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Papyrus

考えたことや調べたことを残しておこうと思います。

Carbohydrate Loading? II

前回の記事では、carbohydrate loadingの根本的な考え方を説明しました。

今回はもう少し実践的な話題に触れていきたいと思います。

 

前回の記事で説明した通り、強度の高い持久系のエクササイズにおいてはグルコース/グリコーゲンがとても重要なエネルギー源であり、carbohydrate loadingとは最後まで高い強度 (≒高いパフォーマンス) を持続するために試合前までにグリコーゲンの貯蔵量を増やしておく、という栄養的な戦略のことを言います。

 

現在、carbohydrate loadingには大きく分けて3つのモデルがあります (McArdle, Katch, & Katch,  2014

1) Classic Loading Procesure

2) Modified Loading Procesure

3) Rapid Loading Procedure

 

1) Classic Loading Procesure

何日間かけて実施するかということに関してはいくつかの方法があるようですが、このモデルの基本的な考え方は一度筋グリコーゲンを枯渇させて、それから炭水化物の割合の高い食事を続けて摂ることで筋グリコーゲンを元の量よりも多く蓄え直す、ということです。

 

教科書に乗ってた例を紹介すると (McArdle et al.,  2014

Day1: 90分の中強度のエクササイズ (glycogen-depleting exercise)

Day 2 - Day 4: 低炭水化物の食事 (約60-100g/日)

Day 5 - Day 7: 高炭水化物の食事 (約400-700g/日)

Competition Day: 高炭水化物の競技前の食事

 

他にも、1日目にglycogen-depleting exerciseをしてその後3日間で高炭水化物の食事を摂る合計4日間の方法や、3日間で2回のglycogen-depleting exerciseをしてその後3日間で高炭水化物の食事を摂る合計6日間の方法もあるようです (Fairchild, Fletcher, Steele, Goodman, Dawson, & Fournier, 2002) 。

 

みなさん、この方法どう思いますか?

試合前の週に疲労困憊になる練習をすることや、(方法によっては) その後も低炭水化物の食事を3日間続けることは週の前半といえども少し不安ではないでしょうか。もちろん実際の試合で実行する前に予行練習を行っておけば多少不安は解消されるかもしれませんが、他にも怪我のリスク等を考えるとあまり実用的でない気もします。

 

このモデルの短所を克服するために考案されたのが、これから説明する他の2つのモデルです。

 

2) Modified Loading Procesure

このモデルはclassic loading procedureにあった筋グリコーゲンを枯渇させる段階はなく、試合前の1週間程度で練習の強度を試合に向けて落としながら炭水化物摂取量は増やして、筋グリコーゲン量を蓄えるという方法です (McArdle et al.,  2014

 

ここでこのモデルを提案した研究を紹介します。1981年と古いものですが、教科書や他の研究でもmodified procedureの基本的な考え方を示したものとしてよく引用されているのを見るので、ここでも使わせてもらおうと思います。

Effect of Exercise-Diet Manipulation on Muscle Glycogen and Its Subsequent Utilization During Performance* (Sherman, Costill, Fink, & Miller, 1981). 

 

この研究では20.9kmのタイムトライアルをパフォーマンスの指標として設け、そのトライアルの前の6日間の炭水化物の摂取量を変えて、筋グリコーゲンの量とトライアルのタイムを比較しました。筋グリコーゲンは4日目の練習後、それから7日目のトライアルの前後に測られました。

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上の図の棒グラフはトレーニングの継続時間を示しています。継続時間は1日目の90分から5日まで徐々に減らし、トライアル前日の6日目は休み。

 

前日までの6日間の炭水化物の摂取量は、以下の3パターンです。

A) 3日間×低炭水化物食* + 3日間×高炭水化物食*

B) 3日間×通常食* + 3日間×高炭水化物食、

C) 6日間×通常食 の3パターンで検証されました。

 

*低炭水化物食: 全体のカロリーの15%を炭水化物から摂取: 104g/日

*通常食: 全体のカロリーの50%を炭水化物から摂取: 353g/日

*高炭水化物: 全体のカロリーの70%を炭水化物から摂取: 542g/日

 

このトレーニング継続時間×炭水化物摂取でどのように筋グリコーゲンの量が変化したかというと、トライアルがある7日目に十分に筋グリコーゲンを蓄えられたのはAとB。

                 f:id:miwakosuzuki:20160301121819j:plain

ここで臨床上重要なのは、AとBがトライアルの前の段階でほぼ同じ量のグリコーゲンを蓄えられたということです。つまり、トライアルの前の週の前半に炭水化物を敢えて減らす必要はなく、週の後半に高炭水化物食を摂るだけで、練習の強度 (この場合練習継続時間) の調整と併せて、十分に筋グリコーゲンの量を増やすことができた、ということです。 

 

このモデルはグリコーゲンが枯渇する段階がないので体調面の心配が緩和されることや、glycogen-depleting exerciseを練習に入れる必要がないのでそれによって練習の内容が大きく左右されることがない、という点でclassic loading procedureよりも優れていると言えるでしょう。

 

3) Rapid Loading Procedure

このモデルは試合前日に短時間でオールアウトするようなエクササイズを実施し、そのあと高炭水化物の食事を摂ることでグリコーゲンを超回復させる方法です (McArdle et al.,  2014

 

グリコーゲンを枯渇させる、という点に関してはclassic loading procedureと似ているような気がしますが、classsic procedureのglycoge-depletion exerciseは中-高強度で継続時間が長く (90分) 、加えて低炭水化物の食事をすることとでグリコーゲンの枯渇を図るのに対して、rapid procedureでは3分程度高強度エクササイズでグリコーゲンの枯渇を図ります。また、loadingに必要な日数が1日のみというのも大きな違いでしょう。

 

このモデルの根拠となる研究はRapid carbohydrate loading after a short bout of near maximal-intensity exercise (Fairchild, Fletcher, Steele, Goodman,Dawson, & Fournier, 2002) 。  

 

Glycogen-depleting exerciseとして設定されたのは、130%VO2peakで150秒間のサイクリング+30秒間のオールアウトのスプリント (サイクリング) 。3分間ですが、とにかくきつい内容です。

 

このエクササイズの20分以内GI値の高い炭水化物を除脂肪量1kg (体重-(体重×体脂肪率÷100)) につき12g摂取すること、それから練習終了後は運動はしないことが条件として求められました。

 

結果は... 82%も筋グリコーゲン (@外側広筋) を増やすことができました。     f:id:miwakosuzuki:20160304050049j:plainf:id:miwakosuzuki:20160304050109j:plain

右の図は筋繊維のタイプ別に筋グリコーゲン量の変化を示したものですが、全ての筋線維タイプで大きく筋グリコーゲンを増加させるのに成功しているのがわかります。

 

これはrapid procedureの長所でもあります。高強度の運動は低強度の運動と異なり、全ての筋繊維タイプを使います (サイズの原理) 。グリコーゲンの超回復はグリコーゲンが枯渇した筋肉で起こるので、全タイプの筋繊維を使う高強度の運動後には全タイプの筋繊維で超回復が起こる、ということです。

 

この筋グリコーゲンの超回復の成功の要因に関して、この論文の中では、1) 運動後すぐに炭水化物を摂取したこと、2) GI値の高い炭水化物を摂取したこと、の2つが大きく貢献したのではないかと書かれています。

 

GI値とはglycemic indexの略でどのくらいの早さで摂取された食べ物が消化されて血中にグルコースとして現れるか、ということを示しています (McArdle et al.,  2014

グルコース (ブドウ糖) が基準でGI値が100です。グルコースはそのままの形で身体の中で使えるので消化の必要がありません。ですから摂取から血中に現れるまでの早さは一番早いことになります。高GI値の食品は消化が早くすぐエネルギーになる食品で、低GI値食品は消化に長い時間がかかる食品です。

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運動後は身体がリカバリーのためにグリコーゲンを脳、筋、肝臓に貯蔵し直すよう働いています。ですから運動直後にGI値の高い炭水化物を摂るというのは、グリコーゲンの超回復を意図しなくとも、通常の練習のリカバリーにとっても有効と言えるでしょう。(GI値の表を載せてはみましたが、どの表を使わせてもらおうかと調べたとき、各ウェブサイトでかなり数値の違いが見られたので、実際に何かの食品のGI値を調べたいときにはその食品に関して調査をしてみるのが良いと思います!)

 

このrapid loading procedureの長所はなんといってもloadingに1日しかかからないことでしょう。試合前日の3分程度の高強度エクササイズ+食事でグリコーゲンを十分にloadingできることを考えると、試合前の練習がcarbogydrate loadingのために影響を受けることはほとんどないと思います。

 

ここまでcarbohydrate loadingの3つのモデル紹介しました。次にcarbohydrate loadingはパフォーマンスを向上させるのか、ということをまとめてみようと思います。

 

Modified loading procedureで紹介した研究で20.9kmのタイムトライアルをパフォーマンスの指標にしたと書きましたが、結果はどうだったと思いますか?

