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Papyrus

考えたことや調べたことを残しておこうと思います。

Carbohydrate Loading? II

前回の記事では、carbohydrate loadingの根本的な考え方を説明しました。

今回はもう少し実践的な話題に触れていきたいと思います。

 

前回の記事で説明した通り、強度の高い持久系のエクササイズにおいてはグルコース/グリコーゲンがとても重要なエネルギー源であり、carbohydrate loadingとは最後まで高い強度 (≒高いパフォーマンス) を持続するために試合前までにグリコーゲンの貯蔵量を増やしておく、という栄養的な戦略のことを言います。

 

現在、carbohydrate loadingには大きく分けて3つのモデルがあります (McArdle, Katch, & Katch,  2014

1) Classic Loading Procesure

2) Modified Loading Procesure

3) Rapid Loading Procedure

 

1) Classic Loading Procesure

何日間かけて実施するかということに関してはいくつかの方法があるようですが、このモデルの基本的な考え方は一度筋グリコーゲンを枯渇させて、それから炭水化物の割合の高い食事を続けて摂ることで筋グリコーゲンを元の量よりも多く蓄え直す、ということです。

 

教科書に乗ってた例を紹介すると (McArdle et al.,  2014

Day1: 90分の中強度のエクササイズ (glycogen-depleting exercise)

Day 2 - Day 4: 低炭水化物の食事 (約60-100g/日)

Day 5 - Day 7: 高炭水化物の食事 (約400-700g/日)

Competition Day: 高炭水化物の競技前の食事

 

他にも、1日目にglycogen-depleting exerciseをしてその後3日間で高炭水化物の食事を摂る合計4日間の方法や、3日間で2回のglycogen-depleting exerciseをしてその後3日間で高炭水化物の食事を摂る合計6日間の方法もあるようです (Fairchild, Fletcher, Steele, Goodman, Dawson, & Fournier, 2002) 。

 

みなさん、この方法どう思いますか?

試合前の週に疲労困憊になる練習をすることや、(方法によっては) その後も低炭水化物の食事を3日間続けることは週の前半といえども少し不安ではないでしょうか。もちろん実際の試合で実行する前に予行練習を行っておけば多少不安は解消されるかもしれませんが、他にも怪我のリスク等を考えるとあまり実用的でない気もします。

 

このモデルの短所を克服するために考案されたのが、これから説明する他の2つのモデルです。

 

2) Modified Loading Procesure

このモデルはclassic loading procedureにあった筋グリコーゲンを枯渇させる段階はなく、試合前の1週間程度で練習の強度を試合に向けて落としながら炭水化物摂取量は増やして、筋グリコーゲン量を蓄えるという方法です (McArdle et al.,  2014

 

ここでこのモデルを提案した研究を紹介します。1981年と古いものですが、教科書や他の研究でもmodified procedureの基本的な考え方を示したものとしてよく引用されているのを見るので、ここでも使わせてもらおうと思います。

Effect of Exercise-Diet Manipulation on Muscle Glycogen and Its Subsequent Utilization During Performance* (Sherman, Costill, Fink, & Miller, 1981). 

 

この研究では20.9kmのタイムトライアルをパフォーマンスの指標として設け、そのトライアルの前の6日間の炭水化物の摂取量を変えて、筋グリコーゲンの量とトライアルのタイムを比較しました。筋グリコーゲンは4日目の練習後、それから7日目のトライアルの前後に測られました。

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上の図の棒グラフはトレーニングの継続時間を示しています。継続時間は1日目の90分から5日まで徐々に減らし、トライアル前日の6日目は休み。

 

前日までの6日間の炭水化物の摂取量は、以下の3パターンです。

A) 3日間×低炭水化物食* + 3日間×高炭水化物食*

B) 3日間×通常食* + 3日間×高炭水化物食、

C) 6日間×通常食 の3パターンで検証されました。

 

*低炭水化物食: 全体のカロリーの15%を炭水化物から摂取: 104g/日

*通常食: 全体のカロリーの50%を炭水化物から摂取: 353g/日

*高炭水化物: 全体のカロリーの70%を炭水化物から摂取: 542g/日

 

このトレーニング継続時間×炭水化物摂取でどのように筋グリコーゲンの量が変化したかというと、トライアルがある7日目に十分に筋グリコーゲンを蓄えられたのはAとB。

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ここで臨床上重要なのは、AとBがトライアルの前の段階でほぼ同じ量のグリコーゲンを蓄えられたということです。つまり、トライアルの前の週の前半に炭水化物を敢えて減らす必要はなく、週の後半に高炭水化物食を摂るだけで、練習の強度 (この場合練習継続時間) の調整と併せて、十分に筋グリコーゲンの量を増やすことができた、ということです。 

