PAPYRUS

アメリカの大学院でアスレティックトレーニングを学んでいます。考えたことや調べたことを残しておく目的でブログを書いています。

"体幹トレーニング" を考える

何年か前から頻繁に聞かれるようになった「体幹」という言葉。

「体幹を使え」「体幹を鍛えろ」みなさんはどのように解釈していますか?

 

私自身も日本での学生トレーナー時代、それなりの根拠を持っているつもりで日々のトレーニングのメニューやリハビリのメニューに体幹エクササイズを取り入れていましたが、どうも腑に落ちない部分も多く、選手からの「なぜこのエクササイズをやるの?」という問いかけにビビっていたのが正直なところでした。

 

「体幹エクササイズ」と言えば、おなじみのプランク。

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私も日本の大学で最初の2年はバレーボール部で選手としてプレーしていたので、このエクササイズ本当にたくさんやりました。

 

地味に見えるけれどパターンによっては結構キツいし、姿勢を維持する時間が増えれば増えるほど、終わったときには達成感もあり、プレーヤー時代には「やったる!」くらいにしか思ってなかった (今思うと駄目なアスリートだったなって感じですが) ので、このエクササイズに関する疑問が噴出してきたのは、学生アスレティックトレーナーに転向したあとでした。

 

「何秒間キープしたら良いんだろう」「どうやって漸進させていこう」「ターゲットの腹横筋、多裂筋 (バックブリッジの場合) はどうやらアクティベートされるタイミングが重要らしい。だとしたらずっと姿勢を維持し続けるこの方法って効果あるのか」「体幹トレーニングを取り入れて暫く経つけど、選手は何かしら効果を実感しているのだろうか。果たしてこのトレーニングは本当に効果的なんだろうか」「トレーニングの成果を何を以て判断すればいいのか」などなど。

 

こんな感じの疑問をいつも抱いていた訳です。明確な意見をお持ちの方がいれば、是非是非今からでも教えていただきたいです。

 

このトピックを選んだのは、自分の「体幹トレーニング」に対する考えを一旦まとめたいと思ったからです。

 

まず、「体幹」とは。

色々な定義が氾濫しており、もはや一概には言えない状況だと思いますが、私の教科書の定義を紹介するとこんな感じです。

a four-sided muscular flame with abdominal muscles in front, paraspinals and gluteals in back, the diaphragm at the top, and the pelvic floor and hip girdle musculature flaming the bottom1 

 

上の定義でもまだ範囲が広いので今回は"体幹"と呼ばれる集合体の一部であり、おそらく最も大切であるだろう深部の筋に焦点を合わせようと思います。

それが腹横筋 (Transverse Abdominis)と多裂筋 (Multifidus)。

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腹横筋がどのように働くかを説明するのに頻繁に例え話として使われるのはコルセットのお話。腰痛持ちの人や、腰を痛めているアスリートがコルセットをしているのはよく見かける光景だと思いますが、私たちは天然のコルセットを元々持っています。それが腹横筋。上の画像で、腹横筋が腹部をぐるっとカバーしているのが分かると思います。この筋が収縮することにより人工のコルセットと同じように、腹圧を高めて脊椎を安定させてくれるのです。

 

そして、腹横筋がスポーツの世界で注目されているのは、この筋が動作 (movement) の出発点としても重要だと捉えられているからではないでしょうか。

 

私たちが動くとき、例えば歩くとき、走るとき、ジャンプするとき、ボールを投げる/打つとき、私たちは無意識に腹横筋を四肢の筋に先立ってアクティベートしています。この予測的なearly activationはfeed-forwardと呼ばれ、私たちの動きに体幹の安定性 (core stability) や動的バランス (dynamic balance) を与えてくれています。2

 

そしてfeed-forwardと同様に重要なのが筋紡錘 (muscle spindle) や関節/皮膚のmechanoreceptorからのfeed-backの正確性/情報量です。 

 

前回のCAIの記事で、腓骨筋の筋紡錘のsensitivityの低下が反射性の収縮を遅れさせ、それにより足関節の安定性が低下しているのではないかということを書きましたが、同じことが体幹筋と体幹の安定性の関係においても言えそうです。

􀀩􀀧􀀉􀀊 􀀖􀀎

それを示しているのが、体幹の固有感覚 (proprioceptive sense) と膝の外傷発生の関係を検証したこの研究です➡️The Effects of Core Proprioception on Knee Injury A Prospective Biomechanical-Epidemiological Study.3

 

参加者は277人 (男性: 137人、女性: 140人) の大学生アスリート。最初に体幹の固有感覚の正確性を測る実験を実施しベースラインを把握した上で、その後3年間で起きた膝の外傷を追跡しました。