 

この実験ではグリコーゲンの量を増やすことには成功しました。でも、このトライアルのタイムには差がなかったのです。

 

これに対して著者はどのような解説を加えているかを説明しようと思います。筋グリコーゲンの量に関して、"これ以上少なくなったら強度を落とさざるを得ない"という数値があるらしいのです。そしてその数値に達するまでは運動強度 (この場合走るスピード) はあまり影響されません。この実験でその最低限必要な筋グリコーゲンの量に達するのは、ここでの被験者のペースだと36.4km付近なんだそうです。ですから、20.9kmのトライアルでは筋グリコーゲンをたくさん蓄えられたかどうかということで維持できるペースに違いはなく、タイムにも有意な差はなかった、ということでした。

 

ちなみに、20.9kmトライアルの平均タイムはどのグループも83分程度。このペースで36.4kmまで走るとしたら145分くらい。2時間25分!一般的にはcarbohydrate loadingは60分以上のエクササイズで有益と言われているけれど、この解説だと2時間25分以降からやっと維持できるペースに差ができることになりますね。

 

他の実験では、24km走でcarbohydrate loading+運動中の炭水化物の補給の効果を検証したものがあり、ここでもパフォーマンスにはプラシーボとの間で有意な差はありませんでした (Andrews, Sedlock, Flynn, Navalta, & Ji, 2003) 。統計的には差はなかったという結果ですが、平均タイムには2分の差がありました。参加者が8人と少なかったので有意な差にならなかったという考え方もできます。ちなみにここでのタイムは134分程度。2時間14分。この実験でも1時間以上の継続時間でありながらパフォーマンスには効果がなかったということになりました。

 

でも、注目したいのはパフォーマンスに有意な差はなかったけれど、代謝にはかなりの違いがあったということです。

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L&S: carbohydrate+運動中の炭水化物補給

S: 運動中の炭水化物補給のみ

P: プラシーボ

 

RERとはRespiratory Exchanging Ratioの略でどのくらいの割合で炭水化物と脂質をエネルギー源として使ったかを示しています。RER=0.7の場合100%脂質、RER=1.0の場合100%炭水化物を使っているということを表していて、基本的には0.7から1.0までの値です (それ以上、以下になることもあるけれど基本的な考え方としては) 。数値が0.7に近ければ脂質の代謝が優位、1.0に近ければ炭水化物の代謝が優位ということを読み取ることができます。 

 

グラフを見てみるとL&Sでは炭水化物の割合が高く、PではSやL&Sに比べると炭水化物の割合が低い (脂質の割合が高い) ことがわかります。前回の記事で紹介したとおり、脂質はエネルギーとして使われ始めるまでに時間かかり、脂質を代謝するaerobic energy systemがATPを作り出す速さも炭水化物を代謝するglycolysisに比べると遅いです。つまり、脂質のエネルギー利用は炭水化物と比べるとエネルギーの需要が高い高強度の運動には不向きです。 

 

パフォーマンスを決定する要因はエネルギー供給以外にもたくさんあります。だから、上で紹介した2つの研究結果が示すように、carbohydrate loadingで可能になる炭水化物の利用率の高さがそのまま高いパフォーマンスと直結するということではありません。これを踏まえて、みなさんはcarbohydrate loadingの実施についてどう思いますか?

 

私の結論はこうです。

carbohydrate loadingはパフォーマンスの向上というより、むしろブレーキを防ぐために試合前の練習の文脈に合わせて実施する。試合で最高のパフォーマンスをするということは言わずもがな重要ですが、それと同等に重要なのが"最低でもこの程度はできる"という最低限のレベルをなるべく高く保つことではないでしょうか。そのためにはブレーキとなり得る要因は試合前に出来る限り潰しておく必要があります。

 

ここで言えば筋グリコーゲンが枯渇した、あるいはそれに近い状態で試合に臨むのは完全にアウトです。 Carbohydrate loadingでパフォーマンスをいつもより上げるということはできないかもしれないけれど、早い段階からの筋グリコーゲンの枯渇、それに伴う筋の疲労、そしてペースダウンを招く可能性は低くできると思います。

 

そして私が"試合前の練習の文脈に合わせて実施する"と言う理由は、上で書いたように、パフォーマンスの決定要因はエネルギー供給だけではないからです。エネルギー面だけから試合前の調整に関して指示をするならclassic loading procedureのようなかなり極端なやり方でも良いかもしれません。でも、classic loading procedureを試合前に実施したとして、何日間か低血糖状態が続くことや、その状態で練習に臨むことが選手の体調全般や心理面に及ぼす影響を考えると、この極端な方法が総合的にベストだとは思えません。試合前の練習は選手の身体の感覚や心の準備にとっても大切です。だから栄養的な戦略も選手やコーチの考えから逸脱しないものである必要があります。

 

実施方法としてはmodified loading procedureがもっとも現実的であると思います。試合に向けて練習の強度を落としていくことは一般的だと思いますし、これに高炭水化物食を併せるのはそれほど難しいことではないと思います。

 

コントロールしなくてはならないケースは、精神論が優位なチームで試合前でも強度を落とすことを嫌う指導者がいる場合や、アスリートが食事の量を制限してしまう場合などが挙げられます。文脈の中で、とは言いましたが、チームが明らかに非科学的な方向へ走っている場合には自分から発信して軌道修正する力も必要だと思います。

 

 

Carbohydrate loadingといえばマラソンですが、今回調べてみて、私は球技系の競技でももっと浸透すべきなのではないかなという考えを持ちました。これを実証するには競技ごとにどのenergy systemどのくらいの割合どのくらいの時間使われているのかということをもっと知る必要がありますが、試合の継続時間が1時間以上ありglycolysisによるエネルギー供給の割合が高い (10-30秒程度のダッシュを繰り返すような) 競技は球技に多いと思うからです。

 

ゲーム型のスポーツでパフォーマンスを科学的に評価するのはとても難しいからか、carbohydrate loadingというトピックでは長距離ランニング/サイクリング以外の研究はなかなか見つけられませんでしたが、ひとつだけ、スカッシュ競技でcarbohydrate loadingの効果を検証する研究がありました!そしてその研究ではcarbohydrate loadingがスカッシュの試合においても有効だと結論づけています(Raman, Macdermid, Mündel, Mann, & Stannard, 2014) 。

 

スカッシュってあまり馴染みがないかもしれませんがこんな感じです↓この運動と休憩の時間の比、それから運動の強度は、多くの球技でマラソンよりも似ているはずです。

   

スカッシュの研究ではシュミレーションの機械を使い、試合を終えるまでにかかった時間によってパフォーマンスを評価したようです。結果は、carbohydrate loadingを実施したときの方が試合を有意に早く終え、 試合中の炭水化物の利用率も高かったというものでした。

 

最後に。

今回試合への調整方法のひとつとしてcarbohydrate loadingを説明したので、当然試合のことを中心に話しましたが、このエネルギー供給のお話は毎日の練習にこそ応用すべきだと私は思います。それは高いレベルで練習できてこそ、新たに身につくものがあると思うからです。疲れやすい、効率の悪い身体で毎日の練習に臨んではその日の練習から得られるものが減ってしまいます。アスリートには"昨日使った分のエネルギーが今日、きちんと蓄え直されているか"ということを気にして欲しいと思います。

 

このあとリカバリーに関する情報をまとめようと思うので、具体的なことはまたそちらでまとめられたらと思います。

 

長い記事を読んでくださってありがとうございましたm(__)m

 

 

参考文献

Andrews, J., Sedlock, D., Flynn, M., Navalta, J., & Ji, H. (2003). Carbohydrate loading and supplementation in endurance-trained women runners. Journal Of Applied Physiology95(2), 584-590.

Fairchild, T., Fletcher, S., Steele, P., Goodman, C., Dawson, B., & Fournier, P. (2002). Rapid carbohydrate loading after a short bout of near maximal-intensity exercise. Medicine & Science In Sports & Exercise34(6), 980-986 7p.

McArdle, W.D., Katch, F.I., & Katch, V.K. (2014) Exercise physiology: Energy,nutrition, and human performance. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins.

Raman, A., Macdermid, P. W., Mündel, T., Mann, M., & Stannard, S. R. (2014). The Effects of Carbohydrate Loading 48 Hours Before a Simulated Squash Match. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 24, 157-165.

Sherman, W. M., Costill, D. L., Fink, W. J., & Miller, J. M. (1981). Effect of Exercise-Diet Manipulation on Muscle Glycogen and Its Subsequent Utilization During Performance*. International Journal Of Sports Medicine2(2), 114. doi:10.1055/s-2008-1034594 

 

 

画像

http://www.glycemicindexlab.com/services/

Carbohydrate Loading? I

3月の終わりにExercise Physiologyのクラスでグループプレゼンテーションがあります。テーマはCarbohydrate Loading (carbohydrate: 炭水化物, loading: 詰め込み)。

 

せっかくたくさん調べるなら、何年経っても忘れないように日本語でもまとめておこうと思い、今回はブログもこのテーマにしてみました。

 

"カーボ・ローディング"と言う言葉は日本語としても聞いたことがあるかもしれません。ただ、それだけ知名度がある言葉でありながら、私は実践している/したことがある人にはあまり会ったことがありません。みなさんの周りではどうでしょうか?

 

何に対しても言えることだとは思いますが、あまり知らずに"なんか良さそう"という理由で導入するのは、時には危険な場合もありますし、多くの場合、理解が十分でないとコストパフォーマンスも低く留まってしまうのではないかと思います。

 

調べる前の段階ではほとんど知識のなかったこのテーマではありますが、まとめることで自分も理解できるよう、そして読んでる方にも理解してもらえるようにチャレンジしてみようと思います!

 

では本題に入ります。

Carbohydrate loadingとはその名の通り、エネルギー源である炭水化物 (carbohydrate) を身体にたくさん溜め込んで、持久系のエクササイズの際に最後までエネルギーを切らさずパフォーマンスを高く保つための栄養的な戦略です。

 

私たちの身体で主にエネルギー源として使われている炭水化物はグルコース (glucose)、そしてグルコースを身体の中に溜めておくための形がグリコーゲン (glycogen) です。少し分かりにくいかもしれませんが、食事のあと消化吸収されたグルコースはそのままの形では身体に溜めておくことができないので、すぐにエネルギー源として使われない場合にはグリコーゲンに変えられて身体に貯蓄されるということです。

 

80kgの男性は身体の中にだいたい500gの炭水化物を溜めていると言われていて、その大部分が筋肉に溜められるグリコーゲンです (McArdle, Katch, & Katch,  2014) 。1gのグルコース/グリコーゲンは約4kcalのエネルギーを持つので、約2000kcalの炭水化物を身体に持っていると考えることができます。

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この量は食事や運動によって大きく変わります。例えば、激しい運動をしたり、絶食、または低炭水化物の食事を摂ることによってグリコーゲンの貯蔵は減ってしまうし、逆に炭水化物の割合が多い食事を取ることによってグルコーゲンの貯蔵を増やすこともできます (McArdle et al., 2014) 

 

ここから予想ができるかもしれませんが、carbohydrate loadingの策略は運動の強度や食事を調整してグリコーゲン貯蔵量を試合の日にピークにするというものです。

 

ここで、カーボ・ローディングの具体的な方法や実績を説明する前に整理しておきたいことがあります。それは"なんでグリコーゲン?"というポイントです。

 

このポイントは私が自分の考えを整理するのに一番引っかかったものでもあります。というのも、私たちの身体には"脂肪"というほぼ無制限のエネルギー源があるからです。

 

私が栄養学や運動生理学で習ったことといえば、1gの炭水化物が4kcalのエネルギーなのに対して脂質は9kcal。ATPの生成で言えば、1つのglucoseから作られるATPは30-32個なのに対してtryacylglycerol ("脂肪"として蓄えられてる脂質) からは-460個!

