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Papyrus

考えたことや調べたことを残しておこうと思います。

Neuromuscular Changes (後半: Chronic Ankle Instability)

前回の予告通りChronic Ankle Instability (CAI) についてまとめようと思います。

 

その前に。スポーツをやっている、もしくはやっていた人の中には足首の捻挫を経験した人は多いのではないでしょうか?というのも、スポーツに関連する傷害の中で足首の捻挫 (ankle Sprain)は最も頻繁に起き、スポーツ傷害全体の約15%がankle sprainだという報告もあるからです (Ferber, Bolgla, Earl-Boehm, Emery, & Hamstra-Wright, 2015)。

 

そしてankle sprainがとても厄介であるのは、後に不安定性を残しやすいという点ではないでしょうか。例えば、切り返しなどの際に不安感を感じたり、足首がぐらつくような感じがあったり。この不安定感がどんなものなのか、私自身経験がなく分かりかねる部分も多いですが、日本の大学での学生アスレティックトレーナー時代に選手から聞いた表現はこのようなものだったと思います。

 

今回私がトピックに選んだCAIは、Ferber et al. (2015)の研究では以下のように定義されています。

"This condition is characterized by mechanical and functional instability of the ankle, as well as residual symptoms of "giving way" or ankle instability for at least 1 year after an initial sprain."

簡単に言うと受傷から1年以上続く足首の構造的な不安定性と機能的な不安定性。ここでの1年という数字は研究で被験者を選定するため便宜的な数字だと思われるので、「受傷後も長い間続く足首の不安定感」と認識して大丈夫だと思います。著者によると全体のankle sprain受傷者の40%がCAIの症状を訴えるのだそうです。

 

構造的な変化といえば。CAIのあるankle sprain既往者、CAIのないankle sprain既往者、それからankle sprainの既往のない健常者の前距腓靭帯 (Anterior Talofibular Ligament: 以下ATFL) の構造的な違いを検証した研究がありました。

 

それがMusculoskeletal Ultrasoundを使用してATFLの厚さ (thickness) を測ったこの研究です。

Increased ligament thickness in previously sprained ankles as measured by musculoskeletal ultrasound (Liu, Gustavsen, Royer, Wikstrom, Glutting, & Kaminski, 2015)

 

Musculoskeletal ulrasoundの画像を使ったATFLの厚さの計測はこんな感じらしい。

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 結果は、健常者グループankle sprain既往はあるけどCAIのないグループ、それから健常者グループankle sprain既往があってCAIもあるグループの両方に統計的に有意な差が認められ (それぞれp=0.015, p=0.015)、ankle sprainの既往がある足のATFLが0.25mmから0.33mm厚くなっていたことが分かりました。この値は既往のないATFLの約16%の厚さにあたり、一度損傷したATFLにはCAIの有無に関わらず、かなり大きな構造的な変化が起きていたようです。

 

動物を対象に行った実験では、損傷後に修復された靭帯では健常な靭帯と同じ"動き"は確保されるものの、負荷に対する耐性 (load capacity)は60%減ってしまうことが確認されており、修復後の靭帯に構造的な弱さがあることは間違いないでしょう。

 

ここでひとまず振り返る。怪我からの修復後の靭帯が構造的な脆弱性を持っていることはわかった。でもCAIのないankle sprain既往者にも同じように構造の変化が見られたということは、構造的な脆弱性はCAIにはそれほど関係ない、のか。

構造的な変化がもたらすCAIへの影響に関しては、ここで検証された靭帯の厚さだけでなく、弛緩性等も影響を与え得るとは思いますが、勉強が及んでいないのでそれは置いておいて先に進みたいと思います。

 

次は機能の変化に関して。

冒頭でCAIの定義を示すのに取り上げた研究をここでも紹介したいと思います。

Lower Extremity Muscle Activation in Patients With or Without Chronic Ankle Instability During Walking. (Ferber et al., 2015)

 

この研究では歩行中の下肢の筋のアクティベーションのタイミングが測られました。計測された筋は1) 前脛骨筋筋:Anterior Tibialis 2) 長腓骨筋: Peroneus Longus 3)腓腹筋外側頭: Lateral Gastrocnemius 4) 大腿直筋: Rectus Femoris 5) 大腿二頭筋: Biceps Femoris 6) 中殿筋: Gluteus Mediusです。 

 

結果を簡単に紹介し、考察の的を搾るためにここでは長腓骨筋に焦点を合わせようと思います。長腓骨筋は足関節を跨いで下腿の外側を走る筋肉で、足関節の外側の安定性に大きく貢献する筋です。

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この長腓骨筋のアクティベーションのタイミング、CAIの有無でどのような違いがあったと思いますか?

