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PAPYRUS

考えたことや調べたことを残しておこうと思います。

アスレティックトレーニング教育

 

今回はアスレティックトレーニング教育について書こうと思います。 

私は日本でも一応アスレティックトレーニングを勉強しました。それなのになぜ卒業後すぐにアスレティックトレーナーとして働くという道を選ば(べ)ず、勉強を続けることにしたかというと、日本で勉強した2年間でプロのアスレティックトレーナーとして働く自信をつけることができなかったからです。

 

アメリカでも学部のプログラムを修了し資格を得た多くのアスレティックトレーナーが大学院へ進学することを考えると、アメリカでもあまり状況は変わらないのかな、と思えなくはありませんが、私は決定的な違いがあるように感じます。

 

それは学部を卒業した直後から、大学院に進むにせよ、インターンシップをするにせよ、アスレティックトレーナー(大学院の場合GA)として働くことで生活ができる程度のお金をもらえる場合が多いということです。

アメリカではアスレティックトレーナーという職業の認知度が日本より高いということもありますが、これはアスレティックトレーニング教育プログラムや資格への世間からの信頼度が高い証拠ではないかとも思います。

 

最近では「アスレティックトレーニング教育」も科学の対象となり、アスレティックトレーニング教育プログラムも研究や調査の結果を踏まえて、絶えず改良が加えられているのを生徒である私自身も感じます。

 

今回はアスレティックトレーニング教育に関してどのような研究・調査が行われているのかをいくつか例をあげながらまとめられたらと思います。

 

先に、私は日本の大学での勉強を通してプロとして働く自信を得られなかったと書きました。アメリカのアスレティックトレーニング教育プログラムにおいても、学生がプログラムを修了する際にプロとして働く準備がどれほどできているかということは大きな関心事です。

 

アスレティックトレーニング教育プログラムを修了する大学四年生にインタビューをし、どのような要素がプロとして働くための準備状態に影響を与えたかを調査した研究1がありますが、この研究では現場実習の多様性 (diversified clinical experience) と良いメンターを持つこと (strong mentorship) が鍵だと述べられています。

 

様々なスポーツ現場で実習することにより、自分自身のスキルや能力に自信を持てるようになったり、アスレティックトレーナーという職業を多角的に理解できるようになるようです。1また、多様な経験を積むことで自分の長所や関心を理解し、自分が働きたい環境を明確化できたという声もあります。1卒業を控えた四年生の多くは自分が働きたい環境に必要なスキルや知識を求めて卒業後の進路(大学院、インターンシップなど)を決める2ということもありプログラム在籍中に幅広い経験から自分を知ることができるのは良いことなのかもしれません。

 

ここでの「メンター」とはアスレティックトレーニング教育プログラムの教授やプリセプター(実習での指導者)のことを指します。プログラム中、メンターはアスレティックトレーナーとしての役割や責任の理解を深めてくれます。1また、プリセプターは学生のロールモデルとなり、学生はプリセプターが他のスタッフとの衝突やワークライフバランスの問題にどのように対処するのかを見ながら職場での振る舞いを学びます。1,3

 

従って、この研究の結論は、プリセプターと学生間のメンターシップを促進することと、学生を多くのスポーツ現場で学ばせることが、学生のアスレティックトレーナーという職業への理解や自分のスキルや知識への自信を高めることにつながる、というものでした。1

 

日本での活動を振り返ると、私が学生トレーナーとして所属したのは女子バレーボール部のみで、現場実習の多様性はなかったと言って良いと思います。そのチームの中でのメンターは博士課程に所属していた理学療法士の方でした。監督の意向で、その方が中心というよりは、私が中心となって色々決めて、その方は私のアドバイザーのような立場で私のことを育ててくださいました。

 

確かに、バレーボールにしか関わらなかったので、そこで出会わなかった怪我、特に頭頸部の怪我には特に自信がないし、今のように毎日プリセプターと会話ができて評価やリハビリのフィードバックを貰えたらもっと自信がついていただろうなとも思います。

 