 

持久系のエクササイズでは脂質を主に使えばエネルギー切れすることなんてないんじゃないか?なんでグリコーゲンなんだ?というのが私の疑問でした。

 

私自身のこの疑問に対する答えを解説する中で、持久系のエクササイズにおけるグリコーゲンの重要性を理解してもらえたらと思います。

 

下のグラフはglucose uptakeとエクササイズの継続時間の関係を異なる運動強度で追ったものです。glocose uptakeは筋グリコーゲンに加えて、どれほど血中のグルコースや肝臓に貯蔵してあったグルコースを使ったかということを示します。

          f:id:miwakosuzuki:20160228042457j:plain

このグラフから、運動強度が高いほどより多くのグルコースをエネルギー源として使っているのが分かります (Rose, & Richter, 2005) 。これは前回までの記事で紹介したことで説明が可能で、aerobic energy systemがATPを作り出すことができる早さを越えてエネルギーの需要があるとき (言い換えると運動強度が高いとき) そのギャップを埋めるように働くのがanaerobic glycolysisで、ここでATP生成の材料として使われるのがグルコース/グリコーゲンだからです。

 

つまり高強度のエクササイズに対応できる一番のエネルギー源がグルコース/グリコーゲンなのです。

 

次に脂質の代謝と代謝の早さを考えてみます。

身体の中で最も豊富な脂質がtriacylglycerolですが、これは1つのglycerolと3つのfatty acidに分解されます。Glycerolはglycolysisに入り、fatty acidはBeta-Oxidationというサイクルを経てacetyle-CoAになりcitric acid (krebs) cycleでさらに酸化されATPを生成します。

     

上で、私は1つのtriacylglycerolは-460個のATPを生成すると書きましたがこのビデオだと406とあります。酸化の進むコンディションによってATP生成の効率が変わり、このような数の幅があるようです。いずれにせよ押さえたいこととしては1つのtriacylglycerolから400以上の大量のATPが作られるということではないかと思います。

 

Glycerolが19個のATPを生成するのに対して、fatty acidは1つにつき147個 (私の教科書の方の計算では) 、そして1つのtriacylglycerolからは3つのfatty acidが作られるので合計441個。Triacylglycerolの代謝のうち、大部分を占めるfatty acidの酸化はcitric acid (krebs) cycleを通して、有酸素的な条件で (aerobic energy systemで) 行われるということになります。

 

さて、ここで考えたいのはaerobic energy systemがどういう性質を持っていたかということです。前に書いた記事を参照してもらえたらと思いますが、1) 稼働に時間がかかる、 2) ATPを作り出す早さがglycolysisと比べて遅い、という点が挙げられるかと思います。 

これがどのような意味を持つのかというと。

下のグラフは炭水化物をしっかり摂った場合 (CHO-loaded) と炭水化物を枯渇させた場合 (CHO-depleated) の2時間のサイクリングエクササイズ中の代謝の違いを示しています (Wagenmakers, Beckers, Brouns, Kuipers, Soeters, Van der Vusse, & Saris, 1991) 。

A: 炭水化物のエネルギー源としての利用

B: 脂質のエネルギー源としての利用

C: タンパク質のエネルギー源としての利用

D: 運動強度

 

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          A                                                              B  

        f:id:miwakosuzuki:20160302084711j:plain    f:id:miwakosuzuki:20160302084732j:plain

                                     C                                                             D

 

注目して欲しいのはBとD。Bのグラフから、炭水化物が足りていない場合どんどん脂質のエネルギー利用が増えていくのがわかります。そして運動強度はというと、下がり続けています。

 

高い運動強度を支えるenergy systemはglycolysisです。そしてglycolysisで使われるのは主に炭水化物。炭水化物が枯渇してこのenergy systemが効果的に使えなくなると高い運動強度が保てなくなってしまいます。

脂質は主にaerobic energy systemであるcitric acid (krebs) cycleとelectron transport chainでATPを生成しますが、このenergy systemではglycolysisを通して可能になるような高強度な運動には対応ができないのです。

 

また、citric acid (krebs) cycleが回っていくにはoxaloacetate (図中、krebs cycleの左上) という物質が必要です。これはpyruvateから作られます。そしてpyruvateはグルコース/グリコーゲンから作られます。ということは、グルコース/グリコーゲンがないとcitric acid (krebs) cycleは回らない、つまり、そもそもグルコース/グリコーゲンがないと脂質の代謝も上手く進んでいかないということになります。

                    f:id:miwakosuzuki:20160228065039j:plain

 

Carbohydrate loadingの話に繋がるよう、ここで一度今までの流れを整理すると、

1) グルコース/グリコーゲンといった炭水化物は強度の高い運動をする際に選択的にエネルギー源として使われる。

2) 脂質は主にaerobic energy systemでATPを作るのに使われるので、高強度の運動のために使われることはあまりなく、グルコース/グリコーゲンが枯渇してしまうと高い運動強度が保てなくなる。

 

これが私の"なんでグリコーゲン?"の答えです。

高い運動強度 (≒高いパフォーマンス) を競技の最後まで続けるために、グリコーゲンの貯蔵を最後までもたせたい、だから試合前までにより多くのグリコーゲンを溜め込んでおきたい、というのがcarbohydrate loadingの根本にある考えです。

 

実際の方法や実施した結果も書こうと思っていましたが、予想以上に長くなってしまったので、次の記事に続きます!

 

 

参考文献

McArdle, W.D., Katch, F.I., & Katch, V.K. (2014) Exercise physiology: Energy,nutrition, and human performance. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins.

Rose, A., & Richter, E. (2005). Skeletal muscle glucose uptake during exercise: How is it regulated?. Physiology, 20260-270.

Wagenmakers, A. J., Beckers, E. J., Brouns, F., Kuipers, H., Soeters, P. B., Van der Vusse, G. J., & Saris, W. H. (1991). Carbohydrate supplementation, glycogen depletion, and amino acid metabolism suring exercise. American Journal of Physiology, 260(6), E883-E890.

 

画像

http://sbi4uraft2014.weebly.com/krebs-cycle.html

 

動画

https://www.youtube.com/watch?v=CyjMph4XeWE

テスト勉強 II : Fate of Lactate

前回の記事では3つのenergy systemの大まかな説明をしましたが、今回はlactate (乳酸塩)・lactic acid (乳酸) に焦点を合わせてまとめてみたいと思います。

 

乳酸といえば『疲労物質』のイメージが強いのかなと思います。確かに乳酸がたくさん作られて、身体がこれに対処できる能力を越えてしまうと、運動中、強度を下げざるを得ない状況になるので疲労と直結するイメージは正しいと言えると思います。

 

でもlactateは決して『疲労物質』や『waste product』ではなく、有酸素な状況ではATPを生成するプロセスに戻ったり、肝臓に運ばれてエネルギー源として蓄えられたり、エネルギーの需要に対して効果的にATPの生成するのに大切な役割を持っているので、その辺りを説明できたらと思います。

 

まず、どのようにlactateが生成されるか。

前回の記事でglucoseの分解により、ATPを生成するsystemであるglycolysisによってpyruvateが生成されることを説明しました。

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このpyruvateは酸素が十分に供給されている状況では、前回説明した通りacetyl CoAに変えられ、krebs cycleに入りATPを生成、それからelectron transport chainでより大量のATPを生成、という流れをたどります。

 

前回の記事のelectron transport chainの説明を参考にしてもらえればわかりやすいかと思いますが、大きなエネルギーを生み出す (=たくさんのATPを生成する) electron transport chainでは他のシステムから運ばれてきたH+が酸素と化合するときにATPが生成されるので、多くのATPを生成するためには十分な量の酸素が必要になります。

 

私たちはエネルギーの需要が高まったとき、その需要を満たすために呼吸の深さや呼吸数を増やして酸素をたくさん取り込もうとします。長距離走をしているときなどに息が上がるの想像してもらえればそれが実際にどういう状況で起こるかを理解することができるかと思います。

 

言い換えれば、十分な量の酸素を取り込むことでATPがelectron transport chainでたくさん生成されるので、私たちは長い距離を走り続けることができるのです。

 

これとは別に、乳酸の生成のプロセスを理解するために考えたいのがもう少し強度の高い、例えば『無酸素運動』と言われるような運動です。長距離走のように長くは続けられない、高強度の運動ではどのようなことが起きているのでしょう。

 

400m走を例に考えてみましょう。5km走と400m走ではどちらが1秒当たりのエネルギーの需要が大きいかと言えば、ほぼ全力で走る400m走ですよね。

 

400mを65秒で走るとして、どのenergy systemが主に400m走で使われているかというと... 前回使ったこのスライドを参照するとglycolysisですね。

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65秒というとelectron transport chainは稼働し始めてはいるけれど、効果的に働くにはまだ準備ができていません。このような状況下ではelectron transport chainがglycolysisで発生したH+を素早く受け取ってくれないという事態が発生します。

 

そうなるとglycolysisで酸化が進まなくなり、ATPを作り出す回路が停滞してしまいます。ATPの生成がスローダウンしてしまうと、その運動に見合うエネルギーを供給できなくなってしまうので、これは防ぐ必要があります。

 

そしてこれを防ぐための戦略が、乳酸を作ることなのです。

 

どういうことかというと...

