動する気力があること、勉強にも長い時間集中できることの全てがめちゃくちゃ嬉しくて、健康の幸せを実感中です。

 

インディアナに帰ってから、どうやって節約しながらこの食生活を継続できるか早速可愛いノートを買って作戦を練っています。どれだけできるだろう?

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私は『疲れた➡️きちんとしたものを食べる気力がない➡️さらに疲れる』の無限ループから出られなくなっていました。確かに時間をかけて料理して食品数を確保するのはなかなかの時間と手間を要しますが、生活の質や勉強の効率を考えるとこれは頑張って抜け出さないと、と今は思います。

 

普段科学と向き合っている人間がこんなことを言うとちょっとおかしいかもしれませんが、神様だか去年他界した祖父だか、とにかくどなたでも私の力を超えたもっともっと大きな存在が「インターンの内容もだけれど、もう少し自分の健康について学びなさい」と💕ミールプラン💕というプレゼントを用意してくれた気にさえなります。

 

 

私が卒業した日本の大学と言い、たまたま入れてしまったインディアナの大学院と言い、今インターンをさせてもらっているKSIと言い、私は自分の学びにとってこれらの環境は全て最高だと自信を持って言えます。

もしかしたら周りの人は私のことを当然のようにこれらの環境を手に入れられるくらいデキる人だと思っているかもしれないし、この環境に値する努力をしている人なのだと思っているかもしれません。でもどちらも私にはしっくりきません。

 

与えていただいた環境をポジティブに解釈し、自分にできることを最大限にできるように努めた結果、色々な縁に導いてもらうことができたというのが、過度な驕りも謙遜もないニュートラルな見解です。

 

仕事場から寮に向かう坂を登りながら「また新しいことを学ぶ良い機会に導いてもらえたんだなぁ」と幸せに思い、学びを生かすことでこの場所へ導いてくれたどなたかに感謝の気持ちを伝えることにしようと思ったのでした。

 

 

 

 

スポーツ中の突然死 - 心臓疾患とメディカルチェック

6月5日から3ヶ月弱、「スポーツ中の突然死を防ぐ」というミッションを掲げ最先端の研究や教育活動を行う、Korey Stringer Institute(http://ksi.uconn.edu)という機関でインターンシップをさせていただけることになりました。

🔽KSIの紹介動画です。


熱中症のことが主になるとは思いますが、正直どんなことが待ち受けているのかわかりません(ドキドキ75%・心配25%!!!)。何か予習的なことができればと思っていましたが、以前からメディカルチェック(アメリカでよく使われる用語ではPPE: preparticipation physical evaluation)のことについて調べたかったので、今回はメディカルチェックと心臓系の突然死について調べてみようと思います。

 

アメリカではスポーツ中・直後に起きる突然死のうち、心臓の疾患に由来するものが最も多いと報告されています。1 日本の報告を見ても、平成11年度から20年度の10年間で学校で起きた突然死のおよそ71%が心臓系の疾患であったとされています。2

 

35歳以下の若いアスリートの間で、突然死の原因となる心臓疾患として最も多いのが、肥大型心筋症(HCM: hypertrophic cardiomyopathy)です🔽。1

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(🔽の動画は英語ですが、肥大型心筋症の説明です。 )


従って、メディカルチェックで肥大型心筋症を発見し、その人口に対してリスクをマネジメントするということが、完璧ではないけれど、最も多くの命を救う可能性のある突然死の予防方法ということになるのではないでしょうか。

 

イタリアのVenetoという地域では、1979年から競技スポーツを行う35歳以下の人口に対して心臓・循環器系のスクリーニングを行っています。3,4

1998年の報告3では、スクリーニングで肥大型心筋症を発見し、運動制限を設けることで肥大型心筋症が突然死の主要な原因ではなくなったことがわかり、さらに2006年の報告4では、スクリーニングを導入したイタリアのVenetoという地域で突然死の発生率が1979年から2004年までの25年間で約1/10にまで減少したことがわかりました🔽。

 

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このイタリアで行なわれているスクリーニングには家族歴、既往歴*(personal history)、身体検査、心電図が含まれていて、各検査の陽性の条件は以下の通りです🔽

* 既往歴というと過去に罹患した病気の記録、というようなイメージがありますが、ここでは「失神や運動中の胸の痛みを経験したことがある」などの言うなれば「症状歴」という感じだと思います(しっくりくる日本語がないのでとりあえず「既往歴」と書きます)。

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このイタリアの取り組みは肥大型心筋症による突然死の発生率を大幅に減少させたひとつの成功例ではありますが、メディカルチェックのエビデンスは実はまだまだ蓄積されていません。5

 

その理由としては、メディカルチェックの方法や記録用紙が学校や所属するチームによってバラバラで統一されていないことやメディカルチェックの質問紙の信頼性・妥当性が検証されていないことが挙げられます。5

 