 

実験で参加者に課された課題はこのようなもの。

1) 座席部分が水平面上で回転する装置に座り、被検者はその装置により、上肢を固定された状態から1秒に2°のペースで、体幹を20°回旋させられます。

2) 20°回転したのち、3秒停止してこの装置は1秒に1°のペースで元の位置に戻ります。 被験者が元のまっすぐな状態に戻ったと思うタイミングでスイッチを押し、装置をストップさせます (= passive test)。

3) 次に、passive testと同じ手順で20°回転したのち、今度は被験者が自分の力で体幹を回旋させ、元の状態に戻します (= active test)。

4) 各テスト4回ずつの練習を終えたあと、各テスト、各方向5回ずつ、順番をランダムにして行われました。この際、固有感覚を検証するため、視覚と聴覚の情報は排除されました。

5) 各テストにおいて、元の位置と被験者が"元の位置だと感じた位置"の差が求められ、これがbaselineとされました。

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この研究での"膝の外傷"とは、靭帯 and/or 半月板の損傷、またはACLの損傷のみです。

 

3年の追跡調査の結果、277人 (男性:137人、女性: 140人)の被験者のうち25人 (男性: 14人、女性: 11人) が追跡が行われた3年間で膝を負傷しました。さらに細かく言うと、靭帯 and/or 半月板の損傷は男性9人、女性7人の合計16人。ACLの損傷は男性2人、女性4人の合計6人。

 

1) 負傷しなかった女性: uninjured female、2) 負傷した女性: injured female

3) 負傷しなかった男性: uninjured male、4) 負傷した男性: injured male

この4つのグループのactive proprioceptive repositioning (active testにおいて元の位置からずれていた角度: 以下APR) の平均を怪我の種類ごとに示したグラフが下の図です。

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統計的に有意な差が認められたのは膝を負傷をした女性としていない女性。負傷の種類を靭帯/半月板に限るとこの2群の平均の差はもう少し大きくなり、APRのエラーが1°増えるごとに負傷の確率が3.3倍になるという関係が計算されました。

 

つまり、この研究結果は女性において体幹の固有感覚が十分正確に姿勢の変化をfeed-backできないと、膝を負傷する可能性が高まる、ということを示しています。

 

Passive testには有意な差は見られませんでしたが、これが何を意味するかということに関して、著者はactive testとpassive testの各テストで固有感覚をfeed-backする感覚受容器の違いを理由に挙げています。

 

Active testでは被験者が自力で元の位置まで戻るので、ここで感覚情報をfeed-backしているのは筋紡錘だろう。そしてpassive testでは実験装置が回転して元の位置に戻るので筋からのfeed-backは減少し、皮膚や関節の機械受容器からの感覚情報が増えるだろう、ということでした。

 

なぜ感覚受容器からのfeed-backが重要かというと、運動制御は入ってくる情報 (感覚情報) を元に行われるからです。正確で十分な情報が入ってきてこそ、それに応じた適切な動きができるというわけです。

 

これを踏まえると、この研究で発見された"体幹の固有感覚↓ ➡︎ 膝の外傷↑"という関係の間には "固有感覚↓feed-backの正確性↓姿勢の調整能力↓動的バランス能力↓膝の外傷リスク↑"というさらに細かな因果関係が見えるかと思います。

 

さてここで"体幹トレーニング"に戻ります。

みなさんは"体幹トレーニング"で何を鍛えますか?

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私の答えは神経筋のコントロール、Feed-back - adjustmentのサイクルです。

もちろんより高いパフォーマンスを求める過程では、上の図にあるように筋力・持久力・パワーを鍛える必要があり、神経筋コントロールが全てではないのは自明です。

 

ただ、四肢に比べて重く、床から離れた位置にある体幹は、その制御が全身の動的バランスに大きく影響を与えるので、私は傷害予防・リハビリの観点から体幹トレーニングでは神経筋コントロール鍛える必要があると思います。 

 

その方法は月並みではありますが、一般的なバランストレーニングと同じ要領で支持基底面を狭くしたり、サーフェスを変えたり、動きや外乱を加えたり、という変化の中で姿勢を維持するエクササイズが有効ではないかと思います。

 

上で紹介した研究結果が物語るように、固有感覚の正確性はとても重要です。エクササイズを指導する立場としては、自分と選手が同じ映像を頭の中で見ているかということと、その映像と実際に選手が行っていることが一致しているか、ということには敏感になる必要があると思います。

 

つまり選手が「こうやっている」と頭で思っていることと実際にやっていることにズレがある状況は好ましくないということです。

 