 

このモデルはグリコーゲンが枯渇する段階がないので体調面の心配が緩和されることや、glycogen-depleting exerciseを練習に入れる必要がないのでそれによって練習の内容が大きく左右されることがない、という点でclassic loading procedureよりも優れていると言えるでしょう。

 

3) Rapid Loading Procedure

このモデルは試合前日に短時間でオールアウトするようなエクササイズを実施し、そのあと高炭水化物の食事を摂ることでグリコーゲンを超回復させる方法です (McArdle et al.,  2014

 

グリコーゲンを枯渇させる、という点に関してはclassic loading procedureと似ているような気がしますが、classsic procedureのglycoge-depletion exerciseは中-高強度で継続時間が長く (90分) 、加えて低炭水化物の食事をすることとでグリコーゲンの枯渇を図るのに対して、rapid procedureでは3分程度高強度エクササイズでグリコーゲンの枯渇を図ります。また、loadingに必要な日数が1日のみというのも大きな違いでしょう。

 

このモデルの根拠となる研究はRapid carbohydrate loading after a short bout of near maximal-intensity exercise (Fairchild, Fletcher, Steele, Goodman,Dawson, & Fournier, 2002) 。  

 

Glycogen-depleting exerciseとして設定されたのは、130%VO2peakで150秒間のサイクリング+30秒間のオールアウトのスプリント (サイクリング) 。3分間ですが、とにかくきつい内容です。

 

このエクササイズの20分以内GI値の高い炭水化物を除脂肪量1kg (体重-(体重×体脂肪率÷100)) につき12g摂取すること、それから練習終了後は運動はしないことが条件として求められました。

 

結果は... 82%も筋グリコーゲン (@外側広筋) を増やすことができました。     f:id:miwakosuzuki:20160304050049j:plainf:id:miwakosuzuki:20160304050109j:plain

右の図は筋繊維のタイプ別に筋グリコーゲン量の変化を示したものですが、全ての筋線維タイプで大きく筋グリコーゲンを増加させるのに成功しているのがわかります。

 

これはrapid procedureの長所でもあります。高強度の運動は低強度の運動と異なり、全ての筋繊維タイプを使います (サイズの原理) 。グリコーゲンの超回復はグリコーゲンが枯渇した筋肉で起こるので、全タイプの筋繊維を使う高強度の運動後には全タイプの筋繊維で超回復が起こる、ということです。

 

この筋グリコーゲンの超回復の成功の要因に関して、この論文の中では、1) 運動後すぐに炭水化物を摂取したこと、2) GI値の高い炭水化物を摂取したこと、の2つが大きく貢献したのではないかと書かれています。

 

GI値とはglycemic indexの略でどのくらいの早さで摂取された食べ物が消化されて血中にグルコースとして現れるか、ということを示しています (McArdle et al.,  2014

グルコース (ブドウ糖) が基準でGI値が100です。グルコースはそのままの形で身体の中で使えるので消化の必要がありません。ですから摂取から血中に現れるまでの早さは一番早いことになります。高GI値の食品は消化が早くすぐエネルギーになる食品で、低GI値食品は消化に長い時間がかかる食品です。

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運動後は身体がリカバリーのためにグリコーゲンを脳、筋、肝臓に貯蔵し直すよう働いています。ですから運動直後にGI値の高い炭水化物を摂るというのは、グリコーゲンの超回復を意図しなくとも、通常の練習のリカバリーにとっても有効と言えるでしょう。(GI値の表を載せてはみましたが、どの表を使わせてもらおうかと調べたとき、各ウェブサイトでかなり数値の違いが見られたので、実際に何かの食品のGI値を調べたいときにはその食品に関して調査をしてみるのが良いと思います!)

 

このrapid loading procedureの長所はなんといってもloadingに1日しかかからないことでしょう。試合前日の3分程度の高強度エクササイズ+食事でグリコーゲンを十分にloadingできることを考えると、試合前の練習がcarbogydrate loadingのために影響を受けることはほとんどないと思います。

 

ここまでcarbohydrate loadingの3つのモデル紹介しました。次にcarbohydrate loadingはパフォーマンスを向上させるのか、ということをまとめてみようと思います。

 

Modified loading procedureで紹介した研究で20.9kmのタイムトライアルをパフォーマンスの指標にしたと書きましたが、結果はどうだったと思いますか?