また、イタリアの例では心電図もスクリーニングに組み込まれていますが、心電図をメディカルチェックに取り入れるべきかどうかも明確なガイドラインがある訳ではありません。1,5 ポジション・ステイトメントでは既往歴や家族歴から詳しい検査が必要とされた場合以外には心電図などの検査はルーティーンとして行われなくても良いという書き方をされています。1

アスリートの心臓疾患の評価・診断でとても難しいのは、スポーツ心臓(強度の高い競技トレーニングへ適応して心臓の状態)と肥大型心筋症の区別が難しいことだと言われていますが、心電図においてもスポーツ心臓は異常な波形を示すこともあり、そのため心電図のsensitivity(51%)やspecificity(61%)はそれほど高くなく、positive predictive value(true positiveの割合)はわずか7%であるという報告もあるのです。6

 

この心電図の限界を踏まえると、大きな人数(例えば大学の部活に所属する全学生や体育を履修する全学生など)のメディカルチェックの際には心電図はコストパフォーマンスは高くないのかもしれません。

 

話は戻りますが、このように、心臓・循環器系のスクリーニング(既往歴や家族歴、聴診や血圧測定などの身体検査、心電図など)のうち、どの構成要素が心臓疾患を発見するのにより高い正確性(sensitivityやspecificity)を持っているのかなどのエビデンスはまだまだ充分ではないというのが現状のように感じます。

 

ですが、そんな現状だからこそ、いち早く心臓疾患のスクリーニングをメディカルチェックに取り入れて、分析するためのデータを蓄積し始めることが大切ではないかと思うのです。

 

『学校保健法施行規則の一部改正に伴う定期健康診断のガイドラインについて』7という宮城県教育庁スポーツ健康課課長の松本文弘さんという方が書かれた文書(http://tsukamoto-naika.org/Gakkouhokennanzenhousekoukisoku%20no%20Ichibukaisei%20tou%20nitsuite%202016.01.27.pdf)をオンラインで見つけました。これは『児童生徒等の健康診断マニュアル』という文部科学省が発行しているマニュアルを参考にしたもののようで、多くの学校で実際に使われているのもなのではないかと予想しています。この文書で紹介されている健康調査票を見ると、心臓・循環器系のスクリーニングは心臓病の既往歴と内科系のいくつかの質問という内容でした🔽。

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一方、American Heart AssociationやNATAなどの組織から推奨される、American Academy of PediatricsのPPE(pre-participation physical examination;メディカルチェック)のフォーム(Preparticipation Physical Evaluation)では、既往歴や家族歴の質問が充実しており、血圧検査はもちろん、心音の聴診なども含まれています🔽。

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学校では部活動だけでなく、体育の授業やマラソン大会、運動会などでほぼ全ての生徒が運動に取り組むことになるので、学校での健診がもう少し心臓疾患のスクリーニングという観点を取り入れたらもっと良くなるのではないかと思ったのが私の感想です。

 

最後に、独立行政法人 日本スポーツ復興センターによる 『運動中における突然死(心臓系)の事故防止について』というレポート2(http://www.jpnsport.go.jp/anzen/Portals/0/anzen/branch/nagoya/pdf/totsuzenshiall.pdfから心臓疾患の災害の事例を紹介して終わりにしたいと思います🔽。事例を見ると、突然死はまさに私たちが経験してきた体育や部活の中で起きていることがわかります。その場にもし私がいたら、と思うととても怖くなりますが、これらが私が将来アスレティックトレーナーとして立ち会うケースになるのかもしれないのです。予防すること、それから、実際に起きた時のために準備を怠らないことはスポーツ現場で働く限り努めなければならない最低限の義務だといつも思います。

 

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参考文献

1. Conley KM, Bolin DJ, Carek PJ, Konin JG, Neal TL, Violette D. National Athletic Trainers' Association position statement: Preparticipation physical examinations and disqualifying conditions. J Athl Train. 2014;49(1):102-120.

2. 運動中における突然死(心臓系) の事故防止についてhttp://www.jpnsport.go.jp/anzen/Portals/0/anzen/branch/nagoya/pdf/totsuzenshiall.pdf: 独立行政法人 日本スポーツ振興センター; 2012.

3. Corrado D, Basso C, Schiavon M, Thiene G. Screening for hypertrophic cardiomyopathy in young athletes. N Engl J Med. 1998;339(6):364.

4. Corrado D, Basso C, Pavei A, Michieli P, Schiavon M, Thiene G. Trends in sudden cardiovascular death in young competitive athletes after implementation of a preparticipation screening program. JAMA 2006;296(13):1593.

5. Wingfield K, Matheson GO, Meeuwisse WH. Preparticipation Evaluation: An Evidence-Based Review. Clin J Sport Med. 2004;14(3):109-122.

6. Pelliccia A, Maron BJ, Culasso F, et al. Clinical significance of abnormal electrocardiographic patterns in trained athletes. Circulation. 2000;102(3):278-284.

