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Papyrus

考えたことや調べたことを残しておこうと思います。

シンスプリントって。

何に関してまとめてみようか、と考えるとき、まだATプログラムにも入っていない私が課題を探す場所はいつも日本での学生アスレティックトレーナー時代の記憶です。という訳で、今回はシンスプリントについてまとめたいと思います。

 

シンスプリントには色々な思い出があります...

私自身も部活で走る量が増えたときに痛いなーと思っていたような、いなかったような。そんな記憶しかないので自分の件に関しては大したことなかったのは間違いないです。が、私が所属した大学のバレーボール部には脛が痛い人だらけでした。部員数が少なく、人が欠けると練習が進まないので、休むのも後回し。チーム練習が多い時期には痛みを持つ数人に合わせて負荷を落とすことも難しい。

 

大学のリーグは1ヶ月間続く長期戦。しかも春、秋の2回。春リーグのあとには東日本インカレ、秋リーグのあとには全日本インカレ。試合がない時期と言えば1-3月、7-8月くらいですが、2月3月8月には合宿や練習試合が盛りだくさん。

 

人数が少なく選手層が薄いというチーム事情もありましたが、痛みと闘いながらプレーし続けるしかなかった選手に対しては今でも自分の出来たことの少なさに申し訳なく思います。

 

ですから、シンスプリントというと私の苦い思い出であり、より深い知識を身につけて挑みたい壁でもあります。

 

さて、本題に入ります。

"シンスプリント"というのは脛の内側の痛みの通称であり、正式にはMedial Tibial Stress Syndrome (以下MTSS) と呼ばれ、「運動によって引き起こされる、posteromedial (posterior: 後方の, medial: 内側の) tibia (脛骨) の遠位3分の2に位置する痛み」と定義されます。

 

MTSSは当初、脛骨の同部位の疲労骨折の初期段階と考えられていましたが、全てのケースが疲労骨折に発展する訳ではなく、どの軟部組織がその痛みを発しているのかということがその後の経過を予想する鍵になりそうです。

 

Oakes (1988) によれば、MTSSは以下の2つのカテゴリーに分けられます。

1) Periosteum (骨膜) の炎症

2) Deep fasciaとflexor digitorum longus (長趾屈筋) の間で起こる摩擦による痛み

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1) のケースでは骨膜の下のcortical bone (皮質骨) にも影響を与え得るので疲労骨折へ移行する可能性があるとのこと。

 

従って疲労骨折を伴ったMTSSもあるようです。ただ、単純に疲労骨折のみを発症している場合ももちろんあり、疲労骨折のみのケースとMTSSを区別するには圧痛が局所的かどうかが大きなポイントであるようです。MTSSは圧痛に最低5センチの幅があることを目安に疲労骨折のみのケースと区別することが多いようです (Yuksel, Ozgurbuz, Ergun, Islegen, Tackiran, Denerel, & Ertat, 2011) 。

 

MTSSのリスクファクターに関して。

まず、BMI (= Body Mass Index: 体重 (kg) /身長 (m) の2乗) 。アスリートにとって (特に女性アスリート) BMIってなかなか目を向けたくない事ではありますよね。でもBMIのMTSS発症への貢献度はとても高いことは押さえて起きたいポイントだと思います。

 

高校生クロスカントリーランナーを1シーズン (13週間) に渡り追跡し、リスクファクターごとに実際の傷害の発生を調べた研究では、唯一統計的にMTSSの発症と関連があったのがBMIでした (Plisky, Rauh, Heiderscheit, Underwood, & Tank, 2007) 。

 

この調査では、BMIが18.8-20.1のグループ (Q2) と比較すると20.2-21.6のグループ (Q3) は5.3倍多くMTSSを発症したという結果になりました。

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脂肪量の増加による体重の増加が予想される場合 (お正月休みとか...) には、選手に自己管理を促す必要はありそう。

 

