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Papyrus

考えたことや調べたことを残しておこうと思います。

怪我をしやすい心理・リハビリが長引く心理

リハビリテーションの授業で使っている教科書に『Psychological Aspects of Rehabilitation』という章がありました。テスト勉強のためにじっくり読んでいたのですが、面白いなと思ったのでまとめてみることにしました。

 

思えば今まで、怪我をした選手の身体を競技復帰まで回復させていくことには一生懸命でしたが、あまり心にはアプローチしていなかったなと思います。日本では特に心・メンタルは自分で何とかするものという意識が選手自身にも、周囲にもあるような気がするし、体系立てて怪我人の心をサポートするという取り組みはどこに行ってもあまり見られなかったように思います。

 

今回この記事を書くことで、今後「心と身」両方へアプローチする包括的なリハビリを考えられるようになれれば良いなと思っています。

 

さて、怪我をしやすい人ってどんな人だと思いますか?

筋力、筋持久力、柔軟性、固有感覚、、、身体的要素はたくさんあがりますが、心理的要素はどうでしょう。

 

WilliamsとAndersonのStress and Injury Modelによれば、1) たくさんのストレッサーの経験がある人*、2) ストレス反応を悪化させやすい人、3) ストレスコーピングの手段が少ない人が怪我をしやすいのだそうです。これらの傾向のある人はストレスフルな状況に置かれたとき、そうでないひとよりも、その状況をよりストレスフルな状況であると認知し、注意が削がれ(注意を向ける範囲が狭くなったり、自分の外ではなく内側に注意を向けがちになり)怪我をしやすくなるようです。1

* 例: 主要なライフイベント、日常のストレス、怪我の経験

 

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その他にも不安傾向の高い人 (high trait anxety) や自尊心 (self-esteem) が低い人、苛つきやすい人は傷害リスクが高いと結論づける研究や、ジュニア世代のサッカー選手においてネガティブなライフイベントのストレスが傷害リスクを高めるという研究もあります。2-6

 

16歳から36歳のサッカー選手の傷害発生を4ヶ月間追った研究では、その4ヶ月間で怪我をした人たちは怪我をしなかった人たちと比べると、ストレスコーピングのスキルとして、逃避(behavioral disengagement; ストレッサーと闘うのを諦めたり身を引いたりすること)と自己批判(self-blame; ストレスフルな状況が自分に起因すると考えること)の2つのパターンを頻繁に使っているという結果になりました。5

 

ここに挙げられた特徴を見ると、とてもざっくりとですが、全体的には不安傾向が強くてストレスを溜め込みやすい人や、ストレスに対してうまくコーピングができない人が怪我をしやすい人だと言えるのかなと思います。

 

また、ネガティブなライフイベントが傷害リスクを高めるという結果から、普段はうまくストレスをコーピングできる人でも、大きなストレス(例えば、極端なところで親の死や、もう少し身近なところで失恋など)によって怪我のリスクは上がるだろうと言えると思います。

 

環境がガラッと変わる部活の新入生、特に大学一年生は初めて親から離れて暮らす人も多く、これはとても大きなストレスになり得ます。こういった時期には「いつもどうやってストレス解消してるの?」「何をするのが好きなの?」なんて会話を意識的にしてみるのもいいかもしれません。

 

次は怪我への反応です。

Wiese-Bjornstalらが提唱したIntegrated Model of Response to Sport Injury Rehabilitationでは、『アスリートがその怪我をどのように認知するか、どのような感情的な反応(その怪我に対してどう感じるか)や、行動的な反応(怪我が起きたという状況に対してどう対処するか)をするかは個人的な要素(性格、コーピングスキル、気分、健康状態、食生活、etc.)や環境的な要素(競技、怪我人へのサポート体制など社会的・環境的要因)によって決まる』と言われています。7

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例えば健康状態が変われば、怪我への認知も、抱く感情も、取る行動もそれによって変わるということです。これだけ多くの要素が影響するので、認知・感情・行動はリハビリ期間中、ポジティブになってみたりネガティブになってみたり流動的に行ったり来たりします。この心理的な行ったり来たりのサイクルがリハビリの質や進度に大きな影響を与えるとも言われています。7

 

さて、問題はリハビリ中、ATがどのように選手をサポートできるかです。

NATAに登録しているATCのうち1000人にメールを送り、リハビリ中の選手の心理的側面に関する調査を行った研究があります。8

 

1000人のうちレスポンスがあったのは226人。そのうち182人がSucceessful Coping Behaviorとして挙げた項目は『positive attitude; 前向きな姿勢』、次に多かったのは149人で『adherence and treatment compliance; 指示したことを忠実に実行しようとすること』、3番目は38人で『seeking out social support; 社会的な支援を得ようとすること』、最後に26人で『using psychological strategies; 心理学的な対処方法を利用しようとすること(自分のリハビリのゴールを設定するなど)』でした。8

 

逆にUnsuccessful Coping Behaviorとして挙げられたのは、『poor adherence and attendance; 指示に従おうとしないことやリハビリに来なくなること』が最多で75人、次に『negative attitude; 後ろ向きな姿勢』が73人、3番目が『avoidance and withdrawal; ATやコーチ、チームメイトを避けるようになること』で70人、4番目は『poor effort and motivation; 努力やモチベーションが欠けていること』で69人、最後は『negative affect; ネガティブな感情(怒り、落ち込み、気分の上がり下がりなど)』で63人でした。8

 

