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Papyrus

考えたことや調べたことを残しておこうと思います。

テスト勉強 II : Fate of Lactate

前回の記事では3つのenergy systemの大まかな説明をしましたが、今回はlactate (乳酸塩)・lactic acid (乳酸) に焦点を合わせてまとめてみたいと思います。

 

乳酸といえば『疲労物質』のイメージが強いのかなと思います。確かに乳酸がたくさん作られて、身体がこれに対処できる能力を越えてしまうと、運動中、強度を下げざるを得ない状況になるので疲労と直結するイメージは正しいと言えると思います。

 

でもlactateは決して『疲労物質』や『waste product』ではなく、有酸素な状況ではATPを生成するプロセスに戻ったり、肝臓に運ばれてエネルギー源として蓄えられたり、エネルギーの需要に対して効果的にATPの生成するのに大切な役割を持っているので、その辺りを説明できたらと思います。

 

まず、どのようにlactateが生成されるか。

前回の記事でglucoseの分解により、ATPを生成するsystemであるglycolysisによってpyruvateが生成されることを説明しました。

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このpyruvateは酸素が十分に供給されている状況では、前回説明した通りacetyl CoAに変えられ、krebs cycleに入りATPを生成、それからelectron transport chainでより大量のATPを生成、という流れをたどります。

 

前回の記事のelectron transport chainの説明を参考にしてもらえればわかりやすいかと思いますが、大きなエネルギーを生み出す (=たくさんのATPを生成する) electron transport chainでは他のシステムから運ばれてきたH+が酸素と化合するときにATPが生成されるので、多くのATPを生成するためには十分な量の酸素が必要になります。

 

私たちはエネルギーの需要が高まったとき、その需要を満たすために呼吸の深さや呼吸数を増やして酸素をたくさん取り込もうとします。長距離走をしているときなどに息が上がるの想像してもらえればそれが実際にどういう状況で起こるかを理解することができるかと思います。

 

言い換えれば、十分な量の酸素を取り込むことでATPがelectron transport chainでたくさん生成されるので、私たちは長い距離を走り続けることができるのです。

 

これとは別に、乳酸の生成のプロセスを理解するために考えたいのがもう少し強度の高い、例えば『無酸素運動』と言われるような運動です。長距離走のように長くは続けられない、高強度の運動ではどのようなことが起きているのでしょう。

 

400m走を例に考えてみましょう。5km走と400m走ではどちらが1秒当たりのエネルギーの需要が大きいかと言えば、ほぼ全力で走る400m走ですよね。

 

400mを65秒で走るとして、どのenergy systemが主に400m走で使われているかというと... 前回使ったこのスライドを参照するとglycolysisですね。

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65秒というとelectron transport chainは稼働し始めてはいるけれど、効果的に働くにはまだ準備ができていません。このような状況下ではelectron transport chainがglycolysisで発生したH+を素早く受け取ってくれないという事態が発生します。

 

そうなるとglycolysisで酸化が進まなくなり、ATPを作り出す回路が停滞してしまいます。ATPの生成がスローダウンしてしまうと、その運動に見合うエネルギーを供給できなくなってしまうので、これは防ぐ必要があります。

 

そしてこれを防ぐための戦略が、乳酸を作ることなのです。

 

どういうことかというと...

Glycolysisで発生したH+をelectron transport chainがキャパオーバーで受け取ってくれなくなると、発生したH+が行き場を失くし、それ以上ATPを生成する反応が進まなくなってしまうというのは上で説明した通りですが、ここで一時的にH+を受け取ってglycolysisのプロセスを継続させるように働くのがpyruvateです。PyruvateがH+を受け取ってできるのがlactic acid (乳酸) 。そしてlactic acidは生成直後に体液中でlactateとH+に分かれます。

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Pyruvateは酸素の供給が十分なときは酸化されacetyl CoAになり、酸素の供給が十分でないとき (electron transport chainが運動開始直後でcapacityが高くないときやエネルギーの需要がelectron transport chainのcapacityを越えて高いとき) には還元されてlactate になるのです。

 

とてもキツい無酸素運動をしているときには、高いエネルギー需要を満たすためにpyruvateはlactateにどんどん変えられているのです。

 

「やはり乳酸は『疲労物質』『waste product』じゃないのか」

ここまで読むと、この疑問が浮かぶかもしれません。

 

そこで次説明したいことは、生成されたlactateがその後どうなるのかということです。

 

これを理解するのに重要なポイントは『lactateは生成された細胞の中に留まるのだろうか』ということです。答えはNO。よく疲れの指標として『乳酸が...』ということを聞きますが、エクササイズ中でさえ、生成されたlactateは血液に入り、運ばれた先の筋細胞で酸化されpyruvateに戻り、それから有酸素系のenergy systemでATP生成に貢献するなど、どんどん生成された細胞からはクリアされていきます。教科書によると、生成されたlactateの55-70%はpyruvateに戻るのだそうです。