Glycolysisで発生したH+をelectron transport chainがキャパオーバーで受け取ってくれなくなると、発生したH+が行き場を失くし、それ以上ATPを生成する反応が進まなくなってしまうというのは上で説明した通りですが、ここで一時的にH+を受け取ってglycolysisのプロセスを継続させるように働くのがpyruvateです。PyruvateがH+を受け取ってできるのがlactic acid (乳酸) 。そしてlactic acidは生成直後に体液中でlactateとH+に分かれます。

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Pyruvateは酸素の供給が十分なときは酸化されacetyl CoAになり、酸素の供給が十分でないとき (electron transport chainが運動開始直後でcapacityが高くないときやエネルギーの需要がelectron transport chainのcapacityを越えて高いとき) には還元されてlactate になるのです。

 

とてもキツい無酸素運動をしているときには、高いエネルギー需要を満たすためにpyruvateはlactateにどんどん変えられているのです。

 

「やはり乳酸は『疲労物質』『waste product』じゃないのか」

ここまで読むと、この疑問が浮かぶかもしれません。

 

そこで次説明したいことは、生成されたlactateがその後どうなるのかということです。

 

これを理解するのに重要なポイントは『lactateは生成された細胞の中に留まるのだろうか』ということです。答えはNO。よく疲れの指標として『乳酸が...』ということを聞きますが、エクササイズ中でさえ、生成されたlactateは血液に入り、運ばれた先の筋細胞で酸化されpyruvateに戻り、それから有酸素系のenergy systemでATP生成に貢献するなど、どんどん生成された細胞からはクリアされていきます。教科書によると、生成されたlactateの55-70%はpyruvateに戻るのだそうです。

 

とても高い強度の無酸素運動で乳酸の除去が生成の早さに追いつかず、lactateが溜まってしまったとしても、リカバリー中、十分な酸素が供給される状況になると、酸化されてpyruvateに戻ったり、肝臓に運ばれて、エクササイズによって使われたグリコーゲンを再び蓄えるために使われたりします。

 

これがlactateが単に『疲労物質』や『waste product』ではない所以です。

 

何が『疲労』を起こしているのか、ということに関してはlactateではなく、むしろH+の蓄積が貢献していると言われています。

 

高強度のエクササイズからのリカバリーに関して面白いなと思ったものがあるので紹介したいと思います。 下の図は高強度のサイクリングエクササイズを漕げなくなるまで行った後にどのように血中のlactate concentrationが下がっていくかを示したグラフです。グラフ中に4つ異なる条件があるのを見て取れると思いますが、これは高強度エクササイズの後、どのようにリカバリーをしたかを変えています (Dodd, Powers, Callender, & Brooks, 1984) 。

 

- 65%: 65%VO2maxの強度のサイクリング

- 35%: 35%VO2maxの強度のサイクリング

- 65-35%: 7分間の65%VO2max、のち33分間の35%VO2maxの強度のサイクリング

- Passive: 座って何もせずリカバリー                         

                        f:id:miwakosuzuki:20160304015858j:plain

Passive recoveryと比べると35%の有酸素運動と35-65%の有酸素運動の組み合わせが効果的にblood lactate concentrationを下げていることがわかります。つまり、高強度のエクササイズが終わった後、何もせず座ってリカバリーをするよりも低強度の有酸素運動をした方がlactateのクリアランスを促すことができたということです。

 

このグラフをクラスで紹介する際に教授が私たちに話してくれた応用の例はマイケル・フェルプス。アメリカの水泳選手で世界選手権やオリンピックで何種目にもエントリーし、各種目で予選、準決勝、決勝の3レースを泳ぎきる圧倒的なタフさを持つ選手ですが、各レース後、次の試合が間近に迫っていても、必ず別のプールで低強度で泳ぐクールダウンを行っていたそうです (つまり早くレース前の状態に身体を戻すためにactiveにlactateをクリアしていたということ) 。

 

リカバリーに関しては、lactateの除去以外にもエクササイズ直後の状態から元の状態に戻すべきものはたくさんあります。ここで紹介したリカバリーの実験はlactate concentrationしか計測していないし、『高強度のサイクリング』は運動様式から考えるとみなさんが行う、またはカバーするスポーツにはそのまま適応できるものではないかもしれませんがこれは効果的なクールダウンを考える上でとても重要な情報なのではないかなと思います。

 

私自身は水泳とバレーボールをcompetitiveな環境でやった経験がありますが、クールダウンに関しては意識が低かったなと、選手時代を振り返って思います。だから練習が終わってすぐ帰りたい選手の気持ちもとてもよくわかる....

 

でも今は前よりも少し知識が増えて、どれだけ選手に積極的にクールダウンをしてもらえるか、ということが今度は自分の『アスレティックトレーナーとして』の実力でもあるような気がします。

  

幸い、私がプロのアスレティックトレーナーになるまでにはまだ少し時間があります。知識を入れるだけに集中せず、『どのようにその情報を使うか』ということに関しても自分なりの答えを見つけていけたらいいなと思います。

 

ということでlactateについてでしたが、まとめるとこんな感じでしょうか。

1) 酸素の供給がエネルギーの需要に追いつかないとき、pyruvateがglycolysisによって発生したH+を受け取ることでglycolysisを継続させATPの生成を図る。

2) PyruvateがH+を受け取って生成されるのがlactateであり、高強度のエクササイズでlactateの生成が除去のスピードを上回るとlactateが蓄積される。

3) リカバリー中では、十分な量の酸素が供給されるようになるとlactateはpyruvateに戻ったり、筋や肝臓でglucoseやglycogenに変えられたりして、エネルギー源として再び使われる/蓄えられる。

4) 低強度な有酸素運動は血中のlactate concentrationを素早く下げるのに有効で、これは効果的なクールダウンを考える上で重要な情報である。

 

 

 

 

参考文献

Dodd, S., Powers, S. K., Callender, T., & Brooks, E. (1984). Blood lactate disappearance at various intensities of recovery exercise. Journal Of Applied Physiology: Respiratory, Environmental & Exercise Physiology, 57(5), 1462.

McArdle, W.D., Katch, F.I., & Katch, V.K. (2014) Exercise physiology: Energy,nutrition, and human performance. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins.

 

画像

http://slideplayer.com/slide/9349795/

http://general.utpb.edu/FAC/eldridge_j/Kine6360/Unit%202%20html%20file/Content%20

http://oregonstate.edu/instruct/bb450/450material/lecture/glycolysisoutline.html

 

 

テスト勉強 I : Energy Transfer

Exercise Physiologyのクイズが明日、それから2回目の試験が金曜日に迫っているので復習をしようと思いますが、私的にはとても面白い章なのでブログにもまとめてみようかと思います。

 

教科書の内容の復習なので、これを読んでくださっている方々にとっては新しい情報はないかもしれません...が、興味があれば読んでみてください。

 

さて、今回のテスト範囲はEnergy Transfer。3種類のenergy systemがどのように働くのかということを理解しなければなりません。

 

その3種類のenergy systemとは、

1) ATP-PCr system (リン酸系)

2) Glycolytic system (解糖系)

3) Mitochondrial Respiration (有酸素系)

 

まず前提として理解しなければならないことは、この3つのsystemはどれもエネルギーの『通貨』であるATPを作り出すシステムです。『通貨』という言葉が何を意味しているかというと、私たちが食べたものはそのままの形でエネルギー源として働いてくれるかというとそうではなくて、筋でも心臓でも脳でもどこでもエネルギーとして使える『通貨』に作り替える必要があるということです。

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上の図はインターネット上にあったスライドを一枚もらったものなので色んな情報が書き込まれていますが、最初に話題にしたいのがそれぞれのenergy systemが働く時間

 

1) まずATP-PCr system。これは一番最初に働き始めるsystemでありますが、最初の10秒足らずで下降に向います。

2) 次にglycolytic system (glycolysis) 。エクササイズを始めてから15秒程度で一番優位なenergy systemになり、2分程度持続します。

3) 最後にmitochondrial respiration (aerobic system) 。エクササイズ開始3分頃から一番優位なsystemとなり、その後エクササイズの継続時間が長くなってもこのsystemは優位であり続けます

 

ではこれらの差を作り出しているものは何か、ということですが、ATPを作り出すまでのステップの数が大きく影響していると言えるでしょう。

 

エクササイズ開始後、即行でATPを作り出すATP-PCr systemでは、ATPを作り出すまでに経るステップはこれだけ↓。

PCr + ADP ⇔ Cr + ATP

 

エクササイズ開始から15秒程度から優位になるglycolysisはというと...

これはglucoseやglycogenの分解によってATPを作り出すsystemですが、10個のステップを経て1つのglucoseから2つのATPを生成します。

                f:id:miwakosuzuki:20160222015356p:plain

 

そして最後のmitochondrial respiration。これはglycolysisの後を追う形で働き始めます。というのも、このsystemはglycolysisの最後のステップで作り出されたpyruvate (ピルビン酸) をもとに、さらに多くのATPを作り出すsystemだからです。

 

Mitochondrical respirationは、1) krebs cycle, 2) electron transport chainの2つに分けることができます。

 

1) Krebs Cycle (citric acid cycleとも呼ばれる)

Glycolysisで作り出されたpyruvateは酸化されacetyle CoAになり、このacetyl CoAがkrebs cycleを通して、ATPを作り出します。1つのglucoseからは2つのpyruvateが作られ、その2つのpyruvateが2つのacetyl CoAに変えられ、それぞれ1つのずつATPを作るので、krebs cycleでは1つのglucoseから2つのATPを作ることになります。

                        

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2) Elecrton Transport Chain 

ここまでそれぞれのシステムで作り出されるATPにのみ焦点を合わせていましたが、ここで一度スクロールアップして、glycolysisやpyruvateがacetyle CoAに変えられるプロセス、それからkrebs cycleでたくさんのNADやFADがH+とくっついて、NADH + H+FADH2が作られていることを確認してもらえたらと思います。

 

NADやFADはH+をelectron transport chanに運ぶ、謂わばタクシーのような役割をするcoenzymeです。この2つのcoenzymeはglucoseを分解する酸化反応で生じたH+を受け取って、NADH + H+・FADH2となり、H+をelectron transport chainに運び、そこでH+を放して、まだNAD・FADに戻るという役割を担います。

 

Electron transport chainに運ばれたH+O2と化合しH2Oが出来るというプロセスの中でATPが作られるというのが、electron transport chainでATPを作る仕組みです。(どうやってこの反応が起こるのかはよくわかりません...)

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1つのNADH + H+からは2.5個のATPが、1つのFADH2からは1.5個のATPが生成されます。glycolysis・pyruvate→acetyl CoA・ krebs cycleでいくつのNADH + H+とFADH2が生成されたか数えると...

Glycolysis:                                    2 NADH + H+

Pyruvate → Acetyl CoA:             2 NADH + H+

Krebs Cycle:                                 6 NADH + H+, 2 FADH2

 

この情報からいくつのATPがelectron transport chainで生成されたかを計算すると...