7. 松本文弘. 学校保健法施行規則の一部改正に伴う定期健康診断のガイドラインについて. 宮城県教育庁スポーツ健康課; 2016.

 

 

 

 

腰か仙腸関節か - 仙腸関節機能障害のスペシャルテスト

前のセメスターで下肢の評価を学びました。その中で仙腸関節の評価も少し触れて、面白いなと思ったことがあったので書いておきたいと思います。

 

仙腸関節の痛みは仙腸関節が位置するお尻のあたりに出ることが多いですが、腰椎や仙骨からの症状と似ているときがある上に、仙腸関節の痛みを引き起こす特有の動きや姿勢がないことから、仙腸関節の機能障害を診断・評価するのはとても難しいと言われています。1

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また、仙腸関節の評価は症状の観点だけではなく、身体検査(physical examination)の観点でも難しいと言えます。これは何故かと言うと高い正確性を持った仙腸関節の機能障害のためのスペシャルテストがないからです。1,2

 

そこで仙腸関節の機能障害のrule-in・rule-outの方法として授業で学んだのは5つのスペシャルテストを「スペシャルテスト群」として用い、その5つのうち3つ以上が陽性だった場合に仙腸関節の機能障害が陽性であるとする考え方です。1,3

そのスペシャルテスト群を構成する5つのテストはCompression Test、Distraction Test、Thigh Thrust Test、Geanslen Test、Sacral Thrust Testです。1,3 下にそれぞれのテストの動画を貼りましたので、そちらをご参照ください。

 

Compression Test


Distraction Test


Thigh Trust Test


Geanslen Test


Sacral Thrust Test


それぞれのスペシャルテストの正確性に関するデータは🔽の表の通りです。Thigh thrust testが最も高いsensitivity (0.88) を持っていて、Distraction testが最も高いspecificity (0.81) を持っていることがわかりました。1 これらの数値から考えると、thigh thrust testとdistraction testが両方陽性であれば、決定的とは言えなくてもかなり高い確率で仙腸関節の機能障害があると言えるでしょう。

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🔽の表は5つ(Gaenslen testは左右両方テストするので実質的には6つ)のテストのうち、いくつ以上陽性があるかで正確性を比べています。

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注目すべき点は以下の2点です。

▶️1 or more positive tests (ひとつ以上陽性) の場合のsensitivityは1.00。つまり5つのテストが全て陰性であれば仙腸関節機能障害はrule-outできるということ。

▶️3 or more positive tests (三つ以上陽性) の場合、sensitivityを下げずにspecificityを上げることができる。つまり、三つ以上陽性があったかどうかで機能障害があるかどうかを判断した場合に最も正確に評価・診断できるということ。

 

また、gaenslen testを除いた4つのテストのうち2つ以上陽性、という場合にも高いsensitivityとspecificityを保つことができることがわかりました🔽。

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🔽のチャート1、とてもわかりやすいと思ったので貼ってみました。ここで推奨される評価の流れは、臀部痛を訴える患者にまず最初に高いsensitivityとspecificityを持つthigh thrust testとdistraction testを試し、両方陽性だったら仙腸関節機能障害をrule-in。そうでない場合、他のテストを試し、最終的に(gaenslen testを除く4つのテストのうち)2つ以上が陽性であればrule-in。全て陰性であればrule-out、というものです。

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ここで少し紛らわしいのは、椎間板に問題があって腰部や臀部に痛みが出ている場合、仙腸関節に問題がなくても上で紹介したようなスペシャルテストが陽性になってしまう点です。3 その問題を解決するには🔽のチャートに示されたように仙腸関節のテストをする前にその痛みが椎間板由来かどうかを確かめることが重要であると言われています。3 

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痛みが椎間板由来かどうかを判断するのに、ここで紹介している研究3で使用された方法はマッケンジー・アセスメント(McKenzie Assessment)という方法です。

🔽の図(参考文献4の論文より)のような動作を繰り返した時の症状を観察します。3 痛みなどの症状が末梢へ出たり(peripheralization*)、末梢に出ていた症状が中枢へ来たり(centralization*)したら、その症状は椎間板由来とします。3

*centralizationやperopheralizationなどの用語を深く理解するには元の文献を読まれることをお勧めします。うまく日本語にできているかわからないので...

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マッケンジー・アプローチのレビュー5の中でわかりやすい(?)表があったので貼ってみました🔽椎間板由来の痛みはDerangementsに分類されます。

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椎間板由来ではない腰痛は最終域で痛みが観察されるのに対し、椎間板由来の腰痛は最終域に到達する前から、動かしている段階でも痛い、という点も評価の際に役立つかもしれません。5

 

最初に椎間板由来の痛みをrule-outすることで、仙腸関節の「スペシャルテスト群」の正確性がより高まったことも報告されており、3 腰部や臀部の評価はより包括的はアプローチが大切だなと思いました。

 

参考文献

1. Laslett M, Aprill CN, McDonald B, Young SB. Diagnosis of sacroiliac joint pain: validity of individual provocation tests and composites of tests. Man Ther. 2005;10(3):207.