Feed-back - adjustmentのサイクルを多用するエクササイズを実施することと、外からの (指導者からの) feed-backによりさらにadjustmentを促すことで固有感覚を高めることが神経筋コントロールを鍛えるということなのではないかなと思います。

 

私がここで言っている「体幹トレーニング」が一般的な体幹トレーニングとズレていると感じる方もいるのではないかと思います。なので、いわゆる体幹トレーニングであるプランクにも触れたいと思います。

 

プランクの姿勢を維持するのに必要な筋力はアスリートにとってはそれほど高くはありません。だから、プランクをして体幹が強くなるというのは違うと思います。

 

もちろん姿勢を維持する時間を伸ばすことで、筋持久力は鍛えられますが、筋力という意味では、世間で信じられているほどの効果はないのではないかと思います。

 

でも、だからといって私はプランクを否定している訳ではありません。むしろ私はプランクは「スイッチを入れる」という役割においてとても有効なエクササイズであると思っています。

 

どういうことかというと、プランクは体幹筋をアクティベートするのにはとても有効なエクササイズではないかということです。この記事の最初の方に腹横筋にはfeed-forwardという機能があり、腹横筋が四肢の動きに先立って収縮することが動的バランスに貢献しているということを紹介しました。

 

腰痛を持っている人や既往者の間ではこのfeed-forwardが機能していない場合が多いと言われていますが、腹横筋を選択的に収縮するエクササイズをした後にfeed-forward機能が改善されたという研究結果があります 。この研究で使われたエクササイズはプランクではありませんが、健常者を対象にした別の研究ではプランクを含む体幹のスタビリゼーション系のエクササイズが動的バランスを即行で向上させたという結果が得られています。5

 

これらの結果から考えると、プランクはウォーミングアップやトレーニング・リハビリの最初のエクササイズとして行われることで、その後の練習やトレーニング・リハビリにより安全で良い状態で移行させる、という使い方ができると思います。

 

日本の大学に所属しているとき、バレーボールのリーグ会場にプランクなどのエクササイズをウォーミングアップに取り入れているチームがたくさんいたのを覚えています。

 

 

 

というわけで、今回は体幹の固有感覚と傷害発生の関係から、体幹トレーニングによって神経筋コントロールを鍛える必要性、それから一般的な体幹トレーニングであるプランクへの考え方、使い方をまとめてみました。

 

今流行の体幹トレーニングはやれば何にでも効く万能なエクササイズであるというわけはありません。いつでも「目的は何か」というところから手段であるエクササイズを選んでいけたらいいなと思います。

 

全然別の話になりますが、アスレティックトレーナーやストレングスコーチだけでなく、技術系のコーチも使うようになったこの「体幹」という言葉。コーチの「体幹を使え」という指示が何を意味しているのか、コミュニケーションが必要だと思います。そうすることで今や色々な意味が付加された「体幹」という言葉がATにもSCにもコーチにも、そして選手にも、具体性のあるイメージしやすい言葉になると思います。

 

この記事に含めてまとめるのが難しくて紹介できませんでしたが、体幹の安定性と傷害、それからパフォーマンスの関係をまとめたsystematic reviewがあったので紹介します。画像を使わせていただきました➡️Critical review of the impact of core stability on upper extremity athletic injury and performance.6

 

体幹に関してはまだまとめたいことがあるので、また色々かけたらと思います。

  

 

 

参考文献

1. MacArdle WD, Katch FI, Katch VL. Muscular Strength: Training Muscles to Become Stronger. Exercise physiology: nutrition, energy, and human performance. 8th ed. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins; 2014:498-541.

2. Kaushik A, Sharma S. A Correlation between Latency Period of Transverse Abdominis and Dynamic Balance: An EMG Study. Physiotherapy & Occupational Therapy Journal. 2013;6(3):125-135.

3. Zazulak BT. The effects of core proprioception on knee injury: a prospective biomechanical-epidemiological study. Am J Sports Med. 2007;35(3):368-373.

4. Tsao H, Hodges PW. Immediate changes in feedforward postural adjustments following voluntary motor training. Exp Brain Res. 2007;181(4):537-546.

5. Imai A, Kaneoka K, Okubo Y, Shiraki H. Comparison of the immediate effect of different types of trunk exercise on the star excursion balance test in male adolescent soccer players. Int J Sports Phys Ther. 2014;9(4):428.

6. Silfies SP, Ebaugh D, Pontillo M, Butowicz CM. Critical review of the impact of core stability on upper extremity athletic injury and performance. Braz J Phys Ther. 2015;19(5):360-368.