 

この実験ではグリコーゲンの量を増やすことには成功しました。でも、このトライアルのタイムには差がなかったのです。

 

これに対して著者はどのような解説を加えているかを説明しようと思います。筋グリコーゲンの量に関して、"これ以上少なくなったら強度を落とさざるを得ない"という数値があるらしいのです。そしてその数値に達するまでは運動強度 (この場合走るスピード) はあまり影響されません。この実験でその最低限必要な筋グリコーゲンの量に達するのは、ここでの被験者のペースだと36.4km付近なんだそうです。ですから、20.9kmのトライアルでは筋グリコーゲンをたくさん蓄えられたかどうかということで維持できるペースに違いはなく、タイムにも有意な差はなかった、ということでした。

 

ちなみに、20.9kmトライアルの平均タイムはどのグループも83分程度。このペースで36.4kmまで走るとしたら145分くらい。2時間25分!一般的にはcarbohydrate loadingは60分以上のエクササイズで有益と言われているけれど、この解説だと2時間25分以降からやっと維持できるペースに差ができることになりますね。

 

他の実験では、24km走でcarbohydrate loading+運動中の炭水化物の補給の効果を検証したものがあり、ここでもパフォーマンスにはプラシーボとの間で有意な差はありませんでした (Andrews, Sedlock, Flynn, Navalta, & Ji, 2003) 。統計的には差はなかったという結果ですが、平均タイムには2分の差がありました。参加者が8人と少なかったので有意な差にならなかったという考え方もできます。ちなみにここでのタイムは134分程度。2時間14分。この実験でも1時間以上の継続時間でありながらパフォーマンスには効果がなかったということになりました。

 

でも、注目したいのはパフォーマンスに有意な差はなかったけれど、代謝にはかなりの違いがあったということです。

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L&S: carbohydrate+運動中の炭水化物補給

S: 運動中の炭水化物補給のみ

P: プラシーボ

 

RERとはRespiratory Exchanging Ratioの略でどのくらいの割合で炭水化物と脂質をエネルギー源として使ったかを示しています。RER=0.7の場合100%脂質、RER=1.0の場合100%炭水化物を使っているということを表していて、基本的には0.7から1.0までの値です (それ以上、以下になることもあるけれど基本的な考え方としては) 。数値が0.7に近ければ脂質の代謝が優位、1.0に近ければ炭水化物の代謝が優位ということを読み取ることができます。 

 

グラフを見てみるとL&Sでは炭水化物の割合が高く、PではSやL&Sに比べると炭水化物の割合が低い (脂質の割合が高い) ことがわかります。前回の記事で紹介したとおり、脂質はエネルギーとして使われ始めるまでに時間かかり、脂質を代謝するaerobic energy systemがATPを作り出す速さも炭水化物を代謝するglycolysisに比べると遅いです。つまり、脂質のエネルギー利用は炭水化物と比べるとエネルギーの需要が高い高強度の運動には不向きです。 

 

パフォーマンスを決定する要因はエネルギー供給以外にもたくさんあります。だから、上で紹介した2つの研究結果が示すように、carbohydrate loadingで可能になる炭水化物の利用率の高さがそのまま高いパフォーマンスと直結するということではありません。これを踏まえて、みなさんはcarbohydrate loadingの実施についてどう思いますか?

 

私の結論はこうです。

carbohydrate loadingはパフォーマンスの向上というより、むしろブレーキを防ぐために試合前の練習の文脈に合わせて実施する。試合で最高のパフォーマンスをするということは言わずもがな重要ですが、それと同等に重要なのが"最低でもこの程度はできる"という最低限のレベルをなるべく高く保つことではないでしょうか。そのためにはブレーキとなり得る要因は試合前に出来る限り潰しておく必要があります。

 

ここで言えば筋グリコーゲンが枯渇した、あるいはそれに近い状態で試合に臨むのは完全にアウトです。 Carbohydrate loadingでパフォーマンスをいつもより上げるということはできないかもしれないけれど、早い段階からの筋グリコーゲンの枯渇、それに伴う筋の疲労、そしてペースダウンを招く可能性は低くできると思います。

 