この調査の他にも『rehabilitation and treatment compliance; リハビリやトリートメント中に指示に従うこと』が怪我というストレスにうまくコーピングすることができた選手の重要な特徴であり、『lack of adherence or poor compliance; 忠実に指示に従わないこと』がうまくコーピングできなかった選手の1番の特徴であったとする研究もあります。9,10

 

つまりリハビリ中、選手をsuccessfullな方向へ導くためには、いかに前向きにリハビリやトリートメントに従事させるかが大きな鍵になるということでしょう(なんかとても当たり前のことを言っている気がしますが...)。

 

上の研究の中で有効であるだろうと言われていた方法は、ATがリハビリのプロセスを選手によく教育して理解させること。それから、ATがリハビリのエクササイズの目的、競技復帰のためにどのように役に立つのかを明確に説明すること、リハビリのエクササイズの種類に幅を持たせること。8

 

他には、リハビリのエクササイズを一緒に行ってくれるバディを見つけること、同じ怪我からリハビリを通して競技復帰を果たした仲間とコミュニケーションを取らせる、など。8

 

もしもこれらの対策を用いても、ほとんど意味がない(例えばリハビリに来ない、来ても真剣に取り組んだり指示に従う意欲を見せない)場合には、より根深い問題のサインかもしれないのでメンタルヘルスの専門家に相談することを考えたほうが良いかもしれません。8

 

また、選手が怪我をしたというストレスを受け入れられていない状態や受け入れるのに苦労している状況では、チームの活動になるべく多く参加させることや、リハビリの短期目標を一緒に設定することなども有効だと言われています。

 

これは、授業中に先生がおっしゃったことですが、モチベーションの上がらない時にはSNSに自分のリハビリの写真を載せてみるようにアドバイスをするそうです。多くの場合、友達が応援のコメントをくれますね。「社会的な支援」というと大袈裟に聞こえますが、確かに現代ではSNSは支援の言葉をかけてもらうのに一番身近な場所かもしれません。

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話は変わります。『強いメンタル』ってなんでしょう?

私は調べてみて、『ストレスに耐える力』ではなくて『ストレスを解消する力』だと思ったんです。性格や日々のストレスやライフイベントのストレスは変えようと思っても難しい場合が多いと思います。不安傾向の強い人はやはりずっとそういう傾向にある気がするし、日常のストレスに関しても、「あ!卵と牛乳買い忘れたー!!」さえちょっとしたストレスです。ましてや家族の死などの折にストレスを感じずにいられる人はいないでしょう。

 

ストレスを感じることが悪いことなのではなく、ストレスにうまく対処する(コーピングする)スキルを持っていることが『メンタルの強さ』なのではないでしょうか。これからアスリートと関わるとき、コーピングを促すことが私のひとつの役割になるのかなと思います。

 

スポーツでの『メンタルの強さ』はここ一番というときに実力を発揮出来るとこや、ストレスフルな状況でも強気に立ち向かえること、というイメージがありますが、これらは『一心不乱』な心の状態で達成されると思います。ストレスによって怪我のリスクが上がるメカニズムが、ストレスによって注意が妨げられることで怪我が起こりやすくなる、ということを考えると、ストレスをうまくコーピングできず蓄積した状態はやはりスポーツにおける『メンタルの強さ』にも影響するのかなと思いました。

 

 

参考文献

1. Williams JM, Andersen MB. Psychosocial antecedents of sport injury: Review and critique of the stress and injury model. JOURNAL OF APPLIED SPORT PSYCHOLOGY. 1998;10(1):5-25.

2. Petrie TA. Coping Skills, Competitive Trait Anxiety, and Playing States: Moderating Effects an the Life Stress-Injury Relationship. Journal of Sport and Exercise Psychology. 1993;15(3):261-274.

3. Smith AM, Stuart MJ, Wiesebjornstal DM, Milliner EK, Ofallon WM, Crowson CS. COMPETITIVE ATHLETES - PREINJURY AND POSTINJURY MOOD STATE AND SELF-ESTEEM. MAYO CLINIC PROCEEDINGS. 1993;68(10):939-947.

4. Johnson U, Ivarsson A. Psychological predictors of sport injuries among junior soccer players. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2011;21(1):129-136.

5. Ivarsson A, Johnson U. Psychological factors as predictors of injuries among senior soccer players. A prospective study. Journal of Sports Science & Medicine. 2010;9(2):347-352.

6. Junge A. The influence of psychological factors on sports injuries - Review of the literature. AMERICAN JOURNAL OF SPORTS MEDICINE. 2000;28(5):S10-S15.

7. Wiese-Bjornstal DM, Smith AM, Shaffer SM, Morrey MA. An integrated model of response to sport injury: Psychological and sociological dynamics. JOURNAL OF APPLIED SPORT PSYCHOLOGY. 1998;10(1):46-69.

8. Clement D, Granquist MD, Arvinen-Barrow MM. Psychosocial Aspects of Athletic Injuries as Perceived by Athletic Trainers. JOURNAL OF ATHLETIC TRAINING. 2013;48(4):512-521.

9. Larson GA, Starkey C, Zaichkowsky LD. Psychological aspects of athletic injuries as perceived by athletic trainers. SPORT PSYCHOLOGIST. 1996;10(1):37-47.

10. Arvinen-Barrow M, Hemmings B, Weigand D, Becker C, Booth L. Views of chartered physiotherapists on the psychological content of their practice: A follow-up survey in the UK. JOURNAL OF SPORT REHABILITATION. 2007;16(2):111-121.