他にはnavicular (舟状骨) drop。上で紹介した調査ではnavicular dropの違い (≧10mm, <10mm) によるMTSSの発症率に違いは見られなかったものの、Noh, Masunari, Akiyama, Fukano, Fukubayashi, and Miyakawa (2015) は過剰なnavicular dropはMTSSのリスクファクターであると述べています。

 

Navicular は、足のアーチ (内側縦アーチ) のてっぺんにある骨で、navicularがdropする、ということはつまりアーチがつぶれるということを意味します。

Navicular dropは非荷重時のnavicularの高さと荷重時のnavicularの高さの差を指すので、navicular dropの値は荷重時のアーチのつぶれやすさを示しています。

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Navicular dropによって内側縦アーチを通過する筋は影響を受けるでしょうし、それによってそれらの筋の付着部の骨膜に牽引力がかかることも予想されます。

 

Hamstra-Wright, Huxel Bliven, and Bay (2015) のsystematic reviewでもnavicular dropはリスクファクターとされています。

 

この動画はsubtalar joint (距骨下関節) の動きを3Dで紹介したものですが、これ、とても分かりやすいなと思ったので、載せさせていただきました。Talocrural joint (距腿関節) は主にsagittal plane (矢状面) 上の動きを、subtalar joint (距骨下関節) はfrontal (前額面) とtransverse (水平面) 上の動きを作ります。Talus (距骨) やcalcaneus (踵骨)は形が複雑で、関節面を理解するのはとても難しいですが、この動画は距骨が踵骨の上をどうやって動くかわかりやすく見て取れると思います。

 

     

この動画でNavicular dropがpronationの結果、起きていることもわかると思います。そしてMTSSを持つ人は荷重時に過剰なpronationが起きているだろうということも予想されるかと思います。

 

この予想ははおそらく間違いではなくて、MTSSやTibiaの疲労骨折を持つ人の歩行中やランニング中のeversion (pronation) は、コントロール群と比べて大きかったという報告はいくつかあります (Vtasalo, & Kvist 1983; Akiyama, Noh, Fukano, Miyakawa, Hirose, & Fukubayashi, 2015) 。

 

MTSSを持つサッカープレーヤーと健常なサッカープレーヤーのforward step中のtalocrual jointとsubtalor jointの動きを3Dで計測した実験ではsubtalar jointでのeversionとexternal rotationにおいてMTSSを持つ群が統計的に有意に大きかったことがわかりました (Akiyama et al., 2015)。

 

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さて、ここで問題になったeversionですが、eversionとinversionの筋力のバランスを調べた研究もありました (Yuksel, Ozgurbuz, Ergun, Islegen, Tackiran, Denerel, & Ertat, 2011) 。

 

この研究ではeversionとinversionのisokinetic concentric strengthを30°/secと120°/secの2種類の速度で計測しました。

 

Inversionの筋力には差は見られなかったものの、eversionの筋力の値はどちらの速度においてもMTSSのグループの方が統計的に有意に高いという結果でした。

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ちなみにこのeversionとinversionの筋力のバランスの計測は足関節捻挫の研究に用いられる方法で、足関節捻挫の場合ではinversionの筋力が強かったという報告があります(Amaral De Noronha, & Borges Júnior, 2004) 。

また、足関節捻挫のケースに限定しなくても、このようにeversionとinversionの筋力のバランスを計測する実験では inversionの筋力の方が強いことが一般的であるようです。

 

では、MTSS患者の間で見られた"evertionの筋力がinversionの筋力より強い"ということが何を意味するのかということですが、この論文の中で検討されていたことは以下のとおりです。

 

ランニングのサイクルの中で、impactからmid stanceまでeccentricに収縮していたヒラメ筋が加速のためにconcentricの収縮に変わるタイミングで腓骨筋 (action: eversion & plantar flexion) が活動を始めます。