2*(2.5) + 2*(2.5) + 6*(2.5) + 2*(1.5) = 28 ATP 

筋細胞ではmitochondriaにNADHは入ることができずFADHがcoenzymeとして使われるのでその場合はglycolysisの2 NADH + H+が2 FADH2に変わり、合計26 ATPとなります。

 

Glycolysisが単独では1つのglucoseから2つしかATPを作り出せないのに対して、electron transport chainは26-28個ものATPを生成します。このelectron transport chainの反応が起こるミトコンドリアが『パワーハウス』と呼ばれる所以はこの大量にATPを生成する能力にあります。

 

さて、一番最初に紹介した、percent capacity of energy system vs. exercise durationのこの図。ATPの生成のプロセスを考えるとより深く理解できると思います。

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1) ATP-PCrは1つのステップでATPを生成するため、エクササイズ開始直後のATPはこのsystemによって提供されます。

2) GlycolysisがATPを生成するのには10ステップあるので、ATPを供給し始めるのはATP-PCr systemよりも少し遅れて15秒後くらいから。

3) Mitochondrial respirationはglycolysisにより生じたpyruvateからATPを作るkrebs cycleと各systemで生じるH+がO2と化合する際に大量にATPを作るelecron transport chainの2つから成ります。稼働するのに時間がかかるけれど、大量にATPを生成して、エクササイズを継続するためのATPを提供します。

 

長くなりそうなので次に続きます。

 

画像

http://slideplayer.com/slide/9349795/

http://general.utpb.edu/FAC/eldridge_j/Kine6360/Unit%202%20html%20file/Content%20Display%20%20Unit%202%20-%20Energy%20Metabolism.htm

http://sbi4uraft2014.weebly.com/krebs-cycle.html

 

シンスプリントって。

何に関してまとめてみようか、と考えるとき、まだATプログラムにも入っていない私が課題を探す場所はいつも日本での学生アスレティックトレーナー時代の記憶です。という訳で、今回はシンスプリントについてまとめたいと思います。

 

シンスプリントには色々な思い出があります...

私自身も部活で走る量が増えたときに痛いなーと思っていたような、いなかったような。そんな記憶しかないので自分の件に関しては大したことなかったのは間違いないです。が、私が所属した大学のバレーボール部には脛が痛い人だらけでした。部員数が少なく、人が欠けると練習が進まないので、休むのも後回し。チーム練習が多い時期には痛みを持つ数人に合わせて負荷を落とすことも難しい。

 

大学のリーグは1ヶ月間続く長期戦。しかも春、秋の2回。春リーグのあとには東日本インカレ、秋リーグのあとには全日本インカレ。試合がない時期と言えば1-3月、7-8月くらいですが、2月3月8月には合宿や練習試合が盛りだくさん。

 

人数が少なく選手層が薄いというチーム事情もありましたが、痛みと闘いながらプレーし続けるしかなかった選手に対しては今でも自分の出来たことの少なさに申し訳なく思います。

 

ですから、シンスプリントというと私の苦い思い出であり、より深い知識を身につけて挑みたい壁でもあります。

 

さて、本題に入ります。

"シンスプリント"というのは脛の内側の痛みの通称であり、正式にはMedial Tibial Stress Syndrome (以下MTSS) と呼ばれ、「運動によって引き起こされる、posteromedial (posterior: 後方の, medial: 内側の) tibia (脛骨) の遠位3分の2に位置する痛み」と定義されます。

 

MTSSは当初、脛骨の同部位の疲労骨折の初期段階と考えられていましたが、全てのケースが疲労骨折に発展する訳ではなく、どの軟部組織がその痛みを発しているのかということがその後の経過を予想する鍵になりそうです。

 

Oakes (1988) によれば、MTSSは以下の2つのカテゴリーに分けられます。

1) Periosteum (骨膜) の炎症

2) Deep fasciaとflexor digitorum longus (長趾屈筋) の間で起こる摩擦による痛み

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1) のケースでは骨膜の下のcortical bone (皮質骨) にも影響を与え得るので疲労骨折へ移行する可能性があるとのこと。

 

従って疲労骨折を伴ったMTSSもあるようです。ただ、単純に疲労骨折のみを発症している場合ももちろんあり、疲労骨折のみのケースとMTSSを区別するには圧痛が局所的かどうかが大きなポイントであるようです。MTSSは圧痛に最低5センチの幅があることを目安に疲労骨折のみのケースと区別することが多いようです (Yuksel, Ozgurbuz, Ergun, Islegen, Tackiran, Denerel, & Ertat, 2011) 。

 

MTSSのリスクファクターに関して。

まず、BMI (= Body Mass Index: 体重 (kg) /身長 (m) の2乗) 。アスリートにとって (特に女性アスリート) BMIってなかなか目を向けたくない事ではありますよね。でもBMIのMTSS発症への貢献度はとても高いことは押さえて起きたいポイントだと思います。

 

高校生クロスカントリーランナーを1シーズン (13週間) に渡り追跡し、リスクファクターごとに実際の傷害の発生を調べた研究では、唯一統計的にMTSSの発症と関連があったのがBMIでした (Plisky, Rauh, Heiderscheit, Underwood, & Tank, 2007) 。

 

この調査では、BMIが18.8-20.1のグループ (Q2) と比較すると20.2-21.6のグループ (Q3) は5.3倍多くMTSSを発症したという結果になりました。

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脂肪量の増加による体重の増加が予想される場合 (お正月休みとか...) には、選手に自己管理を促す必要はありそう。

 

他にはnavicular (舟状骨) drop。上で紹介した調査ではnavicular dropの違い (≧10mm, <10mm) によるMTSSの発症率に違いは見られなかったものの、Noh, Masunari, Akiyama, Fukano, Fukubayashi, and Miyakawa (2015) は過剰なnavicular dropはMTSSのリスクファクターであると述べています。

 

Navicular は、足のアーチ (内側縦アーチ) のてっぺんにある骨で、navicularがdropする、ということはつまりアーチがつぶれるということを意味します。

Navicular dropは非荷重時のnavicularの高さと荷重時のnavicularの高さの差を指すので、navicular dropの値は荷重時のアーチのつぶれやすさを示しています。

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Navicular dropによって内側縦アーチを通過する筋は影響を受けるでしょうし、それによってそれらの筋の付着部の骨膜に牽引力がかかることも予想されます。

 

Hamstra-Wright, Huxel Bliven, and Bay (2015) のsystematic reviewでもnavicular dropはリスクファクターとされています。

 

この動画はsubtalar joint (距骨下関節) の動きを3Dで紹介したものですが、これ、とても分かりやすいなと思ったので、載せさせていただきました。Talocrural joint (距腿関節) は主にsagittal plane (矢状面) 上の動きを、subtalar joint (距骨下関節) はfrontal (前額面) とtransverse (水平面) 上の動きを作ります。Talus (距骨) やcalcaneus (踵骨)は形が複雑で、関節面を理解するのはとても難しいですが、この動画は距骨が踵骨の上をどうやって動くかわかりやすく見て取れると思います。

 

     

この動画でNavicular dropがpronationの結果、起きていることもわかると思います。そしてMTSSを持つ人は荷重時に過剰なpronationが起きているだろうということも予想されるかと思います。

 

この予想ははおそらく間違いではなくて、MTSSやTibiaの疲労骨折を持つ人の歩行中やランニング中のeversion (pronation) は、コントロール群と比べて大きかったという報告はいくつかあります (Vtasalo, & Kvist 1983; Akiyama, Noh, Fukano, Miyakawa, Hirose, & Fukubayashi, 2015) 。

 

MTSSを持つサッカープレーヤーと健常なサッカープレーヤーのforward step中のtalocrual jointとsubtalor jointの動きを3Dで計測した実験ではsubtalar jointでのeversionとexternal rotationにおいてMTSSを持つ群が統計的に有意に大きかったことがわかりました (Akiyama et al., 2015)。

 

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さて、ここで問題になったeversionですが、eversionとinversionの筋力のバランスを調べた研究もありました (Yuksel, Ozgurbuz, Ergun, Islegen, Tackiran, Denerel, & Ertat, 2011) 。

 

この研究ではeversionとinversionのisokinetic concentric strengthを30°/secと120°/secの2種類の速度で計測しました。

 

Inversionの筋力には差は見られなかったものの、eversionの筋力の値はどちらの速度においてもMTSSのグループの方が統計的に有意に高いという結果でした。

               f:id:miwakosuzuki:20160221113658j:plain

ちなみにこのeversionとinversionの筋力のバランスの計測は足関節捻挫の研究に用いられる方法で、足関節捻挫の場合ではinversionの筋力が強かったという報告があります(Amaral De Noronha, & Borges Júnior, 2004) 。

また、足関節捻挫のケースに限定しなくても、このようにeversionとinversionの筋力のバランスを計測する実験では inversionの筋力の方が強いことが一般的であるようです。

 

では、MTSS患者の間で見られた"evertionの筋力がinversionの筋力より強い"ということが何を意味するのかということですが、この論文の中で検討されていたことは以下のとおりです。

 

ランニングのサイクルの中で、impactからmid stanceまでeccentricに収縮していたヒラメ筋が加速のためにconcentricの収縮に変わるタイミングで腓骨筋 (action: eversion & plantar flexion) が活動を始めます。

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腓骨筋は加速のためのplantar flexionに貢献しますが、その際、腓骨筋 (evertor) の方がinvertorより強いと、そうでない場合より足部がpronate (evert) されたままの時間が長くなります。そうするとsoleus (ヒラメ筋) fascia (筋膜) に牽引の力が長く加わり続けることになり、MTSSを誘発する、と。

 

ここまでsoleus fasciaのことには触れていなかったので、ここへ来てなぜsoleus fascia、と思ったかもしれませんが、この論文の中ではMTSSの原因をヒラメ筋の牽引力と見て説明しているので、このような解説になりました。

 

ここまでで書いた内容を大きくまとめると以下の3点。

1) MTSSのリスクファクターのひとつにnavicular dropがあり、

2) 過剰なnavicular dropは足部の過剰なpronationの指標で、実際にMTSS患者の動作中のpronation (eversion) は通常よりも大きい。 

3) またinversionとeversionの筋力のインバランスもランニング中の足部のpronation (eversion) を招き、それによりMTSSを誘発している可能性もある。

 

適切なインソールやテーピングの使用は過度なpronationを防くことができそうな気がするけれど、方法や効果に関してはもう少し調べなければ、というところです。

 

またインソールやテーピングを適切に使えるかどうかということに関しては、歩容からこの重心の通り道を見られるようになることもとても大切かなと思います。

 

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インソールなどについてはまた後ほどまとめられたらと思います。

 

 

 

 

参考文献

Amaral De Noronha, M., & Borges Júnior, N. G. (2004). Lateral ankle sprain: isokinetic test reliability and comparison between invertors and evertors. Clinical Biomechanics, 19(8), 868-871.