そして私が"試合前の練習の文脈に合わせて実施する"と言う理由は、上で書いたように、パフォーマンスの決定要因はエネルギー供給だけではないからです。エネルギー面だけから試合前の調整に関して指示をするならclassic loading procedureのようなかなり極端なやり方でも良いかもしれません。でも、classic loading procedureを試合前に実施したとして、何日間か低血糖状態が続くことや、その状態で練習に臨むことが選手の体調全般や心理面に及ぼす影響を考えると、この極端な方法が総合的にベストだとは思えません。試合前の練習は選手の身体の感覚や心の準備にとっても大切です。だから栄養的な戦略も選手やコーチの考えから逸脱しないものである必要があります。

 

実施方法としてはmodified loading procedureがもっとも現実的であると思います。試合に向けて練習の強度を落としていくことは一般的だと思いますし、これに高炭水化物食を併せるのはそれほど難しいことではないと思います。

 

コントロールしなくてはならないケースは、精神論が優位なチームで試合前でも強度を落とすことを嫌う指導者がいる場合や、アスリートが食事の量を制限してしまう場合などが挙げられます。文脈の中で、とは言いましたが、チームが明らかに非科学的な方向へ走っている場合には自分から発信して軌道修正する力も必要だと思います。

 

 

Carbohydrate loadingといえばマラソンですが、今回調べてみて、私は球技系の競技でももっと浸透すべきなのではないかなという考えを持ちました。これを実証するには競技ごとにどのenergy systemどのくらいの割合どのくらいの時間使われているのかということをもっと知る必要がありますが、試合の継続時間が1時間以上ありglycolysisによるエネルギー供給の割合が高い (10-30秒程度のダッシュを繰り返すような) 競技は球技に多いと思うからです。

 

ゲーム型のスポーツでパフォーマンスを科学的に評価するのはとても難しいからか、carbohydrate loadingというトピックでは長距離ランニング/サイクリング以外の研究はなかなか見つけられませんでしたが、ひとつだけ、スカッシュ競技でcarbohydrate loadingの効果を検証する研究がありました!そしてその研究ではcarbohydrate loadingがスカッシュの試合においても有効だと結論づけています(Raman, Macdermid, Mündel, Mann, & Stannard, 2014) 。

 

スカッシュってあまり馴染みがないかもしれませんがこんな感じです↓この運動と休憩の時間の比、それから運動の強度は、多くの球技でマラソンよりも似ているはずです。

   

スカッシュの研究ではシュミレーションの機械を使い、試合を終えるまでにかかった時間によってパフォーマンスを評価したようです。結果は、carbohydrate loadingを実施したときの方が試合を有意に早く終え、 試合中の炭水化物の利用率も高かったというものでした。

 

最後に。

今回試合への調整方法のひとつとしてcarbohydrate loadingを説明したので、当然試合のことを中心に話しましたが、このエネルギー供給のお話は毎日の練習にこそ応用すべきだと私は思います。それは高いレベルで練習できてこそ、新たに身につくものがあると思うからです。疲れやすい、効率の悪い身体で毎日の練習に臨んではその日の練習から得られるものが減ってしまいます。アスリートには"昨日使った分のエネルギーが今日、きちんと蓄え直されているか"ということを気にして欲しいと思います。

 

このあとリカバリーに関する情報をまとめようと思うので、具体的なことはまたそちらでまとめられたらと思います。

 

長い記事を読んでくださってありがとうございましたm(__)m

 

 

参考文献

Andrews, J., Sedlock, D., Flynn, M., Navalta, J., & Ji, H. (2003). Carbohydrate loading and supplementation in endurance-trained women runners. Journal Of Applied Physiology95(2), 584-590.

Fairchild, T., Fletcher, S., Steele, P., Goodman, C., Dawson, B., & Fournier, P. (2002). Rapid carbohydrate loading after a short bout of near maximal-intensity exercise. Medicine & Science In Sports & Exercise34(6), 980-986 7p.

McArdle, W.D., Katch, F.I., & Katch, V.K. (2014) Exercise physiology: Energy,nutrition, and human performance. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins.

Raman, A., Macdermid, P. W., Mündel, T., Mann, M., & Stannard, S. R. (2014). The Effects of Carbohydrate Loading 48 Hours Before a Simulated Squash Match. International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 24, 157-165.

Sherman, W. M., Costill, D. L., Fink, W. J., & Miller, J. M. (1981). Effect of Exercise-Diet Manipulation on Muscle Glycogen and Its Subsequent Utilization During Performance*. International Journal Of Sports Medicine2(2), 114. doi:10.1055/s-2008-1034594 

 

 

画像

http://www.glycemicindexlab.com/services/