PAPYRUS

アメリカの大学院でアスレティックトレーニングを学んでいます。考えたことや調べたことを残しておく目的でブログを書いています。

高校におけるアスレティックトレーニング

夏にコネチカット大学のKorey Stringer Institute (KSI) で働かせてもらって以降、高校でのアスレティックトレーニングについて考える機会が増えました。

 

KSIでは主にATLAS (Athletic Training Locations and Services)というプロジェクトに参加させていただき、全米中の高校のアスレティックトレーナーの雇用状況を調査するお手伝いをしました。インターンシップの体験記はこちらからご覧いただけます。

 

私が所属する大学院のプログラムではリサーチプロジェクトが必須ですが、私はATLASのデータを引き続き使わせていただき、アスレティックトレーナーの雇用状況を地理的な条件(都会、郊外、田舎など)で比べる予定です。

 

サンクスギビング休みのこの一週間、リサーチプロジェクトのために文献展望をつらつらと書いていましたが、その過程で思ったことをこのブログにも残しておこうと思います。

 

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さて、本題です。日本にいたときに「日本のアスレティックトレーニングは遅れている。アメリカではもう高校にもアスレティックトレーナーがいるのは当たり前だ」という話を何度も聞いたことがありました。

 

確かに学部や大学院のアスレティックトレーニングプログラムには当たり前のようにいくつも高校の実習現場があり、アスレティックトレーナーの活動の場のひとつとして高校が根付いているのは紛れもない事実です。

 

ですが、ATLASプロジェクトに関わった経験を踏まえると、高校にアスレティックトレーナーがいる状況はまだアメリカでも「当たり前」ではないように思います。

 

2015年のリサーチでは、70%の公立高校、58%の私立高校で何らかの形でアスレティックトレーニング・サービスを提供しているとされました。1,2

 

70%と言うと高いようにも感じますが、フルタイムのアスレティックトレーナーを雇っているのは公立高校で37%、私立高校で28%です。1,2

 

「高校にアスレティックトレーナーがいる」と言うと、いつでもアクセス可能な常駐のアスレティックトレーナーがいるような印象を受けますが、実際にはパートタイムやクリニックから派遣されているアスレティックトレーナーも多いのです。

 

個人的な印象ですが、この点では「部活に週・月に数回来てくれる鍼灸師がいる」などの日本の高校でもあるあるな状況と大差はないようにも感じます。

 

アメリカもまさに「高校にフルタイムのアスレティックトレーナーを!」というプロモーションの最中なのです。

 

高校でのアスレティックトレーナーの雇用の始まり

文献展望を書いていて「なるほど」と腑に落ちた点がありました。それは高校でのアスレティックトレーナー雇用のプロモーションの始まりです。

 

そもそもアメリカでアスレティックトレーナーが医療従事者であるという前提は、1990年にAmerican Medical Association (AMA) がアスレティックトレーナーは医療従事者であるということを認めたことから始まります。

 

アスレティックトレーナーがスポーツに関連した傷害や疾患の予防やマネジメントに関する教育・トレーニングを積んでいることから、1998年にAMAはさらにアメリカの全高校がアスレティックトレーナーによるサービスを部活動に参加する全生徒へ提供することを強く推奨する文書を発表しました。3

 

部活動のメディカル・カバレッジの問題は、部活動の参加者が急増した1970年代前半から認識されており、古くは1980年代から医療、部活、高校経営等の専門的な団体の代表者が集まって高校のメディカル・カバレッジはどうあるべきかという議論がされてきました。1985年には「Appropriate Medical Care for Secondary School-Age Athletes Consensus Statement」という文書が発表され、それ以降、この文書は高校の部活生への適切なメディカル・ケアのガイドラインとして認識されています。4

 

ガイドラインの内容に関しては、少し長くなってしまうのでまた別の記事等でまとめられたらと思いますが、文献(英語)はこちらで読むことができます。

 

このガイドラインでは「アスレティックトレーナーを雇うべきだ」とか「アスレティックトレーナーの雇用を高校で促進するべきだ」などということが述べられている訳ではなく、あくまで、高校の部活動において適切なメディカル・ケアを提供するにはどのような知識・能力をもつ人材が必要かということを定義づけています。

 

1990年以降、アスレティックトレーナーの医療従事者としての認識の高まりも助長し、部活動の現場でのアスレティックトレーナーの価値が注目され始め、雇用が促進されるようになったのです。

 

つまり、部活動のメディカル・カバレッジに必要な人材を定義した結果、アスレティックトレーナーの持つ知識や能力がその多くの需要を満たし得ることがわかり、アスレティックトレーナーの必要性が認識されたということではないでしょうか。

 

アメリカでも、もともと部活動とアスレティックトレーニングがセットで考えられていた訳ではなく、部活動に適したメディカル・ケアを模索した結果、アスレティックトレーナーの雇用に繋がったという経緯には先人の努力を感じると同時に、日本の部活動への希望を見出すことができるように私は思いました。

 

日本でも高校でアスレティックトレーナーを雇うべきだという意見を時々耳にしますが、日本の現状を考えるとこれは必要なステップをいくつも飛ばしてしまっているようで、あまり現実的には思えません。

 

アスレティックトレーニングというひとつのプロフェッションに拘りすぎず、「部活動の安全性を高めるためにはどうすべきか」という職域を超えた大きな問いに対して、全国の高校が適応可能な小さな、けれど確実な変化を求めていくことで、明確な方向性が定められていくのではないでしょうか。

 

その方向の先に、「高校でのアスレティックトレーナーの雇用」が見えてくれば、私はアスレティックトレーナーを目指すものとしてとても嬉しく思います。

 

参考文献

1. Pike AM, Pryor RR, Vandermark LW, Mazerolle SM, Casa DJ. Athletic Trainer Services in Public and Private Secondary Schools. J Athl Train. 2017;52(1):5-11.

2. Pryor RR, Casa DJ, Vandermark LW, et al. Athletic Training Services in Public Secondary Schools: A Benchmark Study. J Athl Train. 2015;50(2):156-162.

3. Lyznicki JM, Riggs JA, Champion HC. Certified athletic trainers in secondary schools: report of the council on scientific affairs, american medical association. J Athl Train. 1999;34(3):272-276.

4. Wham GS, Saunders R, Mensch J. Key Factors for Providing Appropriate Medical Care in Secondary School Athletics: Athletic Training Services and Budget. J Athl Train. 2010;45(1):75-86.