私は単純に「不安定性がある、となるとアクティベーションは遅れるのかな」と予想しましたが、結果は逆。

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健康なグループの長腓骨筋は歩行中に踵が地面についたあと、さらにmidstance期まで腓骨筋がアクティベートされないのに対して、CAIを持つグループは踵が地面に着く前からアクティベートされていました。

 

この現象に対する著者の考えは、"不安定性を克服するためにfeed-forwardのmotor control patternを学習したのではないか" ということでした。

そしてこれは必ずしも好ましい適応ではない、とも。

 

長腓骨筋は健康なグループのアクティベーションのタイミングを見ると、本来、gait cycleの中でもmidstance期に、加重 (weight-bearing) 下でのdynamicな安定性、それから推進力を生み出す底屈の動きに貢献するべき筋であることがわかります。

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一方、CAIを持つグループでは踵が地面に着く前から長腓骨筋のアクティベーションが確認されましたが、この場合、open kineticで足関節を外反させるために長腓骨筋が使われており、加重下でのdynamicなstabilizerとしての役割が果たされていない可能性があるということがこの研究の中で検討されています。

 

そして少し話は変わりますが、私にとってとても興味深いのが反射 (reflex) のお話。

反射と言えば、おなじみのこの膝蓋腱反射。膝蓋腱をタップすると膝蓋腱を通して大腿四頭筋がストレッチされ、その情報がsensory neuronによって脊髄まで伝えられます。そしてその情報は脳へ伝えられることなく脊髄からmotor neuronを通して直接筋へ指令が出され、即座に大腿四頭筋は収縮、ハムストリングは弛緩します。結果、タップした直後に膝の伸展が見られるというのが一連の流れです。

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もう少し細かいことを説明すると、筋の中には筋紡錘 (muscle spindle) という感覚受容器があります。筋紡錘は1) 筋の長さの増加 2) 筋がストレッチされるスピードの増加 の2種類の刺激によりアクティベートされ、その情報を脊髄へ伝えます。上の膝蓋腱反射においてもストレッチされた情報を感知していたのは、大腿四頭筋の中にある筋紡錘です。

 

反射のメリットと言えばなんといっても、プロセスが短い分、反応が早いことです。私たちの身体は筋紡錘により筋の長さの変化を感知し、その反応としての筋の収縮を起こすことでバランスをとり姿勢を維持しています。片足立ちをして足の筋に集中してみると、たくさんの筋が働き合ってバランスを維持しようとしているのを感じられると思います。

 

では、CAIと反射には何が関係あるのか。

また長腓骨筋のお話に戻ります。先述したように長腓骨筋は足関節の外側のdynamic stabilizerとしてとても重要な役割を果たします。また、足関節の捻挫の大多数は足首を内側に捻る内反捻挫。ですから足首が内側に捻られる動きに対して、長腓骨筋は即座に反応して収縮すること (反射) により完全に足首が捻られてしまうのを防ぐ、というミッションを持つ筋でもあります。

 

Postural controlとヒラメ筋、長腓骨筋の反射の関係を検証した研究 (Kim, Ingersoll, & Hertel, 2012) によると、CAIを持つグループでは、1) うつ伏せ 2) 両足立ち 3) 片足立ち と、postural controlの難易度を上げるにつれ、motor neuronのexcitabilityが顕著に減少した、そうです。

 

もう一度この図を... (これは大腿四頭筋の図ですが、これをそのまま長腓骨筋だと思って解釈してもらえたらと思います。)

             f:id:miwakosuzuki:20160208013101p:plain

"Motor neuronのexcitabilityが減少" とは。脊髄からQuadricepsへ向う紫のefferent neuron (motor neuron) に筋収縮の命令がだされにくくなっているということです。