 

とても高い強度の無酸素運動で乳酸の除去が生成の早さに追いつかず、lactateが溜まってしまったとしても、リカバリー中、十分な酸素が供給される状況になると、酸化されてpyruvateに戻ったり、肝臓に運ばれて、エクササイズによって使われたグリコーゲンを再び蓄えるために使われたりします。

 

これがlactateが単に『疲労物質』や『waste product』ではない所以です。

 

何が『疲労』を起こしているのか、ということに関してはlactateではなく、むしろH+の蓄積が貢献していると言われています。

 

高強度のエクササイズからのリカバリーに関して面白いなと思ったものがあるので紹介したいと思います。 下の図は高強度のサイクリングエクササイズを漕げなくなるまで行った後にどのように血中のlactate concentrationが下がっていくかを示したグラフです。グラフ中に4つ異なる条件があるのを見て取れると思いますが、これは高強度エクササイズの後、どのようにリカバリーをしたかを変えています (Dodd, Powers, Callender, & Brooks, 1984) 。

 

- 65%: 65%VO2maxの強度のサイクリング

- 35%: 35%VO2maxの強度のサイクリング

- 65-35%: 7分間の65%VO2max、のち33分間の35%VO2maxの強度のサイクリング

- Passive: 座って何もせずリカバリー                         

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Passive recoveryと比べると35%の有酸素運動と35-65%の有酸素運動の組み合わせが効果的にblood lactate concentrationを下げていることがわかります。つまり、高強度のエクササイズが終わった後、何もせず座ってリカバリーをするよりも低強度の有酸素運動をした方がlactateのクリアランスを促すことができたということです。

 

このグラフをクラスで紹介する際に教授が私たちに話してくれた応用の例はマイケル・フェルプス。アメリカの水泳選手で世界選手権やオリンピックで何種目にもエントリーし、各種目で予選、準決勝、決勝の3レースを泳ぎきる圧倒的なタフさを持つ選手ですが、各レース後、次の試合が間近に迫っていても、必ず別のプールで低強度で泳ぐクールダウンを行っていたそうです (つまり早くレース前の状態に身体を戻すためにactiveにlactateをクリアしていたということ) 。

 

リカバリーに関しては、lactateの除去以外にもエクササイズ直後の状態から元の状態に戻すべきものはたくさんあります。ここで紹介したリカバリーの実験はlactate concentrationしか計測していないし、『高強度のサイクリング』は運動様式から考えるとみなさんが行う、またはカバーするスポーツにはそのまま適応できるものではないかもしれませんがこれは効果的なクールダウンを考える上でとても重要な情報なのではないかなと思います。

 

私自身は水泳とバレーボールをcompetitiveな環境でやった経験がありますが、クールダウンに関しては意識が低かったなと、選手時代を振り返って思います。だから練習が終わってすぐ帰りたい選手の気持ちもとてもよくわかる....

 

でも今は前よりも少し知識が増えて、どれだけ選手に積極的にクールダウンをしてもらえるか、ということが今度は自分の『アスレティックトレーナーとして』の実力でもあるような気がします。

  

幸い、私がプロのアスレティックトレーナーになるまでにはまだ少し時間があります。知識を入れるだけに集中せず、『どのようにその情報を使うか』ということに関しても自分なりの答えを見つけていけたらいいなと思います。

 

ということでlactateについてでしたが、まとめるとこんな感じでしょうか。

1) 酸素の供給がエネルギーの需要に追いつかないとき、pyruvateがglycolysisによって発生したH+を受け取ることでglycolysisを継続させATPの生成を図る。

2) PyruvateがH+を受け取って生成されるのがlactateであり、高強度のエクササイズでlactateの生成が除去のスピードを上回るとlactateが蓄積される。

3) リカバリー中では、十分な量の酸素が供給されるようになるとlactateはpyruvateに戻ったり、筋や肝臓でglucoseやglycogenに変えられたりして、エネルギー源として再び使われる/蓄えられる。

4) 低強度な有酸素運動は血中のlactate concentrationを素早く下げるのに有効で、これは効果的なクールダウンを考える上で重要な情報である。

 

 

 

 

参考文献

Dodd, S., Powers, S. K., Callender, T., & Brooks, E. (1984). Blood lactate disappearance at various intensities of recovery exercise. Journal Of Applied Physiology: Respiratory, Environmental & Exercise Physiology, 57(5), 1462.

McArdle, W.D., Katch, F.I., & Katch, V.K. (2014) Exercise physiology: Energy,nutrition, and human performance. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins.

 

画像

http://slideplayer.com/slide/9349795/

http://general.utpb.edu/FAC/eldridge_j/Kine6360/Unit%202%20html%20file/Content%20

http://oregonstate.edu/instruct/bb450/450material/lecture/glycolysisoutline.html