2. Dreyfuss P, Michaelsen M, Pauza K, McLarty J, Bogduk N. The value of medical history and physical examination in diagnosing sacroiliac joint pain. Spine. 1996;21(22):2594-2602.

3. Laslett M, Young SB, Aprill CN, McDonald B. Diagnosing painful sacroiliac joints: A validity study of a McKenzie evaluation and sacroiliac provocation tests. Aust J Physiother. 2003;49(2):89-97.

4. Machado LA,Tulder M, Lin CC, Clare H, Hayden JA, Costa LM. The McKenzie method for chronic non-specific low-back pain (Protocol). Cochrane database of systematic reviews. 2012.

5. Donelson R. The McKenzie approach to evaluating and treating low back pain. Orthop Rev. 1990;19(8):681.

 

 

 

FAAM - 患者立脚型評価

今回は患者立脚型評価 (patient-reported outcome) のひとつであるfunctional ankle ability measure (FAAM) を紹介しようと思います。

 

まず、患者立脚型評価とは何かというと、傷害や疾患に関して患者自身が行う評価です。多くの場合、質問紙形式で、患者はそれぞれの質問に関して最も当てはまる答えを選択肢の中から選ぶ、というとてもわかりやすいものです。

 

今回取り上げたいと思ったのはこちらのFAAM⏬

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FAAMには2つのスケールがあり、上はADLに焦点を当てたもの、下はスポーツ活動に焦点を当てたものです。

ADLのスケールでは、例えば、立つこと平らな地面を歩くこと裸足で歩くことなどがどれくらい難しいか(全く難しくない、少し難しい、まあまあ難しい、とても難しい、不可能)を答えます。

 

このような質問紙を使うメリットは普段の問診ではあまり聞かないこと、または聞き忘れてしまうことを含めて足部や足関節の機能に関して、網羅的に患者の情報を得られることがまず第一にあげられると思います。

 

また、ここで評価される足部・足関節の機能はクリニシャンが測ったものではなくて、患者自身がどのようにそのコンディションを認知しているかを測るものです。アメリカのヘルスケアではpatient-centered careといって患者の価値観や好み、ニーズに応じたケアを提供することが大切だとされています。このような質問紙を用いることで、患者自身がそのコンディションに対してどのように思っているのかを評価することができ、患者の価値観やニーズと照らし合わせて、治療やリハビリにおいて、何を優先すべきなのかという判断をより効率的にできるかもしれません。

 

また、結果は数値化されるので、定期的に質問紙を用いた評価を繰り返し、クリニシャンが提供しているリハビリのプログラムが有効かどうかをその数値の変遷をもとに判断することもできます。

 

FAAMに関するエビデンスを紹介すると、信頼性(reliability)、妥当性(validity)ともに高く(test-retest reliability: ICC=0.87-0.89)、検出可能な最小限の変化(minimal detectable change; 95%CI)はFAAM-ADLが5.7ポイント、FAAM-Sportsが12.5ポイントです。1

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上の画像は⏬のリンク先のウェブページからいただきました。妥当性と信頼性の説明もこちらでされています。

検出可能な最小限の変化とは、測定のエラーではなく実際の変化が起こったことによるスコアの変化の最小値です。FAAM-ADLの検出可能な最小限の変化は5.7ポイントなので、FAAM-ADLのスケールのスコアが5.7ポイント以上上がったら実際に足部・足関節の機能は向上されたと言えるということです。

 

スコアの計算の仕方は、各質問項目にて得られたポイントを合計し、FAAM-ADLはそのスコアを84で割って100をかけた値、そしてFAAM-Sportsは32で割って100をかけた値がそれぞれの最終スコアです。0が最小、100が最大で、100が最も良い値です。1

 

2015年にFAAM日本語版の妥当性・信頼性も証明されているようですが2、日本語でググってもそれらしい質問紙を見つけられることはできませんでした。日本語版のFAAMはどうやったら使用できるのでしょう??(著者から判断すると、私の日本の大学の出身ゼミで翻訳と妥当性・信頼性の研究が行われたのだと思いますが...)

 

患者立脚型評価がアスレティックトレーニングでも盛んに取り入れられるようになった背景は、アスレティックトレーニングという分野が他のヘルスケアの分野(例えば理学療法士など)に比べて少し遅れをとっているという現状が関連すると聞きました。それを克服するために、トリートメントの効果を数値として証明し、アスレティックトレーナーが提供するトリートメントの価値を高めようという試みのひとつとして導入され始めたそうです。

 

今まであまり測られることのなかった患者側のコンディションへの認知を質問紙を使い数値化して評価しようというのが患者立脚型評価の目的です。

 

最初に授業で患者立脚型評価のことを学んだとき、ただでさえ混み混みのATルームで質問紙を評価に導入するなんて、ちょっと面倒くさいなと思ったのが正直な感想でした。でもその背景を理解すると、毎回の記録が後々自分のトリートメントの効果を証明し、ひいては自分の職業の価値を高めることに繋がり得るとわかり、いつか日本でも実践したいなと思いました(ので、紹介程度に書いてみました)。

 

 

参考文献

1. Martin RL. The development of the Foot and Ankle Ability Measure, ProQuest Dissertations Publishing 2003.

2. Uematsu D, Suzuki H, Sasaki S, et al. Evidence of Validity for the Japanese Version of the Foot and Ankle Ability Measure. J Athl Train. 2015;50(1):65-70.