Hamstra-Wright, K. L., Huxel Bliven, K. C., & Bay, C. (2015). Risk factors for medial tibial stress syndrome in physically active individuals such as runners and military personnel: a systematic review and meta-analysis. British Journal Of Sports Medicine49(6), 362. doi:10.1136/bjsports-2014-093462

Akiyama, K., Noh, B., Fukano, M., Miyakawa, S., Hirose, N., & Fukubayashi, T. (2015). Analysis of the talocrural and subtalar joint motions in patients with medial tibial stress syndrome. Journal Of Foot & Ankle Research, 8(1), 1-8. doi:10.1186/s13047-015-0084-7

Noh, B., Masunari, A., Akiyama, K., Fukano, M., Fukubayashi, T., & Miyakawa, S. (2015). Structural deformation of longitudinal arches during running in soccer players with medial tibial stress syndrome. European Journal Of Sport Science15(2), 173-181.

Oakes, B. (1988). Tibial pain or shin soreness (shin splints): its cause, differential diagnosis and management. In , In, Draper, J. (ed.), Second report on the National Sports Research Program, August 1986-June 1988, s.l., Australian Sports Commission, 1988, p. 47-51.

Plisky, M., Rauh, M., Heiderscheit, B., Underwood, F., & Tank, R. (2007). Medial tibial stress syndrome in high school cross-country runners: incidence and risk factors. Journal Of Orthopaedic & Sports Physical Therapy37(2), 40-47 8p.

Yuksel, O., Ozgurbuz, C., Ergun, M., Islegen, C., Tackiran, E., Denerel, N., & Ertat, A. (2011). Inversion/eversion strength dysbalance in patients with medial tibial stress syndrome. Journal Of Sports Science And Medicine, (4), 737.

Vtasalo, J. T., & Kvist, M. (1983). Some biomechanical aspects of the foot and ankle in athletes with and without shin splints. American Journal Of Sports Medicine, 11(3), 125. doi:10.1177/036354658301100304 

 

画像

https://en.wikipedia.org/wiki/Extensor_hallucis_longus_muscle

http://www.physio-pedia.com/Navicular_Drop_Test

http://70sbig.com/blog/2011/12/foot-awareness/

http://www.wefixfeet.ca/sites/default/files/biomechanics.pdf

http://www.poweredbyroar.com/whitepaper/

 

動画

https://www.youtube.com/watch?v=7SK_O-NuFr4

 

"体幹トレーニング" を考える

何年か前から頻繁に聞かれるようになった「体幹」という言葉。

「体幹を使え」「体幹を鍛えろ」みなさんはどのように解釈していますか?

 

私自身も日本での学生トレーナー時代、それなりの根拠を持っているつもりで日々のトレーニングのメニューやリハビリのメニューに"体幹エクササイズ"を取り入れていましたが、どうも腑に落ちない部分も多く、選手からの「なぜこのエクササイズをやるの?」という問いかけにビビっていたのが正直なところでした。

 

"体幹エクササイズ"と言えば、おなじみのプランク。

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私も日本の大学で最初の2年はバレーボール部で選手としてプレーしていたので、このエクササイズ本当にたくさんやりました。

 

地味に見えるけれどパターンによっては結構キツいし、姿勢を維持する時間が増えれば増えるほど、終わったときには達成感もあり、プレーヤー時代には「やったる!」くらいにしか思ってなかった (今思うと駄目なアスリートだったなって感じですが) ので、このエクササイズに関する疑問が噴出してきたのは、学生アスレティックトレーナーに転向したあとでした。

 

"何秒間キープしたら良いんだろう"

"どうやって漸進させていこう?"

"ターゲットの腹横筋、多裂筋 (バックブリッジの場合) はどうやらアクティベートされるタイミングが重要らしい。だとしたらずっと姿勢を維持し続けるこの方法って効果あるのか?"

"体幹トレーニングを取り入れて暫く経つけど、選手は何かしら効果を実感しているのだろうか。果たしてこのトレーニングは本当に効果的なんだろうか..."

"私はこのトレーニングの成果を何を以て判断すればいいのか..."

 

こんな感じの疑問をいつも抱いていた訳です。明確な意見をお持ちの方がいれば、是非是非今からでも教えていただきたいです。

 

このトピックを選んだのは、自分の"体幹トレーニング"に対する考えを一旦まとめたいと思ったからです。

 

まず、"体幹"とは。

色々な定義が氾濫しており、もはや一概には言えない状況だと思いますが、私の教科書の定義を紹介するとこんな感じです。

"a four-sided muscular flame with abdominal muscles in front, paraspinals and gluteals in back, the diaphragm at the top, and the pelvic floor and hip girdle musculature flaming the bottom (McArdle, Katch, & Katch, 2014)"

 

上の定義でもまだ範囲が広いので今回は"体幹"と呼ばれる集合体の一部であり、おそらく最も大切であるだろう深部の筋に焦点を合わせようと思います。

それが腹横筋 (Transverse Abdominis)と多裂筋 (Multifidus)。

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腹横筋がどのように働くかを説明するのに頻繁に例え話として使われるのはコルセットのお話。腰痛持ちの人や、腰を痛めているアスリートがコルセットをしているのはよく見かける光景だと思いますが、私たちは天然のコルセットを元々持っています。それが腹横筋。上の画像で、腹横筋が腹部をぐるっとカバーしているのが分かると思います。この筋が収縮することにより人工のコルセットと同じように、腹圧を高めて脊椎を安定させてくれるのです。

 

そして、腹横筋がスポーツの世界で注目されているのは、この筋が動き (movement) の出発点としても重要だと捉えられているからではないでしょうか。

 

私たちが"動く"とき、例えば歩くとき、走るとき、ジャンプするとき、ボールを投げる/打つとき、私たちは無意識に腹横筋を四肢の筋に先立ってアクティベートしています。この予測的なearly activationはfeed-forwardと呼ばれ、私たちの"動きに"体幹の安定性 (core stability) や動的バランス (dynamic balance) を与えてくれています (Kaushik, & Sharma, 2013)。

 

そしてfeed-forwardと同様に重要なのが筋紡錘 (muscle spindle) や関節/皮膚のmechanoreceptorからのfeed-backの正確性/情報量です。 

 

前回のCAIの記事で、腓骨筋の筋紡錘のsensitivityの低下が反射性の収縮を遅れさせ、それにより足関節の安定性が低下しているのではないかということを書きましたが、同じことが体幹筋と体幹の安定性の関係においても言えそうです。

􀀩􀀧􀀉􀀊 􀀖􀀎

それを示しているのが、体幹の固有感覚 (proprioceptive sense) と膝の外傷発生の関係を検証したこの研究です。

The Effects of Core Proprioception on Knee Injury A Prospective Biomechanical-Epidemiological Study (Zazulak, Hewett, Reeves, Goldberg, & Cholweicki, 2007).

 

参加者は277人 (男性: 137人、女性: 140人) の大学生アスリート。最初に体幹のproprioceptionの正確性を測る実験を実施しベースラインを把握した上で、その後3年間で起きた膝の外傷を追跡しました。

 

実験で参加者に課された課題はこのようなもの。

1) 座席部分が水平面上で回転する装置に座り、被検者はその装置により、上肢を固定された状態から1秒に2°のペースで、体幹を20°回旋させられます。

2) 20°回転したのち、3秒停止してこの装置は1秒に1°のペースで元の位置に戻ります。 被験者が元のまっすぐな状態に戻ったと思うタイミングでスイッチを押し、装置をストップさせます (= passive test)。

3) 次に、passive testと同じ手順で20°回転したのち、今度は被験者が自分の力で体幹を回旋させ、元の状態に戻します (= active test)。

4) 各テスト4回ずつの練習を終えたあと、各テスト、各方向5回ずつ、順番をランダムにして行われました。この際、proprioceptionを検証するため、視覚と聴覚の情報は排除されました。

5) 各テストにおいて、元の位置と被験者が"元の位置だと感じた位置"の差が求められ、これがbaselineとされました。

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この研究での"膝の外傷"とは、靭帯 and/or 半月板の損傷、またはACLの損傷のみです。

 

3年の追跡調査の結果、277人 (男性:137人、女性: 140人)の被験者のうち25人 (男性: 14人、女性: 11人) が追跡が行われた3年間で膝を負傷しました。さらに細かく言うと、靭帯 and/or 半月板の損傷は男性9人、女性7人の合計16人。ACLの損傷は男性2人、女性4人の合計6人。

 

1) 負傷しなかった女性: uninjured female、2) 負傷した女性: injured female

3) 負傷しなかった男性: uninjured male、4) 負傷した男性: injured male

この4つのグループのactive proprioceptive repositioning (active testにおいて元の位置からずれていた角度: 以下APR) の平均を怪我の種類ごとに示したグラフが下の図です。

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統計的に有意な差が認められたのは膝を負傷をした女性としていない女性。負傷の種類を靭帯/半月板に限るとこの2群の平均の差はもう少し大きくなり、APRのエラーが1°増えるごとに負傷の確率が3.3倍になるという関係が計算されました。

 

つまり、この研究結果は女性において体幹のproprioceptorが十分正確に姿勢の変化をfeed-backできないと、膝を負傷する可能性が高まる、ということを示しています。

 

Passive testには有意な差は見られませんでしたが、これが何を意味するかということに関して、著者はactive testとpassive testの各テストでproprioceptionをfeed-backするsensory receptorの違いを理由に挙げています。

 

Active testでは被験者が自力で元の位置まで戻るので、ここでsensory informationをfeed-backしているのは筋紡錘だろう。そしてpassive testでは実験装置が回転して元の位置に戻るので筋からのfeed-backは減少し、皮膚や関節のmechanoreceptorからのsensory informationが増えるだろう、ということでした。

 

なぜsensory receptorからのfeed-backが重要かというと、outcomeとしてのmotor controlは入ってくる情報 (sensory information) を元に行われるからです。正確で十分な情報が入ってきてこそ、それに応じた適切な動きができるというわけです。

 

これを踏まえると、この研究で発見された"体幹のproprioception↓ ➡︎ 膝の外傷↑"という関係の間には "proprioception↓feed-backの正確性↓姿勢の調整能力↓動的バランス能力↓膝の外傷リスク↑"というさらに細かな因果関係が見えるかと思います。

 

さてここで"体幹トレーニング"に戻ります。

みなさんは"体幹トレーニング"で何を鍛えますか?