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腓骨筋は加速のためのplantar flexionに貢献しますが、その際、腓骨筋 (evertor) の方がinvertorより強いと、そうでない場合より足部がpronate (evert) されたままの時間が長くなります。そうするとsoleus (ヒラメ筋) fascia (筋膜) に牽引の力が長く加わり続けることになり、MTSSを誘発する、と。

 

ここまでsoleus fasciaのことには触れていなかったので、ここへ来てなぜsoleus fascia、と思ったかもしれませんが、この論文の中ではMTSSの原因をヒラメ筋の牽引力と見て説明しているので、このような解説になりました。

 

ここまでで書いた内容を大きくまとめると以下の3点。

1) MTSSのリスクファクターのひとつにnavicular dropがあり、

2) 過剰なnavicular dropは足部の過剰なpronationの指標で、実際にMTSS患者の動作中のpronation (eversion) は通常よりも大きい。 

3) またinversionとeversionの筋力のインバランスもランニング中の足部のpronation (eversion) を招き、それによりMTSSを誘発している可能性もある。

 

適切なインソールやテーピングの使用は過度なpronationを防くことができそうな気がするけれど、方法や効果に関してはもう少し調べなければ、というところです。

 

またインソールやテーピングを適切に使えるかどうかということに関しては、歩容からこの重心の通り道を見られるようになることもとても大切かなと思います。

 

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インソールなどについてはまた後ほどまとめられたらと思います。

 

 

 

 

参考文献

Amaral De Noronha, M., & Borges Júnior, N. G. (2004). Lateral ankle sprain: isokinetic test reliability and comparison between invertors and evertors. Clinical Biomechanics, 19(8), 868-871.

Hamstra-Wright, K. L., Huxel Bliven, K. C., & Bay, C. (2015). Risk factors for medial tibial stress syndrome in physically active individuals such as runners and military personnel: a systematic review and meta-analysis. British Journal Of Sports Medicine49(6), 362. doi:10.1136/bjsports-2014-093462

Akiyama, K., Noh, B., Fukano, M., Miyakawa, S., Hirose, N., & Fukubayashi, T. (2015). Analysis of the talocrural and subtalar joint motions in patients with medial tibial stress syndrome. Journal Of Foot & Ankle Research, 8(1), 1-8. doi:10.1186/s13047-015-0084-7

Noh, B., Masunari, A., Akiyama, K., Fukano, M., Fukubayashi, T., & Miyakawa, S. (2015). Structural deformation of longitudinal arches during running in soccer players with medial tibial stress syndrome. European Journal Of Sport Science15(2), 173-181.

Oakes, B. (1988). Tibial pain or shin soreness (shin splints): its cause, differential diagnosis and management. In , In, Draper, J. (ed.), Second report on the National Sports Research Program, August 1986-June 1988, s.l., Australian Sports Commission, 1988, p. 47-51.

Plisky, M., Rauh, M., Heiderscheit, B., Underwood, F., & Tank, R. (2007). Medial tibial stress syndrome in high school cross-country runners: incidence and risk factors. Journal Of Orthopaedic & Sports Physical Therapy37(2), 40-47 8p.

Yuksel, O., Ozgurbuz, C., Ergun, M., Islegen, C., Tackiran, E., Denerel, N., & Ertat, A. (2011). Inversion/eversion strength dysbalance in patients with medial tibial stress syndrome. Journal Of Sports Science And Medicine, (4), 737.

Vtasalo, J. T., & Kvist, M. (1983). Some biomechanical aspects of the foot and ankle in athletes with and without shin splints. American Journal Of Sports Medicine, 11(3), 125. doi:10.1177/036354658301100304 

 

画像

https://en.wikipedia.org/wiki/Extensor_hallucis_longus_muscle

http://www.physio-pedia.com/Navicular_Drop_Test

http://70sbig.com/blog/2011/12/foot-awareness/

http://www.wefixfeet.ca/sites/default/files/biomechanics.pdf

http://www.poweredbyroar.com/whitepaper/

 

動画

https://www.youtube.com/watch?v=7SK_O-NuFr4