 

 

アスレティックトレーニング教育

 

今回はアスレティックトレーニング教育について書こうと思います。 

私は日本でも一応アスレティックトレーニングを勉強しました。それなのになぜ卒業後すぐにアスレティックトレーナーとして働くという道を選ば(べ)ず、勉強を続けることにしたかというと、日本で勉強した2年間でプロのアスレティックトレーナーとして働く自信をつけることができなかったからです。

 

アメリカでも学部のプログラムを修了し資格を得た多くのアスレティックトレーナーが大学院へ進学することを考えると、アメリカでもあまり状況は変わらないのかな、と思えなくはありませんが、私は決定的な違いがあるように感じます。

 

それは学部を卒業した直後から、大学院に進むにせよ、インターンシップをするにせよ、アスレティックトレーナー(大学院の場合GA)として働くことで生活ができる程度のお金をもらえる場合が多いということです。

アメリカではアスレティックトレーナーという職業の認知度が日本より高いということもありますが、これはアスレティックトレーニング教育プログラムや資格への世間からの信頼度が高い証拠ではないかとも思います。

 

最近では「アスレティックトレーニング教育」も科学の対象となり、アスレティックトレーニング教育プログラムも研究や調査の結果を踏まえて、絶えず改良が加えられているのを生徒である私自身も感じます。

 

今回はアスレティックトレーニング教育に関してどのような研究・調査が行われているのかをいくつか例をあげながらまとめられたらと思います。

 

先に、私は日本の大学での勉強を通してプロとして働く自信を得られなかったと書きました。アメリカのアスレティックトレーニング教育プログラムにおいても、学生がプログラムを修了する際にプロとして働く準備がどれほどできているかということは大きな関心事です。

 

アスレティックトレーニング教育プログラムを修了する大学四年生にインタビューをし、どのような要素がプロとして働くための準備状態に影響を与えたかを調査した研究1がありますが、この研究では現場実習の多様性 (diversified clinical experience) と良いメンターを持つこと (strong mentorship) が鍵だと述べられています。

 

様々なスポーツ現場で実習することにより、自分自身のスキルや能力に自信を持てるようになったり、アスレティックトレーナーという職業を多角的に理解できるようになるようです。1また、多様な経験を積むことで自分の長所や関心を理解し、自分が働きたい環境を明確化できたという声もあります。1卒業を控えた四年生の多くは自分が働きたい環境に必要なスキルや知識を求めて卒業後の進路(大学院、インターンシップなど)を決める2ということもありプログラム在籍中に幅広い経験から自分を知ることができるのは良いことなのかもしれません。

 

ここでの「メンター」とはアスレティックトレーニング教育プログラムの教授やプリセプター(実習での指導者)のことを指します。プログラム中、メンターはアスレティックトレーナーとしての役割や責任の理解を深めてくれます。1また、プリセプターは学生のロールモデルとなり、学生はプリセプターが他のスタッフとの衝突やワークライフバランスの問題にどのように対処するのかを見ながら職場での振る舞いを学びます。1,3

 

従って、この研究の結論は、プリセプターと学生間のメンターシップを促進することと、学生を多くのスポーツ現場で学ばせることが、学生のアスレティックトレーナーという職業への理解や自分のスキルや知識への自信を高めることにつながる、というものでした。1

 

日本での活動を振り返ると、私が学生トレーナーとして所属したのは女子バレーボール部のみで、現場実習の多様性はなかったと言って良いと思います。そのチームの中でのメンターは博士課程に所属していた理学療法士の方でした。監督の意向で、その方が中心というよりは、私が中心となって色々決めて、その方は私のアドバイザーのような立場で私のことを育ててくださいました。

 

確かに、バレーボールにしか関わらなかったので、そこで出会わなかった怪我、特に頭頸部の怪我には特に自信がないし、今のように毎日プリセプターと会話ができて評価やリハビリのフィードバックを貰えたらもっと自信がついていただろうなとも思います。

 

ですが、日本での経験が駄目だったとか最悪だったとは今となっては全く思いません。現在アメリカで2箇所の現場で実習をしましたが、やはりセメスター毎に実習先が変わると、大きな怪我を受傷から競技復帰までみる機会がなかったり、選手との信頼関係ができた頃に離れなければならないという側面もあります。日本(私が卒業した日本の大学)では学生トレーナーはそのチームに所属し、目標を共有し、長くそのチームと向き合います。私自身のチームスタッフとしての心構えはチームの一員として選手やコーチと同じ熱量で闘った経験から築いたものだと私は思います。