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私の答えはneuromuscular control。Feed-back - adjustmentのサイクルです。

もちろんより高いパフォーマンスを求める過程では、上の図にあるように筋力・持久力・パワーを鍛える必要があり、neuromuscular controlが全てではないのは自明です。

 

ただ、四肢に比べて重く、床から離れた位置にある体幹は、その制御が動的バランスに大きく影響を与えるので、私は傷害予防・リハビリの観点から体幹トレーニングではneuromuscular control鍛える必要があると思います。 

 

その方法は月並みではありますが、一般的なバランストレーニングと同じ要領で支持基底面を狭くしたり、surfaceを変えたり、動きや外乱を加えたり、という変化の中で姿勢を維持するエクササイズが有効ではないかと思います。

 

上で紹介した研究結果が物語るように、proprioceptionの正確性はとても重要です。エクササイズを指導する立場としては、自分と選手が同じ映像を頭の中で見ているかということと、その映像と実際に選手が行っていることが一致しているか、ということにはとても敏感になる必要があると思います。

 

つまり選手が「こうやっている」と頭で思っていること実際にやっていることにズレがある状況は好ましくないということです。

 

Feed-back - adjustmentのサイクルを多用するエクササイズを実施することと、外からの (指導者からの) feed-backによりさらにadjustmentを促すことで正しいproprioceptionを再学習させる、ということがneuromuscular controlを鍛えるということなのではないかなと思っています。

 

さて、私がここで言っている"体幹トレーニング"が一般的な"体幹トレーニング"とズレていると感じる方もいるんじゃないかと書いていて予想しています。なので、いわゆる"体幹トレーニング"であるプランクにも触れたいと思います。

 

プランクの姿勢を維持するのに必要な筋力はアスリートにとってはそれほど高くはありません。だから、プランクをして"体幹が強くなる"というのは違う気がします。

 

もちろん姿勢を維持する時間を伸ばすことで、筋持久力は鍛えられますが、筋力という意味では、世間で信じられているほどの効果はないのではないかと思います。

 

でも、だからといって私はプランクを否定している訳ではありません。むしろ私はプランクは"スイッチを入れる"という役割においてとても有効なエクササイズであると思っています。

 

どういうことかというと、プランクは体幹筋をアクティベートするのにはとても有効なエクササイズではないかということです。この記事の最初の方に腹横筋にはfeed-forwardという機能があり、腹横筋が四肢の動きに先立って収縮することが動的バランスに貢献しているということを紹介しました。

 

腰痛を持っている人や既往者の間ではこのfeed-forwardが機能していない場合が多いと言われていますが、腹横筋を選択的に収縮するエクササイズをした後にfeed-forward機能が改善されたという研究結果があります (Tsao & Hodges, 2007) 。この研究で使われたエクササイズはプランクではありませんが、健常者を対象にした別の研究ではプランクを含む体幹のスタビリゼーション系のエクササイズが動的バランスを即行で向上させたという結果が得られています (Imai, Kanaoka, Okubo, & Shiraki, 2014) 。

 

これらの結果から考えると、プランクはウォーミングアップやトレーニング・リハビリの最初のエクササイズとして行われることで、その後の練習やトレーニング・リハビリにより安全で良い状態で移行させる、という使い方ができると思います。

 

日本の大学に所属しているとき、バレーボールのリーグ会場にプランクなどのエクササイズをウォーミングアップに取り入れているチームがたくさんいたのを覚えています。

先ほど紹介したTsao and Hodges (2007) の研究では、腰痛患者の間でのfeed-forwardの改善の程度の大きさは、どれほど腹横筋をisolateして収縮できていたかということに比例したということも確認されました。これを考えるとウォーミングアップで体幹深部筋のエクササイズを取り入れることはとても有効である一方で、正しく行わないと効果は得られないという難しさもはらんでいるということが言えると思います。

 

チーム全体に指導する難しさは、一対一で指導するのとはまた違うものだというのはいつも感じていました。チーム指導する際に全員に妥協なく指導することはとても難しい、というか人数比によっては無理な場合もあると思います。でも、「これを外したら効果が半減してしまう」というポイントにはこだわって指導していく必要があるなと思います。特に体幹深部筋のエクササイズは適切に行うのが難しい場合が多いので、自分も指導の仕方を工夫しなければといつも思います。

 

というわけで、今回は体幹のproprioceptionと傷害発生の関係から、体幹トレーニングによってneuromuscular controlを鍛える必要性、それから一般的な"体幹トレーニング"であるプランクへの考え方、使い方をまとめてみました。

 

今流行の"体幹トレーニング"はやれば何にでも効く万能なエクササイズであるというわけはありません。いつも自分に言い聞かせることではありますが、指導者としての立場でスポーツ現場にいる場合、"良さそうだから"とか"流行っているから"はそのエクササイズを取り入れる理由にはなりません。流行のものにはやって当たり前な雰囲気が漂うことが多いように感じます。そのようなものにこそ立ち止まってじっくり考える時間を設けられたらと思います。

 

全然別の話になりますが、アスレティックトレーナーやストレングスコーチだけでなく、技術系のコーチも使うようになったこの"体幹"という言葉。コーチの「体幹を使え」という指示が何を意味しているのか、コミュニケーションが必要だと思います。そうすることで今や色々な意味が付加された"体幹"という言葉がATにもSCにもコーチにも、そして選手にも、具体性のあるイメージしやすい言葉になると思います。

 

この記事に含めてまとめるのが難しくて紹介できませんでしたが、体幹の安定性と傷害、それからパフォーマンスの関係をまとめたsystematic reviewがあったので紹介します。画像を使わせていただきました。

Critical review of the impact of core stability on upper extremity athletic injury and performance (Silfies, Ebaugh, Pontillo, & Butowicz, 2015).

 

体幹に関してはまだまとめたいことがあるので、また色々かけたらと思います。

  

 

 

参考文献

Imai, A., Kanaoka, K., Okubo, Y., & Shiraki, H. (2014). COMPARISON OF THE IMMEDIATE EFFECT OF DIFFERENT TYPES OF TRUNK EXERCISE ON THE STAR EXCURSION BALANCE TEST IN MALE ADOLESCENT SOCCER PLAYERS. International Journal Of Sports Physical Therapy, 9(4), 428.

Kaushik, A., & Sharma, S. (2013). A Correlation between Latency Period of Transverse Abdominis and Dynamic Balance: An EMG Study. Physiotherapy & Occupational Therapy Journal, 6(3), 125-134.

McArdle, W.D., Katch, F.I., & Katch, V.K. (2014) Exercise physiology: Energy,nutrition, and human performance. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins.

Silfies, S. P., Ebaugh, D., Pontillo, M., & Butowicz, C. M. (2015). Critical review of the impact of core stability on upper extremity athletic injury and performance. Brazilian Journal Of Physical Therapy / Revista Brasileira De Fisioterapia, 19(5), 360-368.

Tsao, H., & Hodges, P. (2007). Immediate changes in feedforward postural adjustments following voluntary motor training. Experimental Brain Research, 181(4), 537-546.

Zazulak, B. T., Hewett, T. E., Reeves, N. P., Goldberg, B., & Cholweicki, J. (2007). The Effects of Core Proprioception on Knee Injury A Prospective Biomechanical-Epidemiological Study. American Journal Of Sports Medicine, 35(3), 368-373.

 

 

画像

https://www.t-nation.com/training/core-training-that-isnt-stupid

http://successurls.org/desktop?se=google.com&utm_source=www.shinobiexchange.com&utm_medium=redirect&utm_campaign=general&utm_content=general&utm_term=stomach+vacuum%2C+transverse+abdominis

http://www.coreconcepts.com.sg/article/multifidus-smallest-yet-most-powerful-muscle/

Neuromuscular Changes (後半: Chronic Ankle Instability)

前回の予告通りChronic Ankle Instability (CAI) についてまとめようと思います。

 

その前に。スポーツをやっている、もしくはやっていた人の中には足首の捻挫を経験した人は多いのではないでしょうか?というのも、スポーツに関連する傷害の中で足首の捻挫 (ankle Sprain)は最も頻繁に起き、スポーツ傷害全体の約15%がankle sprainだという報告もあるからです (Ferber, Bolgla, Earl-Boehm, Emery, & Hamstra-Wright, 2015)。

 

そしてankle sprainがとても厄介であるのは、後に不安定性を残しやすいという点ではないでしょうか。例えば、切り返しなどの際に不安感を感じたり、足首がぐらつくような感じがあったり。この不安定感がどんなものなのか、私自身経験がなく分かりかねる部分も多いですが、日本の大学での学生アスレティックトレーナー時代に選手から聞いた表現はこのようなものだったと思います。

 

今回私がトピックに選んだCAIは、Ferber et al. (2015)の研究では以下のように定義されています。

"This condition is characterized by mechanical and functional instability of the ankle, as well as residual symptoms of "giving way" or ankle instability for at least 1 year after an initial sprain."