 

このmotor neuronのexcitabilityは筋紡錘 (muscle spindle) のsensitivityに大きく依存しています。

 

つまり、筋紡錘がきちんと筋の長さの変化を感知してくれるかどうかが、適切な反射が起きるかどうかという問題の鍵だ、ということです。

 

これを理解した上でこの研究の結果に戻ります。CAIを持つグループでpostural controlの難易度が上がると、反射が起きにくくなる。つまり体重移動や姿勢のコントロールの連続であるスポーツにおいて、CAIがあるとバランスを崩しても反射のメカニズムが上手く機能しないために、バランスを崩しても体勢をうまく立て直せない、ということが言えます。

 

この「バランスが取れない」という心理的な不安感や、機能的な不安定感がCAIの定義と合致するならば、筋紡錘のsensitivityが低下するというdysfunctionがCAIの原因のひとつであるということも言ってよいかと思います。

 

全然まとまりのないことを長々と書いてしまいましたが、一応まとめると。

1) CAIとはankle sprain受傷後長い間続く不安定感のことで、

2) ankle sprainの既往者にはATFLの厚さが増すという構造的な変化が確認されたが、この変化はCAIのないankle sprain既往者にも見られたため、この変化はCAIのonsetに直接関係するものではないだろう。

3) CAIを持つグループの歩行中の下肢の筋のアクティベーションのタイミングを見てみると、健常者よりも早い段階で長腓骨筋がアクティベートされており、不安定さを克服するための戦略とみられるのfeed-forwardが学習されていた。

4) 一方、このfeed-forwardの学習により、本来足関節の重要なdynamic stabilizerとして機能すべき長腓骨筋がその役割を果たしていない可能性もある。

5) 長腓骨筋の反射的収縮は足関節の内反捻挫を防ぐ重要なメカニズムであるが、CAIのグループの長腓骨筋では、この反射が上手く機能していないことがわかり、

6) この反射の機能不全が、CAIの「不安感」や「不安定感」の正体であるのではないか。

 

今回は触れられなかったけれど、CAIに寄与する可能性のある他の要因の検討やCAIを克服するための方法は、また次回以降まとめられたらと思います。 

 

文章はもちろん、引用の仕方等に関しても、何かお気づきの点があればアドバイスをいただけたら嬉しいです。

 

 

参考文献

Clayton, M. L., Miles, J. S., & Abdulla, M. (1968). Experimental investigations of ligamentous healing. Clinical Orthopaedics And Related Research, 61146-153.

Ferber, R., Bolgla, L., Earl-Boehm, J. E., Emery, C., & Hamstra-Wright, K. (2015). Lower Extremity Muscle Activation in Patients With or Without Chronic Ankle Instability During Walking. Journal Of Athletic Training (Allen Press), 50(4), 350-357.

Kim, K., Ingersoll, C. D., & Hertel, J. (2012). Altered postural modulation of Hoffmann reflex in the soleus and fibularis longus associated with chronic ankle instability. Journal Of Electromyography And Kinesiology, 22997-1002. doi:10.1016/j.jelekin.2012.06.002

Korkala, O., Rusanen, M., & Grönblad, M. (1983). Healing of experimental ligament rupture: Findings by scanning electron microscopy. Archives Of Orthopaedic & Traumatic Surgery / Archiv Für Orthopädie, Mechanotherapie Und Unfallchirurgie, 102(3), 179. doi:10.1007/BF00575229

Liu, K., Gustavsen, G., Royer, T., Wikstrom, E. A., Glutting, J., & Kaminski, T. W. (2015). Increased ligament thickness in previously sprained ankles as measured by musculoskeletal ultrasound. Journal Of Athletic Training, (2), 193. doi:10.4085/1062-6050-49.3.77

 

画像

(ここで使用した画像はGoogleの画像検索で探したものですが、使用元のURLをここに貼ります。)

http://www.physio-pedia.com/Gait_in_prosthetic_rehabilitation

http://www.rehab4runners.co.uk/running-injuries/lower-leg-pain/peroneal-tendonitis-tendinopathy/

http://aandponline.com/?p=140