 

また、アメリカでは学生はとても手厚く守られています。資格のあるアスレティックトレーナーの監督なしでは活動ができないし、何かあったとしても基本的には監督しているアスレティックトレーナーの責任です。日本では練習や試合をカバーしているのはその部に所属する学生トレーナーだけ、なんていうのはざらにあることで、「自分がやらなければ」という状況に置かれた日本の学生トレーナーの本気度・アツさはアメリカにはあまりないようにも感じます。

 

制度的に整っているのは絶対的にアメリカですが、私が日本で得た経験も大切なアスレティックトレーナーという職業の一側面だと思うのです。

 

次はプログラムを卒業した直後のGA(graduate assistant)の評価に関しての研究4です。 GAは大学のためにパートタイムで働くことで授業料が免除され、給料が支給される大学院生のことです。学部でアスレティックトレーナーの資格を取った人が大学院で勉強を続けながらGAとして大学のスポーツチームやその周辺の高校などで働くのは、全ATCの7割以上が修士号を持っている今、メジャーな進路です。学部を卒業したあと、すぐに大学院に進学する人が多いので、GAは資格取得後、アスレティックトレーナーとしての最初の仕事である場合が多いと言えます。

 

8年以上GAを監督した経験のある21人のアスレティックトレーナーにインタビューをすると、近年のGAの知識レベルは今までになく高いことを実感しているが、自主的に働きかける能力が欠けているという課題が浮かび上がりました。

 

1992年の調査5でもリハビリ、組織づくりや運営、アスリートのカウンセリング、コーチ・親・アスリートへの教育が課題としてあげられていましたが、依然として組織作りや運営、幅広いコミュニケーションが新米アスレティックトレーナーの課題としてあげられる4ということは、アスレティックトレーニング教育プログラムではこれらの経験を在学中に学生が得られるよう強調していかなければならないのかもしれません。

 

先にアメリカの学生は守られていると述べましたが、アメリカでは自分から積極的に行動しないと学生がコーチとコミュニケーションを取る機会も限られているし、アスレティックトレーナーが選手を管理するという視点も学生では持ちにくいのではないかと感じます。

 

私もまだ学生で偉そうなことは言えませんが、生徒側もこのような視点を持つことはとても大切だと思うのです。守られている環境に安住せず、自分が雇われていると思って実習をすれば、もっと働く上で重要な力をつけられるだろうなと思います。

 

私は将来、日本の大学でアスレティックトレーナーを教えたい・日本のアスレティックトレーニング教育を充実させたいという思いがあります。確かにアメリカのアスレティックトレーニング教育はとても進んでいますが、ここに書いたように課題もまだあります。大切なのは課題を把握し「より良い」を求めて議論をすることではないでしょうか。

                                       

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参考文献

1. Mazerolle SM, Benes SS. Factors influencing senior athletic training students’ preparedness to enter the workforce. Athl Train Educ J. 2014;9(1):5-11.

2. Mazerolle SM, Gavin KE, Pitney WA, Casa DJ, Burton L. Undergraduate Athletic Training Students' Influences on Career Decisions After Graduation. J Athl Train. 2012;47(6):679-693.

3. Mazerolle SM, Borland JF, Burton LJ. The Professional Socialization of Collegiate Female Athletic Trainers: Navigating Experiences of Gender Bias. J Athl Train. 2012;47(6):694-703.

4. Thrasher AB, Walker SE, Hankemeier DA, Pitney WA. Supervising Athletic Trainers' Perceptions of Graduate Assistant Athletic Trainers' Professional Preparation. Athl Train Educ J. 2015;10(4):275-286.

5. Weidner TG, Vincent WJ. Evaluation of professional preparation in athletic training by employed, entry-level athletic trainers. J Athl Train. 1992;27(4):304-310.

 

 

 

 

 

 

怪我をしやすい心理・リハビリが長引く心理

リハビリテーションの授業で使っている教科書に『Psychological Aspects of Rehabilitation』という章がありました。テスト勉強のためにじっくり読んでいたのですが、面白いなと思ったのでまとめてみることにしました。

 

思えば今まで、怪我をした選手の身体を競技復帰まで回復させていくことには一生懸命でしたが、あまり心にはアプローチしていなかったなと思います。日本では特に心・メンタルは自分で何とかするものという意識が選手自身にも、周囲にもあるような気がするし、体系立てて怪我人の心をサポートするという取り組みはどこに行ってもあまり見られなかったように思います。

 

今回この記事を書くことで、今後「心と身」両方へアプローチする包括的なリハビリを考えられるようになれれば良いなと思っています。

 

さて、怪我をしやすい人ってどんな人だと思いますか?