簡単に言うと受傷から1年以上続く足首の構造的な不安定性と機能的な不安定性。ここでの1年という数字は研究で被験者を選定するため便宜的な数字だと思われるので、「受傷後も長い間続く足首の不安定感」と認識して大丈夫だと思います。著者によると全体のankle sprain受傷者の40%がCAIの症状を訴えるのだそうです。

 

構造的な変化といえば。CAIのあるankle sprain既往者、CAIのないankle sprain既往者、それからankle sprainの既往のない健常者の前距腓靭帯 (Anterior Talofibular Ligament: 以下ATFL) の構造的な違いを検証した研究がありました。

 

それがMusculoskeletal Ultrasoundを使用してATFLの厚さ (thickness) を測ったこの研究です。

Increased ligament thickness in previously sprained ankles as measured by musculoskeletal ultrasound (Liu, Gustavsen, Royer, Wikstrom, Glutting, & Kaminski, 2015)

 

Musculoskeletal ulrasoundの画像を使ったATFLの厚さの計測はこんな感じらしい。

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 結果は、健常者グループankle sprain既往はあるけどCAIのないグループ、それから健常者グループankle sprain既往があってCAIもあるグループの両方に統計的に有意な差が認められ (それぞれp=0.015, p=0.015)、ankle sprainの既往がある足のATFLが0.25mmから0.33mm厚くなっていたことが分かりました。この値は既往のないATFLの約16%の厚さにあたり、一度損傷したATFLにはCAIの有無に関わらず、かなり大きな構造的な変化が起きていたようです。

 

動物を対象に行った実験では、損傷後に修復された靭帯では健常な靭帯と同じ"動き"は確保されるものの、負荷に対する耐性 (load capacity)は60%減ってしまうことが確認されており、修復後の靭帯に構造的な弱さがあることは間違いないでしょう。

 

ここでひとまず振り返る。怪我からの修復後の靭帯が構造的な脆弱性を持っていることはわかった。でもCAIのないankle sprain既往者にも同じように構造の変化が見られたということは、構造的な脆弱性はCAIにはそれほど関係ない、のか。

構造的な変化がもたらすCAIへの影響に関しては、ここで検証された靭帯の厚さだけでなく、弛緩性等も影響を与え得るとは思いますが、勉強が及んでいないのでそれは置いておいて先に進みたいと思います。

 

次は機能の変化に関して。

冒頭でCAIの定義を示すのに取り上げた研究をここでも紹介したいと思います。

Lower Extremity Muscle Activation in Patients With or Without Chronic Ankle Instability During Walking. (Ferber et al., 2015)

 

この研究では歩行中の下肢の筋のアクティベーションのタイミングが測られました。計測された筋は1) 前脛骨筋筋:Anterior Tibialis 2) 長腓骨筋: Peroneus Longus 3)腓腹筋外側頭: Lateral Gastrocnemius 4) 大腿直筋: Rectus Femoris 5) 大腿二頭筋: Biceps Femoris 6) 中殿筋: Gluteus Mediusです。 

 

結果を簡単に紹介し、考察の的を搾るためにここでは長腓骨筋に焦点を合わせようと思います。長腓骨筋は足関節を跨いで下腿の外側を走る筋肉で、足関節の外側の安定性に大きく貢献する筋です。

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この長腓骨筋のアクティベーションのタイミング、CAIの有無でどのような違いがあったと思いますか?

私は単純に「不安定性がある、となるとアクティベーションは遅れるのかな」と予想しましたが、結果は逆。

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健康なグループの長腓骨筋は歩行中に踵が地面についたあと、さらにmidstance期まで腓骨筋がアクティベートされないのに対して、CAIを持つグループは踵が地面に着く前からアクティベートされていました。

 

この現象に対する著者の考えは、"不安定性を克服するためにfeed-forwardのmotor control patternを学習したのではないか" ということでした。

そしてこれは必ずしも好ましい適応ではない、とも。

 

長腓骨筋は健康なグループのアクティベーションのタイミングを見ると、本来、gait cycleの中でもmidstance期に、加重 (weight-bearing) 下でのdynamicな安定性、それから推進力を生み出す底屈の動きに貢献するべき筋であることがわかります。

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一方、CAIを持つグループでは踵が地面に着く前から長腓骨筋のアクティベーションが確認されましたが、この場合、open kineticで足関節を外反させるために長腓骨筋が使われており、加重下でのdynamicなstabilizerとしての役割が果たされていない可能性があるということがこの研究の中で検討されています。

 

そして少し話は変わりますが、私にとってとても興味深いのが反射 (reflex) のお話。

反射と言えば、おなじみのこの膝蓋腱反射。膝蓋腱をタップすると膝蓋腱を通して大腿四頭筋がストレッチされ、その情報がsensory neuronによって脊髄まで伝えられます。そしてその情報は脳へ伝えられることなく脊髄からmotor neuronを通して直接筋へ指令が出され、即座に大腿四頭筋は収縮、ハムストリングは弛緩します。結果、タップした直後に膝の伸展が見られるというのが一連の流れです。

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もう少し細かいことを説明すると、筋の中には筋紡錘 (muscle spindle) という感覚受容器があります。筋紡錘は1) 筋の長さの増加 2) 筋がストレッチされるスピードの増加 の2種類の刺激によりアクティベートされ、その情報を脊髄へ伝えます。上の膝蓋腱反射においてもストレッチされた情報を感知していたのは、大腿四頭筋の中にある筋紡錘です。

 

反射のメリットと言えばなんといっても、プロセスが短い分、反応が早いことです。私たちの身体は筋紡錘により筋の長さの変化を感知し、その反応としての筋の収縮を起こすことでバランスをとり姿勢を維持しています。片足立ちをして足の筋に集中してみると、たくさんの筋が働き合ってバランスを維持しようとしているのを感じられると思います。

 

では、CAIと反射には何が関係あるのか。

また長腓骨筋のお話に戻ります。先述したように長腓骨筋は足関節の外側のdynamic stabilizerとしてとても重要な役割を果たします。また、足関節の捻挫の大多数は足首を内側に捻る内反捻挫。ですから足首が内側に捻られる動きに対して、長腓骨筋は即座に反応して収縮すること (反射) により完全に足首が捻られてしまうのを防ぐ、というミッションを持つ筋でもあります。

 

Postural controlとヒラメ筋、長腓骨筋の反射の関係を検証した研究 (Kim, Ingersoll, & Hertel, 2012) によると、CAIを持つグループでは、1) うつ伏せ 2) 両足立ち 3) 片足立ち と、postural controlの難易度を上げるにつれ、motor neuronのexcitabilityが顕著に減少した、そうです。

 

もう一度この図を... (これは大腿四頭筋の図ですが、これをそのまま長腓骨筋だと思って解釈してもらえたらと思います。)

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"Motor neuronのexcitabilityが減少" とは。脊髄からQuadricepsへ向う紫のefferent neuron (motor neuron) に筋収縮の命令がだされにくくなっているということです。

 

このmotor neuronのexcitabilityは筋紡錘 (muscle spindle) のsensitivityに大きく依存しています。

 

つまり、筋紡錘がきちんと筋の長さの変化を感知してくれるかどうかが、適切な反射が起きるかどうかという問題の鍵だ、ということです。

 

これを理解した上でこの研究の結果に戻ります。CAIを持つグループでpostural controlの難易度が上がると、反射が起きにくくなる。つまり体重移動や姿勢のコントロールの連続であるスポーツにおいて、CAIがあるとバランスを崩しても反射のメカニズムが上手く機能しないために、バランスを崩しても体勢をうまく立て直せない、ということが言えます。

 

この「バランスが取れない」という心理的な不安感や、機能的な不安定感がCAIの定義と合致するならば、筋紡錘のsensitivityが低下するというdysfunctionがCAIの原因のひとつであるということも言ってよいかと思います。

 

全然まとまりのないことを長々と書いてしまいましたが、一応まとめると。

1) CAIとはankle sprain受傷後長い間続く不安定感のことで、

2) ankle sprainの既往者にはATFLの厚さが増すという構造的な変化が確認されたが、この変化はCAIのないankle sprain既往者にも見られたため、この変化はCAIのonsetに直接関係するものではないだろう。

3) CAIを持つグループの歩行中の下肢の筋のアクティベーションのタイミングを見てみると、健常者よりも早い段階で長腓骨筋がアクティベートされており、不安定さを克服するための戦略とみられるのfeed-forwardが学習されていた。

4) 一方、このfeed-forwardの学習により、本来足関節の重要なdynamic stabilizerとして機能すべき長腓骨筋がその役割を果たしていない可能性もある。

5) 長腓骨筋の反射的収縮は足関節の内反捻挫を防ぐ重要なメカニズムであるが、CAIのグループの長腓骨筋では、この反射が上手く機能していないことがわかり、

6) この反射の機能不全が、CAIの「不安感」や「不安定感」の正体であるのではないか。

 

今回は触れられなかったけれど、CAIに寄与する可能性のある他の要因の検討やCAIを克服するための方法は、また次回以降まとめられたらと思います。 

 

文章はもちろん、引用の仕方等に関しても、何かお気づきの点があればアドバイスをいただけたら嬉しいです。

 

 

参考文献

Clayton, M. L., Miles, J. S., & Abdulla, M. (1968). Experimental investigations of ligamentous healing. Clinical Orthopaedics And Related Research, 61146-153.

Ferber, R., Bolgla, L., Earl-Boehm, J. E., Emery, C., & Hamstra-Wright, K. (2015). Lower Extremity Muscle Activation in Patients With or Without Chronic Ankle Instability During Walking. Journal Of Athletic Training (Allen Press), 50(4), 350-357.

Kim, K., Ingersoll, C. D., & Hertel, J. (2012). Altered postural modulation of Hoffmann reflex in the soleus and fibularis longus associated with chronic ankle instability. Journal Of Electromyography And Kinesiology, 22997-1002. doi:10.1016/j.jelekin.2012.06.002

Korkala, O., Rusanen, M., & Grönblad, M. (1983). Healing of experimental ligament rupture: Findings by scanning electron microscopy. Archives Of Orthopaedic & Traumatic Surgery / Archiv Für Orthopädie, Mechanotherapie Und Unfallchirurgie, 102(3), 179. doi:10.1007/BF00575229

Liu, K., Gustavsen, G., Royer, T., Wikstrom, E. A., Glutting, J., & Kaminski, T. W. (2015). Increased ligament thickness in previously sprained ankles as measured by musculoskeletal ultrasound. Journal Of Athletic Training, (2), 193. doi:10.4085/1062-6050-49.3.77

 

画像

(ここで使用した画像はGoogleの画像検索で探したものですが、使用元のURLをここに貼ります。)

http://www.physio-pedia.com/Gait_in_prosthetic_rehabilitation

http://www.rehab4runners.co.uk/running-injuries/lower-leg-pain/peroneal-tendonitis-tendinopathy/

http://aandponline.com/?p=140