ですが、日本での経験が駄目だったとか最悪だったとは今となっては全く思いません。現在アメリカで2箇所の現場で実習をしましたが、やはりセメスター毎に実習先が変わると、大きな怪我を受傷から競技復帰までみる機会がなかったり、選手との信頼関係ができた頃に離れなければならないという側面もあります。日本(私が卒業した日本の大学)では学生トレーナーはそのチームに所属し、目標を共有し、長くそのチームと向き合います。私自身のチームスタッフとしての心構えはチームの一員として選手やコーチと同じ熱量で闘った経験から築いたものだと私は思います。

 

また、アメリカでは学生はとても手厚く守られています。資格のあるアスレティックトレーナーの監督なしでは活動ができないし、何かあったとしても基本的には監督しているアスレティックトレーナーの責任です。日本では練習や試合をカバーしているのはその部に所属する学生トレーナーだけ、なんていうのはざらにあることで、「自分がやらなければ」という状況に置かれた日本の学生トレーナーの本気度・アツさはアメリカにはあまりないようにも感じます。

 

制度的に整っているのは絶対的にアメリカですが、私が日本で得た経験も大切なアスレティックトレーナーという職業の一側面だと思うのです。

 

次はプログラムを卒業した直後のGA(graduate assistant)の評価に関しての研究4です。 GAは大学のためにパートタイムで働くことで授業料が免除され、給料が支給される大学院生のことです。学部でアスレティックトレーナーの資格を取った人が大学院で勉強を続けながらGAとして大学のスポーツチームやその周辺の高校などで働くのは、全ATCの7割以上が修士号を持っている今、メジャーな進路です。学部を卒業したあと、すぐに大学院に進学する人が多いので、GAは資格取得後、アスレティックトレーナーとしての最初の仕事である場合が多いと言えます。

 

8年以上GAを監督した経験のある21人のアスレティックトレーナーにインタビューをすると、近年のGAの知識レベルは今までになく高いことを実感しているが、自主的に働きかける能力が欠けているという課題が浮かび上がりました。

 

1992年の調査5でもリハビリ、組織づくりや運営、アスリートのカウンセリング、コーチ・親・アスリートへの教育が課題としてあげられていましたが、依然として組織作りや運営、幅広いコミュニケーションが新米アスレティックトレーナーの課題としてあげられる4ということは、アスレティックトレーニング教育プログラムではこれらの経験を在学中に学生が得られるよう強調していかなければならないのかもしれません。

 

先にアメリカの学生は守られていると述べましたが、アメリカでは自分から積極的に行動しないと学生がコーチとコミュニケーションを取る機会も限られているし、アスレティックトレーナーが選手を管理するという視点も学生では持ちにくいのではないかと感じます。

 

私もまだ学生で偉そうなことは言えませんが、生徒側もこのような視点を持つことはとても大切だと思うのです。守られている環境に安住せず、自分が雇われていると思って実習をすれば、もっと働く上で重要な力をつけられるだろうなと思います。

 

私は将来、日本の大学でアスレティックトレーナーを教えたい・日本のアスレティックトレーニング教育を充実させたいという思いがあります。確かにアメリカのアスレティックトレーニング教育はとても進んでいますが、ここに書いたように課題もまだあります。大切なのは課題を把握し「より良い」を求めて議論をすることではないでしょうか。

                                       

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参考文献

1. Mazerolle SM, Benes SS. Factors influencing senior athletic training students’ preparedness to enter the workforce. Athl Train Educ J. 2014;9(1):5-11.

2. Mazerolle SM, Gavin KE, Pitney WA, Casa DJ, Burton L. Undergraduate Athletic Training Students' Influences on Career Decisions After Graduation. J Athl Train. 2012;47(6):679-693.

3. Mazerolle SM, Borland JF, Burton LJ. The Professional Socialization of Collegiate Female Athletic Trainers: Navigating Experiences of Gender Bias. J Athl Train. 2012;47(6):694-703.

4. Thrasher AB, Walker SE, Hankemeier DA, Pitney WA. Supervising Athletic Trainers' Perceptions of Graduate Assistant Athletic Trainers' Professional Preparation. Athl Train Educ J. 2015;10(4):275-286.

5. Weidner TG, Vincent WJ. Evaluation of professional preparation in athletic training by employed, entry-level athletic trainers. J Athl Train. 1992;27(4):304-310.