筋力、筋持久力、柔軟性、固有感覚、、、身体的要素はたくさんあがりますが、心理的要素はどうでしょう。

 

WilliamsとAndersonのStress and Injury Modelによれば、1) たくさんのストレッサーの経験がある人*、2) ストレス反応を悪化させやすい人、3) ストレスコーピングの手段が少ない人が怪我をしやすいのだそうです。これらの傾向のある人はストレスフルな状況に置かれたとき、そうでないひとよりも、その状況をよりストレスフルな状況であると認知し、注意が削がれ(注意を向ける範囲が狭くなったり、自分の外ではなく内側に注意を向けがちになり)怪我をしやすくなるようです。1

* 例: 主要なライフイベント、日常のストレス、怪我の経験

 

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その他にも不安傾向の高い人 (high trait anxety) や自尊心 (self-esteem) が低い人、苛つきやすい人は傷害リスクが高いと結論づける研究や、ジュニア世代のサッカー選手においてネガティブなライフイベントのストレスが傷害リスクを高めるという研究もあります。2-6

 

16歳から36歳のサッカー選手の傷害発生を4ヶ月間追った研究では、その4ヶ月間で怪我をした人たちは怪我をしなかった人たちと比べると、ストレスコーピングのスキルとして、逃避(behavioral disengagement; ストレッサーと闘うのを諦めたり身を引いたりすること)と自己批判(self-blame; ストレスフルな状況が自分に起因すると考えること)の2つのパターンを頻繁に使っているという結果になりました。5

 

ここに挙げられた特徴を見ると、とてもざっくりとですが、全体的には不安傾向が強くてストレスを溜め込みやすい人や、ストレスに対してうまくコーピングができない人が怪我をしやすい人だと言えるのかなと思います。

 

また、ネガティブなライフイベントが傷害リスクを高めるという結果から、普段はうまくストレスをコーピングできる人でも、大きなストレス(例えば、極端なところで親の死や、もう少し身近なところで失恋など)によって怪我のリスクは上がるだろうと言えると思います。

 

環境がガラッと変わる部活の新入生、特に大学一年生は初めて親から離れて暮らす人も多く、これはとても大きなストレスになり得ます。こういった時期には「いつもどうやってストレス解消してるの?」「何をするのが好きなの?」なんて会話を意識的にしてみるのもいいかもしれません。

 

次は怪我への反応です。

Wiese-Bjornstalらが提唱したIntegrated Model of Response to Sport Injury Rehabilitationでは、『アスリートがその怪我をどのように認知するか、どのような感情的な反応(その怪我に対してどう感じるか)や、行動的な反応(怪我が起きたという状況に対してどう対処するか)をするかは個人的な要素(性格、コーピングスキル、気分、健康状態、食生活、etc.)や環境的な要素(競技、怪我人へのサポート体制など社会的・環境的要因)によって決まる』と言われています。7

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例えば健康状態が変われば、怪我への認知も、抱く感情も、取る行動もそれによって変わるということです。これだけ多くの要素が影響するので、認知・感情・行動はリハビリ期間中、ポジティブになってみたりネガティブになってみたり流動的に行ったり来たりします。この心理的な行ったり来たりのサイクルがリハビリの質や進度に大きな影響を与えるとも言われています。7

 

さて、問題はリハビリ中、ATがどのように選手をサポートできるかです。

NATAに登録しているATCのうち1000人にメールを送り、リハビリ中の選手の心理的側面に関する調査を行った研究があります。8

 

1000人のうちレスポンスがあったのは226人。そのうち182人がSucceessful Coping Behaviorとして挙げた項目は『positive attitude; 前向きな姿勢』、次に多かったのは149人で『adherence and treatment compliance; 指示したことを忠実に実行しようとすること』、3番目は38人で『seeking out social support; 社会的な支援を得ようとすること』、最後に26人で『using psychological strategies; 心理学的な対処方法を利用しようとすること(自分のリハビリのゴールを設定するなど)』でした。8

 

逆にUnsuccessful Coping Behaviorとして挙げられたのは、『poor adherence and attendance; 指示に従おうとしないことやリハビリに来なくなること』が最多で75人、次に『negative attitude; 後ろ向きな姿勢』が73人、3番目が『avoidance and withdrawal; ATやコーチ、チームメイトを避けるようになること』で70人、4番目は『poor effort and motivation; 努力やモチベーションが欠けていること』で69人、最後は『negative affect; ネガティブな感情(怒り、落ち込み、気分の上がり下がりなど)』で63人でした。8

 

この調査の他にも『rehabilitation and treatment compliance; リハビリやトリートメント中に指示に従うこと』が怪我というストレスにうまくコーピングすることができた選手の重要な特徴であり、『lack of adherence or poor compliance; 忠実に指示に従わないこと』がうまくコーピングできなかった選手の1番の特徴であったとする研究もあります。9,10

 

つまりリハビリ中、選手をsuccessfullな方向へ導くためには、いかに前向きにリハビリやトリートメントに従事させるかが大きな鍵になるということでしょう(なんかとても当たり前のことを言っている気がしますが...)。

 

上の研究の中で有効であるだろうと言われていた方法は、ATがリハビリのプロセスを選手によく教育して理解させること。それから、ATがリハビリのエクササイズの目的、競技復帰のためにどのように役に立つのかを明確に説明すること、リハビリのエクササイズの種類に幅を持たせること。8

 

他には、リハビリのエクササイズを一緒に行ってくれるバディを見つけること、同じ怪我からリハビリを通して競技復帰を果たした仲間とコミュニケーションを取らせる、など。8

 

もしもこれらの対策を用いても、ほとんど意味がない(例えばリハビリに来ない、来ても真剣に取り組んだり指示に従う意欲を見せない)場合には、より根深い問題のサインかもしれないのでメンタルヘルスの専門家に相談することを考えたほうが良いかもしれません。8

 

また、選手が怪我をしたというストレスを受け入れられていない状態や受け入れるのに苦労している状況では、チームの活動になるべく多く参加させることや、リハビリの短期目標を一緒に設定することなども有効だと言われています。

 

これは、授業中に先生がおっしゃったことですが、モチベーションの上がらない時にはSNSに自分のリハビリの写真を載せてみるようにアドバイスをするそうです。多くの場合、友達が応援のコメントをくれますね。「社会的な支援」というと大袈裟に聞こえますが、確かに現代ではSNSは支援の言葉をかけてもらうのに一番身近な場所かもしれません。

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話は変わります。『強いメンタル』ってなんでしょう?

私は調べてみて、『ストレスに耐える力』ではなくて『ストレスを解消する力』だと思ったんです。性格や日々のストレスやライフイベントのストレスは変えようと思っても難しい場合が多いと思います。不安傾向の強い人はやはりずっとそういう傾向にある気がするし、日常のストレスに関しても、「あ!卵と牛乳買い忘れたー!!」さえちょっとしたストレスです。ましてや家族の死などの折にストレスを感じずにいられる人はいないでしょう。

 

ストレスを感じることが悪いことなのではなく、ストレスにうまく対処する(コーピングする)スキルを持っていることが『メンタルの強さ』なのではないでしょうか。これからアスリートと関わるとき、コーピングを促すことが私のひとつの役割になるのかなと思います。

 

スポーツでの『メンタルの強さ』はここ一番というときに実力を発揮出来ることや、ストレスフルな状況でも強気に立ち向かえること、というイメージがありますが、これらは『一心不乱』な心の状態で達成されると思います。ストレスによって怪我のリスクが上がるメカニズムが、ストレスによって注意が妨げられることで怪我が起こりやすくなる、ということを考えると、ストレスをうまくコーピングできず蓄積した状態はやはりスポーツにおける『メンタルの強さ』にも影響するのかなと思いました。

 

 

参考文献

1. Williams JM, Andersen MB. Psychosocial antecedents of sport injury: Review and critique of the stress and injury model. JOURNAL OF APPLIED SPORT PSYCHOLOGY. 1998;10(1):5-25.

2. Petrie TA. Coping Skills, Competitive Trait Anxiety, and Playing States: Moderating Effects an the Life Stress-Injury Relationship. Journal of Sport and Exercise Psychology. 1993;15(3):261-274.

3. Smith AM, Stuart MJ, Wiesebjornstal DM, Milliner EK, Ofallon WM, Crowson CS. COMPETITIVE ATHLETES - PREINJURY AND POSTINJURY MOOD STATE AND SELF-ESTEEM. MAYO CLINIC PROCEEDINGS. 1993;68(10):939-947.

4. Johnson U, Ivarsson A. Psychological predictors of sport injuries among junior soccer players. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2011;21(1):129-136.

5. Ivarsson A, Johnson U. Psychological factors as predictors of injuries among senior soccer players. A prospective study. Journal of Sports Science & Medicine. 2010;9(2):347-352.

6. Junge A. The influence of psychological factors on sports injuries - Review of the literature. AMERICAN JOURNAL OF SPORTS MEDICINE. 2000;28(5):S10-S15.

7. Wiese-Bjornstal DM, Smith AM, Shaffer SM, Morrey MA. An integrated model of response to sport injury: Psychological and sociological dynamics. JOURNAL OF APPLIED SPORT PSYCHOLOGY. 1998;10(1):46-69.

8. Clement D, Granquist MD, Arvinen-Barrow MM. Psychosocial Aspects of Athletic Injuries as Perceived by Athletic Trainers. JOURNAL OF ATHLETIC TRAINING. 2013;48(4):512-521.

9. Larson GA, Starkey C, Zaichkowsky LD. Psychological aspects of athletic injuries as perceived by athletic trainers. SPORT PSYCHOLOGIST. 1996;10(1):37-47.

10. Arvinen-Barrow M, Hemmings B, Weigand D, Becker C, Booth L. Views of chartered physiotherapists on the psychological content of their practice: A follow-up survey in the UK. JOURNAL OF SPORT REHABILITATION. 2007;16(2):111-121.